「生命科学アカデミー」吉森先生に聞く 第2回

ここがポイント!「オートファジー」2つの大切な役割 吉森保先生に聞く2

ここがポイント!「オートファジー」2つの大切な役割 吉森保先生に聞く2

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「fracora(フラコラ)」は、Youtubeチャンネル「生命科学アカデミー」に大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保先生をお招きし、「オートファジーの「秘密」とは?」ほか、全6回を公開しました。

細胞一つ一つが元気になることで、病気や老化を防ぐことができるということが昨今の最先端研究により分かってきました。話題の「オートファジー」研究のスペシャリスト、吉森先生に今知っておきたい「細胞」と「オートファジー」の話を聞きました。

※本記事はYouTubeチャンネル「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。

<前回のおさらい>
・人間を構成する約37兆個の細胞ひとつひとつの中に社会のようなものがある

・細胞の中の社会をよい状態でうまく機能させ続けるメンテナンスのような役割を担っているのが「オートファジー」という仕組み

・オートファジーとは、細胞の中にあるものを回収して工場(リソソーム)に運び、分解して新しいものをつくるのに使うという、リサイクルに似た仕組みのこと

※詳しくは第1回をご覧ください

オートファジーの役割は「細胞の中身を入れ替えてリフレッシュ」

病気というのは、細胞の中の社会がうまく機能できない状態です。うまく機能しないと、場合によっては細胞が死んでしまいます。たとえば、アルツハイマー病では、脳の細胞が死んでしまうから認知症になってしまうわけです。

細胞が死ななくても、細胞の中の社会の機能低下がおこると病気になる。人間の社会において交通網が機能しなくなったら、ライフラインが断たれて社会が機能不全に陥りますが、それと同じことが細胞の中で起こると、人間は病気になります。

前回、「オートファジー」とは、細胞の中にあるものを回収して工場(リソソーム)に運び、分解して新しいものをつくるのに使うという、リサイクルに似た仕組みと言いました。

このオートファジーの働きが止まると病気になるとお話ししました。オートファジーによる回収やリサイクルには、2つの大事な役割があるからです。

1つめは、細胞の中身を入れ替えてリフレッシュさせる役割です。

人間はだいたい一日あたり70gくらいのタンパク質を摂取しているわけですが、その一方で240gくらいのタンパク質が細胞の中で作られています。

食物から摂取した70gだけでは足りませんし、そもそも70gくらいはエネルギーに使われてしまいます。

では、どうやって240gものタンパク質を作っているのかというと、細胞の中のタンパク質を240g壊して材料にするわけです。自分の一部を240g壊して、240g作る、ということを毎日やっている。

このことは昔から知られていたのですが、なぜそんなことが起きているのかが、これまではわかりませんでした。

それが、オートファジーの研究が進み、オートファジーが壊していることがわかると、壊しては作るというのがメンテナンスであることがわかったんです。

伊勢神宮とギリシャのアクロポリス

伊勢神宮とギリシャのアクロポリスの話をしましょう。両方とも2000年前くらいに立てられた古い建物です。

アクロポリスは石造りの立派な建物ですが、2000年も経っているのでボロボロです。それに比べて、伊勢神宮は木造なのに2000年経ってもピカピカですよね。

なぜかというと、伊勢神宮は式年遷宮といって、20年に一回、古い建物を完全に壊して新しく建て替えているからです。いずれ壊れてしまうのだから、壊して新しく作っちゃえ、という発想の転換です。

実は、細胞の中でも、伊勢神宮の建て替えのようなことが、毎日数パーセントずつ行われています。数パーセントずつであっても、毎日毎日やっていけば、何十日かすると細胞の中身が完全に新しく入れ替わり、伊勢神宮みたいにピカピカになります(細胞内部の新陳代謝と言えます)。

この入れ替えが非常に大事なんです。

オートファジーによる細胞内部の新陳代謝は、どの細胞でも大事であることが分かっていますが,脳の神経細胞や心臓の細胞では特に重要です。たとえば皮膚は古い細胞が死ぬとアカとなって剥がれ落ちて細胞自体が入れ替わりますけれど(細胞自体の新陳代謝)、脳の神経細胞や心臓の細胞は、細胞自体が一生の間ほとんど入れ替わらないんですよ。

一番重要な器官なのに、一生同じ細胞を使わないといけない。だからこそ、細胞の中を入れ替えて、リフレッシュさせるオートファジーがとても重要なんですね。

有害なものを狙い撃ちで壊す

そして、オートファジーのもう1つの大事な役割が、細胞の中に有害なものが現れたときにそれを狙い撃ちで壊すということ。これは私が最初に見つけました。

病原菌——病気を起こす原因になる細菌——は細胞の中に侵入して悪さをするんですが、侵入してきた細菌をオートファジーが「オートファゴソーム」という膜で包み込んで殺してくれる。防御機能、免疫の一種です。

いわゆる免疫というのは免疫細胞の働きですが、オートファジーはすべての細胞がもっている仕組みなので、どんな細胞にもこの防御機構はあるということです。

ちなみに、細菌だけでなくウイルスもやっつけることができます。じゃあなんで新型コロナウイルスをやっつけてくれないのかというと、実はコロナウイルスはオートファジーを妨害できるんですよ。細胞がもつ防御の仕組みを逆にかく乱することができるので、コロナウイルスはオートファジーに殺されない。ウイルスって賢くて、進化してるんです。

今、うちの研究室では、どうやってコロナウイルスがオートファジーの邪魔をしているかを研究しています。この仕組みがわかれば、ウイルスがオートファジーの邪魔をするのを邪魔できる。そうすれば、ウイルスが細胞の中で増えるのを阻止できるので、感染は予防できなくても重症化を予防できる可能性があります。

細胞の中に現れる有害なものは、ウイルスや細菌だけではありません。

たとえばアルツハイマー病やパーキンソン病などの脳の病気は、細胞の中にタンパク質の塊ができて、そのせいで細胞が死んでしまう病気なんですね。このタンパク質の塊も、オートファジーが選択的に除去してくれます。

また、細胞の中にある発電所(ミトコンドリア)やリサイクル工場(リソソーム)に穴があいて、有害物質が漏れたときにもオートファジーが包み込んで隔離・除去してくれます。リソソームの場合は消化酵素なので、胃に穴があくのと同じでとても危ないですよね。ミトコンドリアの場合は活性酸素。活性酸素が漏れると細胞が殺されたり、遺伝子に傷がついてがんになったりするんです。

ちなみにオートファジーには「栄養補給」の役割もあります。細胞は、外から栄養を取り込んで生きています。人間の場合は血液が栄養分を運んできてくれます。でも、その栄養がこなくなったらどうなるか?

たとえば絶食したら、細胞に栄養がだんだんこなくなる。そういうとき、細胞は仕方なく自分の一部を壊して(分解して)栄養に変えるんです。細胞の飢餓が起こると、細胞は自分のタンパク質を壊してアミノ酸にし、それをエネルギーにして生き延びようとします。

タコはお腹がすくと自分の8本あるうちの一部の足を食べてしまうという話がありますが、それと同じです。一部なら死なない、緊急事態なら仕方ない、ということです。ただ人間の場合は、体内に栄養を蓄えられるのでこの働きは酵母のような単細胞生物に比べるとすごく重要ではありませんね。

(第3回に続く)

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