アラフィフ作家の迷走生活 第22回

夏には奔放になる、というのは昔の話

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は猛暑で外に出ることが億劫だからこそおすすめしたい、インドアな過ごし方について。森さんが海外のホテルで初めて体験したこととは?

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2018年9月1日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています

「誰かと会ったり話すのが面倒なので、頭で恋しています」

「猛暑だし、セックスすると汗をかくので、自分以外の肉体は要らないです」

という人が増えているように思う。昨今の異常な暑さでは、それも当然かもしれない。

今それをやると間違いなく熱中症で倒れる

昔々、夏休みに毎朝ラジオ体操に勤しんでいた自分は、脅威に値する。昭和生まれの方なら馴染みがあるだろうが、小学生は夏休みになると近所の公園や空き地に集合し、ラジオ体操するのが慣わしだった。今、それをやると間違いなく、何人かが熱中症で倒れるだろう。

猛暑の中、プールや海に出かける人々を私は本気で尊敬する。低血圧で紫外線アレルギーの私にとって、35~40度の野外に長時間さらされるのは自殺行為なのだ。

以前、子持ちの友人が「子供が絵日記を書くから、それ相当の観光地に連れて行かなきゃなの」とぼやいていたが、やむを得ない事情だとしても実行に移す彼女に、私は羨望のまなざしを向けた。ちなみに子供にとってそれ相当の観光地というのは、伊豆や熱海や軽井沢(たとえ星野リゾートに泊まろうとも)ではダメで、北海道や沖縄、ともすれば海外(しかもアジア圏以外)でなければならないという。「もうさ、ハワイだよ、とかいってスパリゾートハワイアンズに行くとか」と案を出してみたが、勿論冷たい目でスルーされた。

私達大人は、妄想にお金を使うことができる。自宅にいながらVRでハワイを楽しむことだって可能だ。クーラーをガンガンきかせてハワイを嗜む。ロコモコやスパムむすびやマラサダをデリバリーし、ついでにイケメンの出張マッサージ師なんかも依頼したりして。レッツ自宅リゾート化、レッツ脳内恋愛。日本から春と秋が消えつつある昨今、これはすでに流行りはじめている。たぶん。

セブ島のホテルで初めての体験

数年前、母と叔母と私の3人でセブ島に旅行したのだが、あいにく台風が直撃してしまい、ほとんど観光ができなかった。母と叔母は何度もセブ島に来ていたが、初めてだった私は落胆し、ホテルで満喫できるリゾートを考え抜き、初めて「出張マッサージ」を体験したのだ。

滞在型ホテルに宿泊していたので、メイドや通訳が付き、リビングダイニングの他に広々した部屋数が4つ、バスルームとトイレが2つずつ、ベッドはクイーンサイズ、勿論プライベートプール付き、という即席なセレブぶりだった。で、調子にのって現地の「男性マッサージ師」を呼んでみたのである。

日本でオイルマッサージは経験済みだが、女性セラピストオンリーだった。海外ということで、私のタガが外れたのか男性をチョイスしてみたのだ。ええ、当然、母と叔母が買い物に行っている時間をねらってのこと。ふたりには「女性マッサージ師を指定した」と伝えた。アラフィフの私だが、母や叔母の前ではうぶな子供のふりをしたいのである。そんなわけで私は異国の地でたっぷり2時間、見知らぬ男性と裸で過ごしたのだ。

そっと触れ合うだけでもいい

この連載で私はしつこいほど裸について語っているが、身体の感度を高めておいて損はない。だから嫌悪感を覚える人もいるかもしれないが、とりあえず知っていてほしいのだ。これは女性だけではなく男性にも言えることで、何もセックスに限ったことではない。そっと触れ合うだけでもいいのである。男性の場合、手っ取り早く風俗という選択肢があるが、女性はまだまだ難しい。最近は性感マッサージ店も増えているようだが、不安要素も高いだろう。その点、海外だと対男性のマッサージも多く、施術を受ける側が紙ブラと紙ショーツなしのほぼ裸というのもめずらしくない。

で、私が依頼したアジア系のイケメンマッサージ師だが、年齢は30代前半、細マッチョ、雰囲気イケメン、と日本人女性が期待する雛形みたいな男性だった。「オキレイデスネ」、「ハダ、スベスベ」など、リップサービスだとわかっていても、片言で言われるキュンとする。ラグジュアリーな空間で若い男性に身体を触れられていると、自分が叶恭子さんになったような錯覚を起こす。

背面に男性の手が触れるだけで、私にはその人と相性がいいか悪いか、すぐにわかる。人間性とか、そんなのはどうでもいい。一期一会の皮膚の相性だ。「相手はプロなんだから、相性なんか関係ないでしょう」なんて、単純なものではない。

男性の大きくて熱っぽい手が思い出させてくれるもの

今回は外国人男性だから、無口で黙々とマッサージしてくれたのだが、例えば日本で男性にマッサージを受ける場合も、会話はしないほうがいい。マッサージに費やす1時間ないし2時間はそっと目をとじ、ひたすら自分の身体だけに意識を向けてほしいのだ。私は日本では、着衣無しで男性からマッサージの施術は受けたことがないが、中国式にしてもタイ古式にしても、できるだけ会話はしないことにしている。

男性の大きな手が身体をくまなく行き来するのを、わきの下や首すじ、鼠蹊部などのデリケートな窪みを押していくのを、甘い妄想とともに享受していく。言うならば、プレセックスくらいに思っている。男性の大きくて熱っぽい手は、私の身体がいかにやわらかくて尊いものかを、思い出させてくれるから。

いやいや、本当なのですよ。だから私は、セックスの相手がいないとか、気分的にセックスしたくないとか、そういう時こそ人の手に触れに行く。だって、いざセックスしたくなった時に自分の身体が「鈍感」になっていたら、嫌じゃないですか。相性のいい相手を見極められない皮膚になっていたら、本末転倒じゃないですか。「どうしよう、好きな人(あるいはセックスしたい相手)ができた。でも心の準備ができていない」などと、焦ることもなくなる。身体の準備ができていれば、心なんておのずとひらくものだから。

インドアアクティブのすすめ

見ず知らずの相手に妄想を抱くなんて恥ずかしい? でも、好きになる人やセックスしたくなる相手も、もともとは見ず知らずの相手ですから。それに、恥ずかしい気持ちって、どこかくすぐったくていやらしいものじゃないですか。それこそ、脳内羞恥プレイでもいいかもね、と思うのです。

猛暑にうんざりして、夏休みなのに外出できない、したくない、と嘆くあなた。ナイトプールやクラブ遊びという選択肢もあるけれど、「でもやっぱり暑いよね」と躊躇しているあなた。いっそのこと夏=野外というイメージを払拭して、部屋やホテルにこもってはいかがだろうか。

脳内をエロで充満させ、健康的に引きこもりを楽しんではどうだろう、と提案する。女性向けのAVを観まくってもいいし、女性同士でAV男優さんの品定めをしてもいい。「私はこの手技、苦手なんだよね」だの「足の指を舐められるのって、たまらないよね。彼氏、これやってくれないの」だの、普段はなかなかおおっぴらにできない性の悩みを分かち合うのもいい。

夏には身も心も奔放になる、というのは昔の話だ。もはや昼間だけではなく夜も熱中症の危険性がある昨今、奔放になるのは心だけにし、身体は秋や冬に開花させようじゃないですか。これからの夏は、インドアアクティブを推奨したいのである。

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