アラフィフ作家の迷走生活 第10回

23歳も年上の男と付き合った時のこと

23歳も年上の男と付き合った時のこと

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は森さんが20代前半の時に経験した23歳年上との恋愛のお話です。森さんは当時を振り返り、何を思うのでしょうか。

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2018年3月17日に公開されたものに、一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

20代初めの頃、23歳年上の彼ができた。私は昔から父親が苦手だったので、父親を彷彿とさせるような年上男性にも嫌悪感を示していた。なので、自分としてはそんな男性と付き合うなんてもってのほか、だったのだが。

自分よりはるかに年下の女性を求める男性の心理は何なのか。父性本能または業なのではないだろうか。故に、従順な女性よりはむしろはねっかえりというか、ひねくれていたり反抗的だったりする女性に惹かれるように思う。当時の私のような女性に。

「君には才能がある」と言われて

父親が苦手だった私は、実際には父親の愛を求めていたのだろう。23歳年上の男性(仮にフミオとでもしておこう)はインテリだったので、バカな私をあれやこれやと教育した。

ぶっちゃけてしまうと、フミオは私の師匠だった。10代の後半で、漫画家を目指していた私は夢破れ、無謀にも小説家に鞍替えした。20歳を少し越えた頃、小説の基礎を学ぼうと通い始めた講座の壇上に、フミオがいたのである。

「君には才能がある」って、すぐに引き抜かれたんですよ。ヤラれるに決まっているというのにね、くっついていった在りし日の私。うまい話に騙されてしまうのは、1%の可能性を信じてしまうせいだ。特殊な才能の在処なんて、神様しか知らない。でももしかしたら、私の中にもあるかもしれない。私は田舎者でまっさらで、素直だった。

やがてフミオのマンションに呼ばれ、ほぼ半同棲生活に突入した。「バカだ」「ブスだ」と散々私をけなすくせに、「俺は長生きしない」といきなり悲惨モード炸裂というかナルシス臭ぷんぷんさせたりと、バカな私にはちんぷんかんぷんだったフミオ。そのくせ唐突に、

「俺がおまえを女にしてやる」

とささやく。真顔で。

レ、レディコミ?

「ぷっ!」と本気で失笑しそうになったのだけれど。口にも態度にも出さない最低限の賢さ、いや、あざとさが私にはあった。

とにかく、今でいうモラハラ寸前の行為もされたかもしれない。しかし次第に私も、フミオの言うことに従うようになっていた。父親に叱られたり、あるいは可愛がられたりした経験がほとんどなかった私にとって、フミオのアメとムチのバランスは、絶妙に心に刺さったのだ。

彼が20歳以上も年下の私を選んだ理由

私には彼というより父親のような存在だったフミオだが、フミオにとって私は決して娘ではなかった。

前述したように、男性が自分よりはるかに年下の女性を求めるのは父性本能が働いている場合が多いと思うが、とりわけ20歳以上も年下の女性を選ぶ場合、男性は女性に対して夢を重ねるのではないだろうか。男性は総じてロマンチストだから、年下の女性にかつての自分を見出し、恋をしたい欲望が沸くのかもしれない。あるいは、自分の作品として年下女性を成熟した女性に作り上げるとか。

そういった恋愛は、女性の自我が目覚めたと同時に終わる。私も、フミオからおしえてもらうことが何もなくなったと悟った時に、フミオが邪魔になったのだから。

「性の目覚め」などと真顔で言うと、皆さん「ぷっ!」と失笑するでしょうか。若い頃なんて特に性=エネルギーだから、いたずらに開眼させられた私は、枯れかけた樹よりも新芽のような相手を欲するようになったのだ。

別離の気配は、決して突然にはやってこない。だいたいがお互いほぼ同時に、かすかな不穏さで察しているものだが、より別れたくないほうが相手に未練をぶつけてくる。私もけっこうな暴言を吐かれたし、それこそ馬鹿のひとつ覚えみたいに「バカだ」「ブスだ」と罵られた。そのくせ「おまえがいなければ生きていけない」とすがりついてくる。

恋や夢といったかりそめに、命を懸けてしまうのは実は男性のほうで、それを失うと心からは一滴の水もなくなってしまうのではないだろうか。だって女性は、恋人や夫に先立たれ失意のどん底にいても、泣きながら葬式饅頭を頬張れるのだから。

フミオが気の毒だと思う人もいるかもしれない。繰り返すが、当時私は20歳そこそこだった。23歳年上のフミオはまだ40代で、枯れ始めたとはいえ剪定や肥料を工夫すれば十分に現役復帰できる。これが例えば、私が40代、フミオが60代だったとしたらもっと悲惨だっただろう。

先日、アラフィフの男女数人で飲んだのだが、60歳近くになると男性はこぞって下の心配をしはじめることを知った。シモではなくシタだ。つまり男性器。

そっちの元気と本体の自信は、直結しているのだろうか。

恋と夢と、まだまだ女性とヤレる俺、みたいな。ロマンといえばロマンである。

女性のほうは、恋も夢も必ずしもセックス縛りじゃないよ、と思っているのだけど。

そんなわけで、私はひとり、フミオを偲び、しみじみとした。

お互い若くてよかったかも、と。

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴る連載です。

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