嵐がファン以外からも愛されるのはなぜ

ジャニーズ事務所のアイドルグループ「嵐」に関する講義を明治大学で行い話題を集める関修先生。「嵐とはなんなのか?」という根源的な問いかけに対し、専門である哲学・フランス現代思想から考察した著書が、『隣の嵐くん~カリスマなき時代の偶像(アイドル)』。嵐について考えることが、嵐を支持する現代の日本社会における、日本人のコミュニケーション論となっているところが興味深い。

    ジャニーズファンじゃない人も親近感をもてる存在

――著作を拝読しました。一番興味深かったのは、第三章「嵐その活動に見る魅力」です。嵐にとって、2007年の「Happiness」が、ジャニーズの伝統である「永遠の少年」的魅力の到達点であり、2008年の「truth」から、前人未踏の地点へ踏み出したと考察していますね。

関修先生(以下、関):「Happiness」のPVが特徴的ですが、それまでのPVは5人がキャピキャピした感じなんですね。それが、「truth」以降はグッと大人っぽくなった。K-POPにも通じるクオリティの楽曲とダンスで、ジャニーズファンじゃない人も抵抗なく観られる作品になったので、日本人一般が親近感をもって嵐に接することができる雰囲気になった。嵐に日本を代表する企業のコマーシャルがつき始めたのもその頃です。JAL、日立、キリンビール。決して嵐のファン層だけをターゲットにしていない。日本の伝統、格式、信頼、普遍性を象徴するブランドにピッタリの存在に嵐がなったということだと思います。

    仲良く仕事をしているけれど、お互いのプライベートにはあまり介入しない

――第三章では、嵐が主催するイベント「アラフェス」にまつわる4つの騒動に対する先生の論評が述べられています。特に、「アラフェス」に招待された北島康介選手のツイートに、アラシック(嵐ファン)からの批判が殺到したことを擁護したのは驚きました。

:アラシックの人たちは間違っていないと思いますよ。なぜなら「アラフェス」は、嵐がファンと一緒につくっていくお祭り的なイベントだからです。ファン投票でセットリストを決定し、開催も全国ツアーと違ってわずか2日間なので行けない人も多い。そんななか、正式な手続きを踏んでいない業界人に自慢されたら、アラシックの人たちは面白くない。怒って当然だと思います。

――でも、コンサートってそういうものじゃないですか? 経済事情や運で左右されて、行ける人もいれば、行けない人もいる。

:もちろん招待されているんだから来てもいいけど、それをわざわざツイッターなんかで言いふらさなくてもいいでしょ、ということだと思います。行きたくても行けない人の気持ちを考えなさいよ、と。

――そこまで人のことを考えていたら、何もつぶやけなくなっちゃいませんか? ライブに行ける喜びを素直につぶやいただけなのにあんなにバッシングされるなんて、窮屈だなと思いました。

:要は、不特定多数の目にふれないところ、SNSじゃないところでつぶやけばいいんですよ。嵐ファンとはいえ、いろいろな人がいる。アラフェスに行くなと言っているわけでも、喜ぶなといっているわけでもないんです。SNSにおけるマナーの問題ですよね。

――今の日本は格差社会。持つ者と持たざる者の差が開いていっている時代に、嵐ファンは横並びや和を重んじて、喜びを分かち合い、相手を思いやるという、難しいことをやっているように見えます。

:その通り、難しいことをやっていると思います。なぜそうなるかというと、嵐の5人がお互いをリスペクトしてほどよい距離感を保っているから、アラシックも嵐をリスペクトする気持ちが強い。嵐はこれまで誰一人脱退していないし、揉め事もないし、仲良く仕事をしているけれど、お互いのプライベートにはあまり介入しない。そんな嵐をアラシックは尊敬しているし、それが「嵐さん」という、ちょっと距離をおいた上品な呼び方に表れていると思います。

    ポスト嵐を狙えるグループは、いまのところない

――ちなみに、嵐のファンは嵐のメンバーを、性的対象としてみていると思いますか?

:あまり見ていないと思います。嵐自身、2008年以降は特に、性的なことを感じさせないように振る舞っているし。ジャニーズのアイドルは、SMAPとTOKIOは別として、「永遠の少年」であることがセールスポイントです。つまり、少年という「性」がついてまわりますが、嵐は2008年を転換期に「男性」ではなく「大人=人間」になった。

――公人のような雰囲気すら感じます。

:そうそう。「男」じゃなくて「人」になった。だから、一般のファンじゃない男性から嫉妬をされることもないし、多くの人がシンパシーを感じる存在になった。だからこの本で私は嵐を「隣人」と表現したんです。

――嵐は、実は特殊ですよね。自分から積極的に人を魅了しようとする色気や野心がないし、主語が「我」ではなく「嵐」。

:その特殊性がいいし、唯一無二。他のグループは個が主張するのに対し、嵐は、よく見ると、5人のコミュニケーションによって成り立っているんです。櫻井くんがまず相葉ちゃんに振って、相葉ちゃんが予想外のことを言って、他のメンバーが「なんで?」とつっこみを入れる形で5人がおのおのの意見を言い合って、櫻井くんや大野くんがなんとなくまとめる。5人それぞれが自分の言葉で話せる関係性が魅力的だし、日本人にフィットする。ポスト嵐を狙えるグループは、いまのところないと思います。

(編集部)