「fracora(フラコラ)」は、Youtubeチャンネル「生命科学アカデミー」に大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保先生をお招きし、「オートファジーの「秘密」とは?」ほか、全6回を公開しました。
細胞一つ一つが元気になることで、病気や老化を防ぐことができるということが昨今の最先端研究により分かってきました。話題の「オートファジー」研究のスペシャリスト、吉森先生に今知っておきたい「細胞」と「オートファジー」の話を聞きました。
※本記事はYouTubeチャンネル「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。
<前回までのおさらい>
・「オートファジー」は、細胞の中の社会をよい状態でうまく機能させ続けるメンテナンスのような仕組み
・主な役割は、
1 細胞の中身を入れ替えてリフレッシュさせる
2 細胞の中に有害なものが現れたときにそれを狙い撃ちで壊す
・歳をとるとオートファジーが低下し、病気になる
・寿命を延ばすにはオートファジーを上げることが必要
オートファジーを上げる生活習慣
前回、「オートファジー」を上げる食品成分についてお話ししましたが(スペルミジン、レスベラトロール、アスタキサンチン、ウロリチンなど)、これは薬じゃなくても薬と同様の仕組みで細胞に働きかけることができます。薬と天然食品の違いは、合成か自然界にもともとあるものか、です。
薬は合成されたものなので副作用の心配もありますが、長年食べている天然食品なら心配はありません。薬も大事だけど、たとえ効果が弱くても安全なものをとるように心がけるというのが、オートファジーを上げるためにまず我々ができることだと思います。
ほかにもオートファジーを上げる方法はいろいろ知られています。たとえば、脂っこいものを避ける、、睡眠、適度な運動などです。
脂っこいものを食べるとオートファジーにブレーキをかけるタンパク質「ルビコン」が肝臓で増え、脂肪肝の原因になります。つまり、高脂肪食を食べ続けるというのは、無理やり肝臓を老化させているのと同じことなんです。
そしてカロリーを控えて、食事のタイミングを適正にする。「オートファジー=断食」だと思っている人も多いのですが、極端な絶食は血糖スパイクなど医学的によくないことが起こるので私はお勧めしません。断食でたしかにオートファジーは上がるのですが、そこまでしなくても腹八分目にするとか、食事の間隔を十分とるとか、それでいいと思います。
睡眠も大事ですね。寝ている間にオートファジーは上がります。生物にはサーカディアンリズムといって、24時間周期の体内時計のようなサイクルがあります。そのサーカディアンリズムでオートファジーも調節されているので、夜はちゃんと寝ること。
それと、これは実験結果があるわけではないですけれど、寝る間際に食べるのはよくないと思います。食事をとると、血液中のアミノ酸濃度があがってオートファジーが下がるんですね。おなかがすいているときは上がって、食後は下がる。
となると、寝る前に食べるとせっかくサーカディアンリズムに合わせてオートファジーが上がろうとしているところを抑えることになってしまうんじゃないかと思っていて、なので私はなるべく早く夕食をとるよう努力しています。寝る前、3、4時間は食べない時間を作れるといいですね。
あとは、適度な運動が筋肉のオートファジーを上げて糖代謝をよくした、という実験結果があります。ネズミの実験ですが、人にもあてはまるでしょう。
役に立つかわからない研究こそ大事
最後に、日本のオートファジー研究について少しお話しします。
2016年に私の師匠の大隈良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたこともあり、オートファジーの基礎研究って、日本が世界で一番リードしているんですね。
研究を客観的に評価するのは難しいのですが、論文がほかの論文にどれだけ引用されたかというのがひとつの指標になります。私はオートファジーの目印になるタンパク質を世界で初めて見つけたんですけど、それを報告した論文はオートファジーの分野では世界で一番引用されています。
私はオートファジーの研究を始める前から細胞の研究をしてきました。基礎研究といって、すぐには役に立たないけど大事な仕組みを知るための研究です。地道に基礎研究で頑張ってきて、今も世界的にトップを争うような感じでやってきたんですけど、これを応用するという段階になると、日本は途端にダメなんですね。たとえば特許の数でみると、アメリカ、中国はおろか、韓国にも負けています。
オートファジーの分野だけでなく、いろいろな分野で同じようなことが起きています。要するに、地道に研究を続けてきて、ようやく社会の役に立つぞという段階になると、外国に持ってかれてしまう。これって本当にもったいないことです。
私は、役に立つか立たないかわからない研究が、すごく大事だと思います。そういうところからじゃないと、役に立つことって出てこないんです。
これまでの研究の歴史をみても、例えば狙ってがんを治そうと研究しても治せないんですよ。そんな簡単じゃないんです。だから謙虚に地道に研究して、ようやくそこから役に立つものがでてくる。
ただそういうことって産業界の人も政府の人もあまり知らなくて、役に立ちそうなところに研究費を投じたりするんですけど、大事なのは地道な研究です。
オートファジーも最初は何に役に立つのかわかりませんでした。でも今は、地道な研究のかいあって、役に立つ段階まできました。私は、役に立つかわからない研究からこそ、役に立つものが生まれるということを証明したい、そう思っています。
(完)
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