「どうせ私なんて」と思う事は自分に失礼

>>【前編】「辛いのは心のブレーキとアクセルを同時に踏んでいるから」 作家・有川真由美さんが考える“幸せな女性”とは

――この4年間、台湾に在住して、今年の初旬に帰国されたとお伺いしています。台湾での生活が幸せすぎて、ストレスがなくなったというのは本当ですか?

有川:高雄にある大学院で日本研究をしながら、学生たちに教える立場にもいました。時間も自由、どこの場所に行くのも自由、なにをするのも自由、温かい人たちに囲まれて人間関係も自由……と、ストレスのない世界で幸せだったのですが、もう少し制限やストレスがあってもいいかなという不思議な気持ちになったんです。多少のストレスはスパイスのようなもの。皆がみながそうとは限りませんが、いくらか負荷がある方が、幸せもより深く、しみじみと味わえるような気がします。

人に喜んでもらうことが、人としてのいちばんの幸せ

――幸せは「なるもの」ではなく、「感じるもの」だということですね。

有川:幸せって、誰かが与えてくれるものでもなく、つまるところ、「ご飯が美味しい!」「夕日が綺麗!」と自分が感じる瞬間の積み重ねですよね。でも、その感じ方は実にさまざま。例えば、旅やサーフィンなど好きなことだけができればいいという人がいます。極論的に言ってしまえば、その人たちは生きたいように生きているので、きっと幸せでしょう。でも、この“快楽主義”的な生き方で満足できるかといったら、資本主義のシステムのなかで生きてきた大半の日本人はおそらく、物足りなさを感じるでしょう。

先ほどの負荷の話と似ていて、人は誰かの役に立ったり、なにかの部分で認められたり、社会で自分の力を生かせるような場所があってこそ、感じられる幸せがありますよね。「人に喜んでもらいたい」と思ったら、エネルギーもわいてきて、元気になれませんか? 人のためにやれることがあること、必要とされることって最高に幸せなこと。そんなところを目指すと、きっと幸せは近いところにあるのでは? 人に喜んでもらうことが、人としてのいちばんの幸せかなと思います。

――となると、やはり仕事における充足感が要になってきますよね。

有川:仕事には、目の前にあるものを好きになるか、好きなことを仕事にするかのどちらかしかありません。前者の場合、好きにならなければ、苦痛以外の何物でもないので、好きになるための工夫や努力が必要でしょう。「でも、どうやって?」と首を傾げる人は、“ちょっとのことでもありがたがって生きる”ことを意識してみてください。

最近の20代30代の女性を見ていると、自己評価の低さが目立ちます。でも、親を含め、取り囲み、サポートしてくれるさまざまな人たちがいるからこそ、今、この時に自分が生かされている。その事実に感謝できたら、どんな小さなことも無駄にはできないはず。「どうせ私なんて」と言うことが、どれほど自分にとって失礼かということも、すぐに理解できるのでは?

しんどい時は休憩してもいい。でも、止めないことが幸せへの道を拓くキモ

――とはいえ、「努力しているのに、なんだか前に進んでいない気がする」という20代30代女性も少なくありません。出口の見えないトンネルをぐるぐる廻っているような時期は、どのように乗り越えていけばいいでしょうか?

有川:「一体、いつまでこんなことを続けているんだろう」と途方に暮れる。そういう時って、前に進んでいないように感じるけれど、実は前に進んでいるんですよね。目の前の一つひとつのことを丁寧にやっていると、ある時、視界がパーっと開けて、「そうだ!」という時が必ずやって来ます。基本的に人間はみな、飽きっぽいですし、“続けていく”というと重く、遠く感じてしまう人も多いと思います。でも、“止めない”と捉えたらどうでしょう? 気持ちがかなり楽になりませんか? しんどい時は休憩してもいい、一度降りてもいい。でも、止めないことが自分の求める幸せへの道を拓くキモです。

――最後に、有川さんご自身にとっての幸せとは何でしょうか?

有川:こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、基本的に、人生は“遊び”、例えるなら“夏休み”みたいなものだと思っています。長い休暇中、家でゴロゴロして過ごすこともできるけれど、その気になりさえすれば、何だって経験できますよね。

休みが終わる頃、一皮むけた佇まい、そう、日焼けした顔で「ああ、楽しかった!」と言えたら最高。人生も、どうせならいけるところまで行ってみたいですね。「色々あった、でも、楽しかった!」と終われた方が、幸せじゃないですか? 自分が幸せになれる瞬間は、誰しもみな、自分が一番良く知っているもの。探し求めている答えは、すでに自分の中にあると思います。

 

「幸せになりたいなら、幸せを好きになることが大切」と有川さんはにこやかに話す。自分と真摯に向き合うことは、物凄くパワーの要ることだが、「自分がどうしたいのか」、その答えを知るのは他ならぬ自分自身でしかない。何かを選び取ったなら、全身の“感受性スイッチ”を全開に。一瞬の幸せを感じる力を絶やさなければ、幸せはずっと続いていくはずだ。

●有川真由美(ありかわ・まゆみ)
作家・写真家。鹿児島県姶良市出身、台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程卒業。化粧品会社事務、塾講師、科学館コンパニオン、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリーカメラマン、新聞社広告局編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性のアドバイザー的な存在として書籍や雑誌などに執筆。40か国を旅し、旅エッセイやドキュメンタリーも手がける。ブログ:Daily Journey

岸由利子