受刑者から熱狂的な支持を集めている“刑務所アイドル”「paix2(ぺぺ)」。前編に引き続き、北尾真奈美さんと井勝めぐみさんに今後の活動の展望ついて聞きました。
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社会復帰された元受刑者の方が会いにきてくれて励まされた
――これまでの活動を通して、心を揺さぶられた出来事はありましたか?
井勝:プリズンコンサートをスタートさせてちょうど1年目くらいでしたが、私たちが警察の音楽隊と一緒に開催したコンサートに、社会復帰された元受刑者の方が手紙と花束を持ってきてくださったんです。その方は、何度も刑務所に入ることを繰り返していたそうなのですが、手紙には「二人の歌に出会えたおかげで無事に社会復帰する事ができました。刑務所内では辛い事ばかりでしたが、頑張ることができた」ということが書かれていて。出所後に会社を立ち上げて、今では立派に社会生活を送られています。
北尾:丁度その頃、自分たちのなかでは資金的にもプリズンコンサートを実施していくには辛い時期に差し掛かっていて、私はもう止めた方がいいのかな? とか思っていた矢先のことだったので、本当に嬉しく思いました。出所後にわざわざ会いにきてくれたということで、それだけ思い入れを持ってくれたのかと思うと、逆に勇気をもらったというかとても励まされました。
井勝:人は生きて行く中で理不尽な出来事に遭遇することが多々ありますが、何事も自分自身の思うようにならなかったとしても、犯罪に手を染めるべきではありません。刑務所に入ってしまって後悔しても、その時にはもう遅いのです。人は幸せな時には幸せの意味さえ考えようとはしませんが、幸せを失って始めて自分の犯した罪に気が付きます。
刑務所の舞台に立つたびに思うのですが、少しでも自分自身をコントロールできていれば、この人たちはここに来ることは無かったのに、と思います。
私は刑務所の舞台に立つたびに、本当の幸せとは何だろうと自問自答してきました。ささやかでもいい大切な人とずっと一緒に居られることこそ本当の幸せなんだなあって考えさせられます。
私達のコンサートで何かを感じ社会復帰への足がかりにしてもらえたら嬉しいですね。
社会で暮らしていることがいかに幸せか
――1年を通して全国をまわられているとプライベートとの両立は難しくないですか?
井勝:私は結成後14年間、ほとんど仕事1本でやって来ました。まあプライベートの時間はなかったと言っても過言ではありません(笑)。女性だからオシャレにお金を費やしたり、美味しいものを食べに行きたいたいとか皆さんもそれぞれあると思うのですが、私は今よりも自分自身が歌手として満足できる状況になっていけたらそうしたことも考えられるかなと思います。現在、39歳ですが、もっと頑張ってワンステップ上がりたいと思います。母にも「私は孫の顔が見たい」とか言われますが「お母さんごめんそれ無理だわ」って言っています(笑)。
北尾:お互い長女なので親を不安がらせてしまっているところはありますよね。全国を飛び回っているので自由な時間を十分に取れるわけではないのですが、私はオシャレもして、できれば結婚もして仕事も頑張って、両立できたらいいなって思ったりしています。
――今年の9月から、保護司(保護観察官と協力して犯罪や非行をした人の立ち直りを助ける民間のボランティア。非常勤の国家公務員で法務大臣から委嘱を受ける)として活動をスタートされました。どういった経緯から保護司になられることを決められたのでしょうか?
井勝:東京保護観察所から「保護司をやって頂けませんか」というお話をいただいたことがきっかけでした。保護司というと警察官のOBの方やお寺の住職さん元教員の方など、社会経験も豊富でそれ相当の社会的地位が高い方々が多いのですが、まだ30代の私達がそういう名誉なお話を頂くと言うことなど考えたこともありませんでしたのでとても驚きました。
ただ、私たちの活動というのは刑務所だけにとどまらず、今までも社会を明るくする運動の応援メッセージソングを歌ったり、その活動にも沢山参加してきましたので、それは保護司という役目にも通じることだと思いました。
保護観察所の方から是非にと推薦して下さったので、お受けすることにしました。私たちを通して保護司の活動のあり方に、もっと興味を持って頂きたいですし、幅広い意味でも様々な経験をしていらっしゃる若い保護司が増えるきっかけにもなればいいなと思っています。
北尾:私は以前から再犯率を減らすにはどうしたらいいのかとずっと考えて来ました。今は就労支援で社会復帰した人を雇う企業も増えてきていますが、出所者に対する社会的な理解と支援を深めていかないといけないのかなとも思ったりします。
ただ、被害者や家族を失った遺族の方がいるなかで、「どうして?」という意見を持つ人もいるはずなので、とても難しい問題だと思います。それでも、再犯を防ぐことは、さらなる悲しみを生み出さないことにもなります。私たちが対象者を受け持つのは、まだまだ先のことですが出所者と社会の橋渡しができるような活動ができるといいなと思っています。
究極の夢は「刑務所のグラウンドから紅白に出ること」
――現在、350回を超えるプリズンコンサートを開催されています。今後の活動の展望を教えてください。
井勝:人間が生きている中で刑務所に入るのは大変なことです。被害者は勿論ですが、加害者の家族もまた苦しい立場に置かれます。
この活動を継続する中で、受刑者という立場にいる皆さんが人として本来の自信と誇りを取り戻して欲しいと思っています。
そのためにも、私達は選んだ道を迷わずに歩き続けていきたいです。私たちの活動を広く知っていただくことで、なぜ人は罪を犯してしまうのか、また日本の司法制度について幅広く考えてもらうきっかけになればいいなと思っています。
あと、NHK紅白歌合戦にも出場したいですね。人生には表と裏、色々な側面があります。大晦日に家族団らんの時間を過ごしている一方で、閉ざされた世界のなかで孤独を感じている人達がいるということ、そういうことを知ってもらいたい。そのために、できることなら刑務所のグラウンドなどから歌いたいです。究極の夢ですね。幸せの対極にある世界を目の当たりにすることで、社会で暮らしていることがいかに幸せかに気づくのではないでしょうか。それが、犯罪抑止にも繋がるのではと考えています。