「差し歯」は歯の根は残っている? 新しく保険適用になった歯とは?【歯学博士に聞く】

「差し歯」は歯の根は残っている? 新しく保険適用になった歯とは?【歯学博士に聞く】

むし歯の治療で「差し歯」にしてから数年が経ち、その歯は抜いたのだと思っていたところ、「いえ、歯の根は残っている状態ですよ」と歯科で指摘されました。周囲に聞いてみると、同じように、「差し歯って何? 歯があったのか」と言う人が多くいました。

そこで今後の治療の参考にしたく、「差し歯」について公的医療保険の適用範囲での治療や材質、費用などについて、『すべての不調は口から始まる』(集英社新書)の著者で歯学博士の江上一郎医師に聞きました。

「差し歯」は歯の根がある

——「差し歯」とは、どのような場合にどう治療するのでしょうか。歯を抜くわけではないのですか。

江上医師:現在歯科では「差し歯」という用語はあまり使いませんが、一般的に皆さんがイメージしやすいと思われるので、ここでは「差し歯」と表現しておきます。

差し歯は、むし歯がひどいものの、歯の根っこの部分の「歯根(しこん)」を残すことができた場合に施す治療法のひとつです。

具体的には、残った天然の歯の根っこに、歯科用語で「コア」と呼ぶ「土台」を入れてから、「人工の歯」(かぶせ物)をかぶせる方法が一般的な治療法です。土台に使用する材質は、公的医療保険適用の場合は金属とプラスチックの「レジン」があります。

この治療では、歯ぐきより上に出ている歯の部分の「歯冠(しかん)」をむし歯のために全部削ることになり、歯冠が見えなくなるため、歯を抜いたと勘違いされる人もいます。差し歯の場合、歯ぐきの内部に根は残っています。

210718_差し歯

——歯の根が残っているのであれば、大事にしなければなりません。

江上医師:そのとおりです。むし歯だけではなく、硬いものを噛んだり、何かにぶつけたりして歯冠の部分がぱきっと割れたり、ヒビが入ることもあります。歯の状態によりますが、噛(か)み合わせやその後の歯の寿命にも関わるため、歯の根っこを残す治療は重要です。

——差し歯は公的医療保険は適用されますか。費用はどのぐらいですか。

江上医師:先ほどお話ししたように、土台の治療も、その上に被せる人工の歯も公的医療保険が適用されます。材質はプラスチックのレジンや金属などで、3割負担の場合は1本3,000~9,000円です。治療方法、歯の箇所、材質によって異なります。保険適用の場合は、どこの歯科で治療をしても費用はおおむね同じになります。

この費用には、「補綴物(ほてつぶつ)維持管理料」が含まれます。保証期間が2年間設けられていて、この期間内であれば、補綴物(差し歯)の治療部分が取れたり外れたりしても無料で対応されます。

材質にセラミック(陶器)や16金以上の金合金(きんごうきん)などを使う場合は公的医療保険は適用されず、自費診療となります。

新しく保険適用になった前歯のCAD/CAM冠

——差し歯は、前歯と奥歯では違う材質を使用すると聞きます。公的医療保険が適用される範囲の材質を教えてください。

江上医師:次の種類があります。白い歯の材質は「ハードレジン」という歯科用プラスチックになります。なお、歯科では歯は前の中心から、右上、左上、右下、左下と4つのブロックに分け、前歯から奥歯に向かって1番・2番・3番…7番と呼んでいます。8番は親知らずです。

・硬質レジン前装冠
前歯である1~3番は、後に紹介する「CAD/CAM冠(きゃどきゃむかん)」かこのタイプを使用します。金属(金銀パラジウム合金)を中心に、前面は白色のレジンを張り付けて作るかぶせ物(差し歯)です。次の「硬質レジンジャケット冠」より、金属を使っている分、強度があって見た目も良く、シャープに噛めます。4番は、ブリッジの支えとなる歯(支台歯)の場合に適用できます。

・硬質レジンジャケット冠
前歯の1~5番目の見える部分には、硬質レジンジャケット冠という、金属ではなく全面に白色の樹脂(プラスチック)を使用したかぶせ物(差し歯)を用いることがあります。

・CAD/CAM冠(きゃどきゃむかん)
歯科用の3Dカメラで治療箇所をスキャンし、コンピューター上で歯のかぶせ物を設計します。そのデータを基に3次元切削加工機が歯のブロックを削り出して作成します。材質は、セラミック(陶器)とレジン(歯科用プラスチック)をハイブリッド(混合)した「ハイブリッドセラミックス」といわれる非金属性のものです。セラミックの強度や審美性と、レジンの柔軟性の長所を併せ持つ素材と言われます。

2020年9月に公的医療保険の適用範囲が前歯にも拡大され、現在、諸条件はありますが、7番(親知らずを除いて、一番奥の歯)以外の全部の歯において保険適用となりました。今後はかぶせ物(差し歯)の治療で多く使われるでしょう。ただし、現在はまだ、CAD/CAM冠を取り扱う歯科医院は少ないため、あらかじめホームページや電話で確認してください。

メリットは、「見た目が天然の歯に近い」「歯と同じ程度の硬さ」「金属を使っていないのでアレルギーの心配がない」。デメリットは「歯ぎしりや食いしばりが強い場合には向かない」「銀歯のかぶせ物に比べて割れやすい」「最初は艶があるが経年で表面が劣化し、艶がなくなる」などです。

前歯の場合の費用の目安は、型どりの際に約2,500円(再診料やその他管理料含む)、歯をセットする際に約6,000円(同)です。

・金属冠
主に4~7番の奥歯に使用される、金銀パラジウム合金などを使用した全面が銀色のかぶせ物(差し歯)です。強度が強いため、口内の状態や噛み合わせ、噛む力などを診察してブリッジにも使用します。

——公的医療保険適用の差し歯治療をした場合、気をつけるべき点はありますか。

江上医師:レジンは食事の成分や唾液、水分を吸収するので、年数経過とともに変色するということ、加齢や体調で歯ぐきがやせてくると、歯と歯ぐきの間から黒っぽく金属が見えてくること、経年劣化などです。治療終了後も、3~6カ月に1度の定期検診を受けて、継続的に健康なかぶせ物(差し歯)のキープを目指しましょう。

聞き手によるまとめ

差し歯とは、歯の根があるからこそ可能な治療であり、歯を抜いたわけではないので勘違いせずにケアを行いましょう。また新しい情報として、CAD/CAM冠が前歯を含めて多くの歯で公的医療保険が適用となったということです。治療の前にこうした知識を得ておき、歯科で相談しながら、自分にとっての適切な治療を選びたいものです。

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(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)

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