性器アートは有罪?芸術とわいせつ事件集

女性器をモチーフにした作品で知られるアーティストのろくでなし子さんが、わいせつ電磁的記録頒布容疑で逮捕された。このことで、芸術とわいせつについての論争が盛んになっているが、法律と芸術性のせめぎ合いは半世紀以上も前から、文学や写真作品において繰り広げられている。芸術とわいせつに関わる過去の事件を振り返ってみた。

チャタレー事件(文学)

イギリスの作家D・H・ローレンスの『チャタレイ夫人の恋人』を翻訳した作家・伊藤整と、版元の小山書店社長に対して刑法第175条のわいせつ物頒布罪が問われたが、1957年、最高裁判決で有罪が確定。(参考

判決では以下の「わいせつの三要素」が示された。

1、性欲を興奮または刺激させる
2、性的羞恥心を侵害する
3、善良な性的道義観念に反する

※なお、これは雑誌『サンデー娯楽』のわいせつ性を肯定した最高裁判所昭和26年5月10日第一小法廷判決の提示した要件を踏襲したもの。

悪徳の栄え事件(文学)

マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』を翻訳した作家・澁澤龍彦、出版した現代思潮社社長がわいせつの罪に問われた。1969年、最高裁判決で有罪が確定。(参考

四畳半襖の下張事件(文学)

月刊誌『面白半分』(1972年7月号)に掲載された、永井荷風の作とされる戯作『四畳半襖の下張』が、刑法175条のわいせつ文書販売の罪に当たるとされ、編集長をしていた作家・野坂昭如と同誌発行元の社長が起訴された。1980年、最高裁判決で有罪が確定。(参考

文書のわいせつ性の判断にあたっては、

1、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法
2、右描写叙述の文書全体に占める比重
3、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性
4、文書の構成や展開
5、芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度
これらの観点から該文書を全体としてみたときに、
6、主として、読者の好色的興味に訴えるものと認められるか否か

などの諸点を検討することが必要だとされた。

愛のコリーダ事件裁判(写真)

「阿部定事件」を題材にした大島渚監督の映画『愛のコリーダ』(1976年公開)の脚本と宣伝用写真等を掲載した同題名の書籍が発行されたが、その一部がわいせつ文書図画に当たるとして、監督と出版社社長がわいせつ物頒布罪に問われた。1982年の東京高裁で無罪が確定。

メイプルソープ裁判(写真)

1994年11月に発売されたアメリカの写真家ロバート・メイプルソープの写真集を、版元の出版社社長が、1999年10月にアメリカに商用で見本品として一旦持ち出し、国内に持ち込んだ際、「わいせつ図画」にあたるとして税関に没収された。社長は、関税定率法21条により輸入禁止とした国の処分の取り消しを求めて提訴。

2002年、一審の東京地裁判決では処分の取り消しと約70万円の損害賠償を国側に命じる判決。2003年、二審の東京高裁判決では一審・東京地裁判決を取り消し税関の処分を妥当とする判決。2008年、最高裁判決で、二審・東京高裁判決を破棄したうえで,日本国内への持ち込みを禁じた税関の処分取り消しを命じ、国側敗訴が確定した。(参考

レスリー・キー逮捕事件(写真)

2013年2月4日、東京・港区のギャラリーで開催されていた写真展で男性器が多数写った写真集を販売したとして、写真家のレスリー・キー氏とギャラリーのオーナー兼ディレクターら3人がわいせつ図画頒布容疑で警視庁に逮捕された。2月6日、3人は処分保留で釈放された。

さらに2月21日、この写真集を印刷・製本した印刷会社社長と同社営業部長が、わいせつ図画頒布幇助の容疑で警視庁保安課に逮捕された。2人は翌日、釈放された。

その後、東京地検は3月28日、レスリー氏ら3人を東京簡易裁判所に略式起訴。また、3人のほかに逮捕された印刷会社社長ほか5人は不起訴処分となった。(参考

松文館裁判(漫画)

2002年、出版社「松文館」から発行された成人向け漫画がわいせつ物にあたるとして、同社の社長、編集局長、及び著者である漫画家が逮捕された。

2004年、第一審で懲役1年・執行猶予3年の判決。2005年、控訴審では一審判決を破棄、罰金150万円の判決。2007年、最高裁も二審判決の「漫画もわいせつ物に当たる」という判断を支持。また、チャタレー事件の最高裁判決等を判例として、「憲法における表現の自由の侵犯には当たらない」と判断、上告不受理を決定。これにより、二審判決が確定した。(参考

成人向け雑誌の摘発

2013年7月、わいせつな写真や漫画を掲載した雑誌を販売したとして、出版社コアマガジンの取締役ら3人がわいせつ図画頒布容疑で逮捕された。該当の雑誌2誌はその後休刊した。

警察の目的は3Dプリンタのデータの規制

警察の事情に詳しい犯罪ジャーナリストの丸山ゴンザレスさんは次のように述べている。

なぜ、逮捕するのか。つまり、どんな作品に警察が反応するのかは、完全に警察のわいせつ担当部署の主観的な判断です。だから、世間的に締め付けが必要と思えば、スケープゴートを定めて、それを逮捕してしまいます。
今回、問題となっているのは3Dプリンタのデータで、警察は新しいものを規制しておかないと大変と思っているからです。
もし、ろくでなし子さんが起訴された場合、表現としてのわいせつ基準をめぐって争った松文館の判例で、「思想良心の自由を保障する憲法19条に違反するものでない」とされているので、わいせつ系の規制は表現の自由に抵触しないとして有罪となる可能性もあります。

(編集部)