月経前不快気分障害「PMDD」を治したい/第1回

PMSのイライラ…月経前不快気分障害「PMDD」を知ってる?【精神科医に聞く】

PMSのイライラ…月経前不快気分障害「PMDD」を知ってる?【精神科医に聞く】

月経の3日~10日前から始まる腹痛や胸の張り、腰痛、むくみ、めまい、憂うつ感、イライラなどのさまざまな身体的・精神的な不調に思いあたる人は多いでしょう。これらの不調を総称して「月経前症候群」(PMS:Premenstual Syndrome)ということが知られています。

そのPMSの症状でもっともつらいのは、「鎮痛剤では治らない、イライラや憂うつ感」だという読者の悩みが多数届いています。女性医学に詳しい精神科医の蟹江絢子(かにえ・あやこ)医師によると、「精神的な症状はいま、『月経前不快気分障害:PMDD』といわれ、精神科領域の病気であるとされています」とのことです。そこで、PMDDの特徴、治療法、セルフケアについて、連載にてお話しを伺います。

第1回はまず、PMDDがどのような病気なのかについて聞きました。

蟹江絢子医師

月経前に精神的不調が著しく強い「PMDD」

——PMSの諸症状の中でも、イライラや憂うつ感など、精神的症状に関わる「PMDD」という病気があるのですね。

蟹江医師:精神的不調が著しく強く苦痛であり、仕事や日常生活、対人関係に支障が出るといった場合は、「月経前不快気分障害PMDD :Premenstrual Dysphoric Disorder)」という病気の可能性があります。

PMDDとは、アメリカの精神科学会が1994年につけた病名で、精神疾患のひとつです。2013年には「抑うつ障害群」のひとつと定義しています。このころから日本でも病気として知られ始めてきましたが、現在でもまだ、一般に病名やその考え方、治療が浸透しているとは言えません。医療関係者でも治療法についてはあまり詳しくない人もいます。

PMSは月経がある女性の80%に、PMDDは3~8%に見られると推定されています。

涙が止まらない、お皿を投げる

——「精神的不調が著しく強い」とは、どういう状態をいうのでしょうか。

蟹江医師:イライラや憂うつ感を抑えることができない精神状態のことをいいます。事例として、「通勤電車で、憂うつ感で涙が止まらなくなる」「月経前になるとイライラして、きまって夫と口論になり、お皿やコップをキッチンのシンクに投げた」「イライラしてスマホを壊してしまった」と話す人もいます。

著しいイラだたしさ、抑うつ気分、不安などがあり、仕事や生活に支障が出ることもあるでしょう。ただ、そうした症状をPMDDだと気づかずに、自分の性格だと思い込む人も多いようです。

——PMDDは医療機関ではどのように診断されるのですか。

蟹江医師:アメリカの精神科学会が作成した「診断基準」を用います。そのうち、自分で確認できるポイントを次に示しておきます。PMSではない時期にチェックしてみてください。

「ほとんどの月経周期において、月経開始前の約1週間」に、次の(1)〜(4)のうち1つ以上、かつ(5)〜(11)のうち1つ以上、かつ(1)〜(11)で5つ以上にあてはまる。また、「月経開始数日以内に軽快し始め,月経終了後の週には最小限になるか消失する」、そして、「それらの症状が苦痛で、生活、仕事、学校での活動や対人関係をさまたげる」場合にPMDDと診断される。

(1)著しい感情の不安定性(例:気分変動:突然悲しくなる、涙もろくなる、拒絶に対して敏感になる)
(2)著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
(3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
(4)著しい不安、緊張、「高ぶっている」とか「いらだっている」という感覚
(5)通常の活動(例:仕事,学校,友人,趣味)における興味の減退
(6)集中が困難だと自覚する
(7)倦怠感、疲れやすい、気力の減退を自覚する
(8)食欲の著しい変化、過食や特定の食物に渇望する
(9)過眠または不眠
(10)圧倒される、または制御不能という感覚がある
(11)ほかの身体症状、例えば、乳房の圧痛や腫れる感覚、関節痛、筋肉痛、体が膨らんでいる感覚、体重増加

PMDDの治療には何科へ? 薬は?

——このチェックポイントの特徴からは、うつ病や適応障害といったメンタルの病気の可能性もあるのではないですか?

蟹江医師:ありますが、PMDDの場合は診断基準にあるように、症状が出現する時期が月経の約1週間前ぐらいであり、月経開始後は軽減、消失します。そこがうつ病や適応障害とは違うのですが、併存する可能性があります。

——PMDDは精神疾患とのことですが、婦人科ではなく精神科を受診すればいいのでしょうか。

蟹江医師:PMDDでは精神科を受診するのが適切ですが、事前に、精神科の中でもPMDDに取り組んでいる医療機関かどうかをウエブサイトや電話で確認して選びましょう。また、精神的症状以外に、腹痛や胸の張りなどの身体的症状も同じぐらいにつらい場合は、産婦人科、婦人科、レディースクリニックにもあたり、同様にその医療機関がPMDDに取り組んでいるかを確認しておきましょう。

——「PMDDという病気があると聞いて、気が楽になった」という女性は多いです。

蟹江医師:問診で、「PMDDという病気がある」ことを知る、あるいは診断されるだけで、症状に対応できるようになる場合があります。精神的不調が性格に起因するのではなく、月経前特有の病気であると認識すると、コントロールできるものだと思えたり、周囲からサポートを得られたりすることもあります。

PMSもPMDDも原因は明確になっていませんが、エストロゲン、プロゲステロン、GABA(ギャバ:ガンマアミノ酪酸)、セロトニン、自律神経などが関係しているだろうと推察されています。

情緒不安定を自分の性格のせいだととらえたり、自分を責めたりすると、さらに症状が強くなる可能性もあります。PMDD、PMSを改善することで、家族や身近な人、職場の人との衝突が減ったと話す人もいます。この病気をぜひ知っておいてください。

聞き手によるまとめ

PMSの中でも、憂うつ感やイライラの精神的苦痛が著しい病気をPMDDといい、診断基準や治療法があるということです。これまで、月経前の精神状態は性格の問題だ、数日が過ぎるのを待つしかないと思っていた人は多いのではないでしょうか。PMDDという病気かもしれず、そうすると改善への希望がもてます。次回・第2回は、PMDDのメカニズムと治療法について紹介します。

(構成・取材・文 阪川朝美/ユンブル)

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