院長に聞く日本の「出生前診断」の現状

昨年4月、母親の血液から胎児の染色体異常の有無を調べる「新型出生前診断」の臨床研究が開始された。これまでの出生前診断と異なり、採血だけで3種類の染色体異常を調べることができるという簡易さが特長だ。今年の6月までに7,740人が検査を実施し、そのうち142人が染色体異常である可能性が高いと判定。その後、羊水検査(※1)で異常が確定した113人中97 %にあたる110人が人工中絶を選択した。

※1 : 診断確定のためには母体への侵襲を伴う検査(絨毛検査または羊水検査など母体のお腹に針を刺す検査)を受ける必要がある。

新型出生前診断の検査機関は、今年5月までに全国42施設まで増え、ここ1年で急速に広がりをみせている。一方で、9割強が中絶を選択したという結果を受けて、簡単な検査をきっかけに命の選別が加速してしまうのではないかと問題視する声も多く、波紋を呼んでいる。

そもそも、新型出生前診断が始まる前から行われていた「出生前診断」とは、どのようなものなのか。胎児の先天的な病気の可能性についての検査などを行う「胎児クリニック東京」の中村靖院長にお話を伺った。

出生前診断は「血清マーカー」と「超音波検査」の組み合わせ

――通常の「出生前診断」ではどのような検査が行われるのでしょうか?

中村靖院長(以下、中村):当院の場合は、母体の血液中にあるタンパク質やホルモンの濃度を測定する「血清マーカー」と、胎児の状態をみる「超音波検査」の2種類を組み合わせて行っています。超音波検査では、頭や体、骨の形状や臓器の位置関係、首の後ろの皮下組織の厚み、心臓の動く速さなどを見て、染色体異常以外の病気の可能性なども判別しています。

――出生前診断で分かる胎児の異常とは、どのようなものがありますか?

中村:生まれてくる赤ちゃん100人中3〜4人が、なんらかの異常を持っています。「13トリソミー」「18トリソミー」「21トリソミー(ダウン症候群)」(※2)に代表される染色体の数的異常によるものは全体の1%ほどです。各臓器の形態異常など、種類は多岐にわたり、それらのうちの多くのものが出生前に診断されます。しかし、全ての異常が検査で分かるわけではなく、診断が困難なものもあります。

※2 :
●13トリソミー:13番染色体に1本過剰な染色体がある状態。精神発達遅滞のほか、前頭部の発育不良、無眼球症、口唇裂、先天性心臓形態異常、腸回転異常などの様々な形態異常がみられる。多くは生後3か月以内に亡くなるといわれる。

●18トリソミー:18番染色体に1本過剰な染色体がある状態。精神発達遅延や重度の疾患を合併する病気。流産や死産になることが多いが、生後1年以内に90%が亡くなるといわれる。

●21トリソミー(ダウン症候群):21番染色体に1本過剰な染色体がある状態。ダウン症候群のほとんどの症例が21トリソミーによって生じる。体と精神、知能の発達が遅れる。

遺伝には年齢に関係なく起こる問題もある

――診断を受けるにあたっての心構えなどについては、どのようにお考えですか?

中村:特別な心構えなどは必要ありませんが、ただ漠然とではなく自分が知りたいことは何なのかについて、頭を整理しておかれると良いと思います。そのために必要な情報提供の場を兼ねて、当クリニックでは、診断の前に遺伝カウンセリングの機会を設けています。また、年齢が高いことを心配しておられる方が多いのですが、年齢に関係なく起こる問題もありますので、すべての妊婦さんに検査について知っていただきたいと思っています。

>>【後編はコチラ】「中絶について、今こそ真剣に議論されるべき」 胎児クリニック東京院長が語る、「新型出生前診断」の課題

末吉陽子