人工知能学会が刊行する学会誌「人工知能」の表紙デザインが「女性蔑視」ではないかとネット上で議論を呼んでいる。
これまで「人工知能学会誌」だった誌名を「人工知能」とするとともに、表紙デザインをリニューアルすることを学会が告知したのが12月25日(学会誌名の変更と新しい表紙デザインのお知らせ)。学会誌であることもあり、これまで取っ付きにくいイメージのあった「人工知能」という分野を「もっと広い範囲の読者にアピールすること」を目的に、柔らかいタッチのイラストを用いている。告知後は「新表紙良いと思います」という好意的なコメントも見られたが、翌日になってから徐々に「女性蔑視」を指摘する声がネット上で上がり始めた。
表紙は、「日常の中にある人工知能」というコンセプトで描かれた、ほうきを持ち、掃除機のアダプタにつながれた女性の姿。これについて、下記のような意見が上がった。
この表紙むちゃくちゃ気持ち悪い。こういう表紙にするって決めた人たちの中には女性の学会員はいたんだろうか?女性のロボットがつながれてて家事をしてるってヘテロ男性の性幻想丸出しだよね。
人工知能学会誌の表紙がリニューアルされて、ほうきと本を持つ女性型アンドロイド(?)のイラストになった。これはダメだ…。そんな意図はないといっても、学会をあげての性差別に見える
スプツニ子!さんのつぶやきで一気に拡散
さらに、3万6000人以上のtwitterフォロワーを持つ現代アート作家のスプツニ子!(@5putniko)さんがつぶやいたことで、一気に拡散した。
人工知能学会誌の表紙デザイン ひ ど す ぎ !!! うつろな目で掃除をする女性型ロボット...
わりとまいにち日本の性差別に失望してる
某有名大でロボット研究をしている女の子がトークの後、話しかけてくれました。「理系研究はオタクが多く、日本のヒューマノイド開発の対象は初音ミクや美少女ばかりで<都合のいい女>を競って開発するような環境に女性研究者として馴染めない」と話していました。貴重な意見をどうもありがとう
「人工知能学会誌の表紙デザインの何がいけないの?」と言う人は、例えばアメリカの学会誌表紙が黒人や黄色人種の掃除アンドロイドだったらというのを想像してほしい。
※これらのコメントは、togetter:人工知能学会の表紙は女性蔑視?にまとめられている。
スプツニ子!さんはインペリアル・カレッジ・ロンドンの数学科、情報工学科を卒業し、現在は米国マサチューセッツ工科大学内のMITメディアラボの助教授も務める。これらのつぶやきには、男性の多い業界での「体質」を指摘し共感する声も多く上がった。一方で、反論の声も。
女性型掃除ロボットを嫌悪する女性って、要するにキャリアウーマンを嫌悪する男性と同じでしょ。自分の存在価値を侵されてると感じるから怒る。ロボットくらい完璧に掃除のひとつもやってみろっていうんだ。
男が人に似せて何かを作るとき、それは理想化された女性であるっていう話はなにも日本特有のものじゃない。19世紀のフランスの小説「未来のイヴ」は言うに及ばず、ギリシャ神話のピュグマリオンにまで溯る人類普遍の性だよ。それも何もかも批判するというのならもう何も言わない勝手にやってくれ
学会側のコメント「差別・蔑視の意図ない」
また、12月27日にハフィントンポストが、表紙を描いたイラストレーターが女性だったことを取材(人工知能学会誌の表紙、女性イラストレーターが描いていた)。「女性を差別したり蔑視する意図はありません」という学会側のコメントも掲載された。
これについてスプツニ子!さんは再度、下記のような内容を数回にわたってツイートしている。
ああいう描写はイラストやアートとしては完全に自由だと思うし、個人的に絵を可愛いと思っている。ちなみに「あの絵のイラストレーターは女性だった」というのは反論としてパワーはゼロ。女性が描いた男性が描いたでなく「学会誌の表紙デザインに無自覚に起用されてしまった現状」が問題なんだよ!
さらに、一部のユーザーが表紙デザインに反対する声を「女尊男卑」「フェミニストの攻撃」とツイートしたことについて、下記のような意見も見られた。
性差別に対して批判の声をあげるひとらをさくっと「フェミ」でくくったうえに「フェミニストが誤解されるのはすぐ男を攻撃するからだよ」と「批判」を「攻撃」に置き換えて「黙れ」をさも思いやり溢れたアドバイスのように語るひとチラホラ見かけるけど、ツッコミどころ多すぎて溝しか感じない…
スプニツ子!さん側に共感する側、反論する側双方に男女の賛同者がいるが、ツイッター上では下記のような意見も。
この表紙を差別差別と喚く連中はこういう現実から逃げているだけ。日本経済新聞『独身女性、3人に1人が専業主婦希望 厚労省調査』
こういう反応が来てめんどくさいから動物的願望を人工物で処理し人間の女性とは関わりたくないということなんでは
人工知能の表紙デザインは「無自覚の差別」なのか、それとも「フェミニストの逆差別」なのか。年末に向け議論は沈静化しつつあるが、今後も類似の事例が起こりそうな普遍的な議論であることには間違いない。