昨年は矢口真里の不倫・離婚騒動や、“ビッグダディ”こと林下清志の元妻、美奈子の不倫疑惑がワイドショーを賑わせました。今から17年前、そんな不倫に悩む女性たちから大きな反響を呼んだ歌集があります。俵万智の『チョコレート革命』(河出書房新社)です。当時アラサーの作者が恋をテーマに綴った歌の数々は、今も色褪せないものばかり。99年の文庫版から、彼女が“不倫”をテーマに詠んだ歌をピックアップしてご紹介します。
「知られてはならぬ恋愛なれどまた少し知られてみたい恋愛」(144頁掲載)
彼との関係は周囲に知られてはいけない。でも本当は、誰かにこの思いを語りたい、ちょっとだけ知られてみたい。そんな溢れる感情と揺れる思いを、やや冷静に、そして熱く表現しています。不倫の恋というのは麻薬のようなもの。「知られてはならない関係である」ということが、かえって恋愛感情を高ぶらせてしまうこともあるようです。
「焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き」(156頁掲載)
不倫相手に、小学生くらいの子どもがいるのでしょう。「焼き肉とグラタンが好き!」と無邪気に言うその子に、「私はあなたのお父さんが好きよ」と反射的につぶやく(もちろん心の中で)。「焼き肉とグラタン」と「あなたのお父さん」を平等に並べてしまう率直さ。その率直さが、不倫してしまう女性のある意味で真っ直ぐな性格をあらわしているような気もします。
「議論せし二時間をキスでしめくくる卑怯者なり君も私も」(130頁掲載)
不倫相手と議論している場面。「私たち、これからどうなるの?」「大丈夫、子どもが大きくなったら何とかするから…」不毛なやり取りに、2人の雰囲気が気まずくなる。いっそのこと別れられたらいいのに…ところが、キスをされると束の間の幸せを感じ、「まぁ、いっか」と、ダラダラした関係を続けてしまいます。私を繋ぎ止める後ろめたさを、キスで誤魔化すあなたは卑怯者。でもそれを受け入れる私もきっと、同じくらい卑怯なのだろう…。
「妻という安易ねたまし春の日のたとえば墓参に連れ添うことの」(134頁掲載)
穏やかな春の日、奥さんと子どもと一緒に墓参りをしてきたという不倫相手。何も考えることなく、家族行事として淡々と連れ添った妻。その安易さがねたましいのです。彼と同じ“戸籍”に入った、妻という存在。それは同時に、将来は彼と一緒の“墓”に入ることが許された存在でもある。私はその座を手に入れることができない。こんなに愛しているのに…ふつふつと湧き上がる情念の歌です。
「子を抱く友と二時間向きあえば我が恋愛は比喩のごとしも」(157頁掲載)
結婚して子どもを産み、すっかり“母”になった友達と、不倫に明け暮れる自分を比べている歌です。命というかけがえのない存在を授かり、立派に育てているA子。彼女と比べたら、私の恋なんて比喩みたいに軽いのかもしれない。子どもが欲しいと言ったら、彼はきっと嫌がるだろう。子すら成せない彼との恋は、文字通り比喩=言葉のあやのように軽く、儚いものなのか…。
俵万智さんが綴った歌の数々、いかがでしたか? 『チョコレート革命』、不倫の恋に悩む全ての女性にオススメです。