認知症映画監督が語る日本の介護の問題

認知症になった母の日々を映し出したドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』『毎日がアルツハイマー2』。認知症のドキュメンタリーというと重い印象がありますが、この映画はユーモアと明るさがあり、その明るさの中に真実があります。『毎日がアルツハイマー』では、認知症のお母さんを中心に介護の日々を、最新作『毎日がアルツハイマー2』では、認知症の人を尊重する英国の介護ケア「パーソン・センタード・ケア」を取り上げています。その関口監督に認知症とあるべき介護について語っていただきました。

認知症の初期は95%は正常、残りの5%が記憶障害なだけ

――映画『毎日がアルツハイマー』『毎日がアルツハイマー2』は、関口監督の認知症のお母さんの姿を追っていますね。そもそもこの映画を撮ろうとしたきっかけは?

関口祐加監督(以下、関口):私は母が認知症だから映画にしようと思ったのではないのです。認知症になった母が魅力的だから撮りたい! と思ったのです。母はいわゆる良妻賢母で、とても真面目な人だったんですよ。私は父の血を継いでいるのでいい加減で(笑)、いつも母に怒られてばかりいました。でもそんな真面目な母が、認知症になって言いたいことを言うようになった。母は認知症の力で自分を出せるようになったんですね。そんな母を撮りたいと思ったのが一番の理由です。

――関口監督がお母さんの認知症に気付いたのは?

関口:2005年くらいから前兆はいくつかありました。私は当時、オーストラリアで生活していたのですが、息子宛に同じ荷物が何度も届くようになりました。また、横浜で大晦日に母と年越し蕎麦を食べに行ったら「メニューにうどんがあるのに、なぜ蕎麦しかないんだ!」と母が激怒して。そんな人前で感情を爆発させる人ではなかったので驚きました。決定的だったのは、2009年のクリスマスの日。みんなでクリスマスケーキを食べた後、母が日めくりを見て、私の息子に約束をしたクリスマスケーキを買うのを忘れたと真っ青になったんです。そのとき「自分の何かがおかしい」と母は、恐怖の目をしていたんです。その目を見た瞬間、私は日本に帰る決心をしました。

――帰国してから、お母さんの撮影を始めたのですね。

関口:いえ、違います。2009年9月の母の誕生日のシーンは、母にカメラを向けた初めての日だったんですが、その時はまだオーストラリアと日本を行ったり来たりしながら、映画を作ろうと思っていました。その気持ちが変わったのが、今お話した同じ年のクリスマスの事件だったんですね。とは言え、映画資金もなかったので、最初はYouTubeにアップして、いずれ絶対に映画にしようと考えていました。ときどき「お母さんは、認知症なのに撮影するんですか……」という方がいるんですが、逆にそういう人は認知症が「恥ずかしい」と思っているんですね。私は母の認知症を少しも恥ずかしいなんて思わない。そもそも認知症初期の脳の95%はまともで5%が記憶障害などの障害なんです。正しい知識を得ることが大事だと思います。

理想的な介護のために必要なのは認知症の人の歴史や性格を知ること

――『毎日がアルツハイマー2』では英国の介護ケア「パーソン・センタード・ケア」が、どのように実施されているのか見学に行かれますね。ここの介護医療施設は以前から注目されていたのですか。

関口:いいえ、本当に偶然にお互いが出会ったとでも言うべきか、インターネットで検索していたら引っかかったんですよ。でも実際に行ってみて、素晴らしい介護医療施設だと思いました。「パーソン・センタード・ケア」が実際にどのように実施されているのか、百聞は一見に如かずでしたね。また、あの医療施設では、認知症の最終ステージを迎えた患者さんを受け入れているのですが、それは母もいずれ最終ステージを迎えることになるので、私自身、覚悟したかったということもあります。

――「パーソン・センタード・ケア」は、ほかの介護ケアと、どう違うのでしょう。

関口:『毎日がアルツハイマー2』を見ていただけるとよくわかるのですが、「パーソン・センダード・ケア」は認知症の一人一人の歴史、性格、認知機能などすべてに注目して、その人のニーズを理解した上で、カスタマイズされた介護をすることを言います。ここの認知症のみなさんは、それぞれバラバラなアクティビティをしていますよ。ところが、日本の介護施設は、みんなで一緒に体操をやったり、歌を歌わせたりするでしょう。でも体操したくない人だっているはず。日本で主に行われている介護は、介護する側の論理で実施されている場合が多いと思います。でも本来、介護は介護される側に寄り添わないとダメですよね。

――それができる介護施設があまりないのですね。

関口:そうですね。介護施設をむやみに増やすのではなく、イギリスのような認知症ケア・アカデミーを作らないと。本当は国に動いてほしいですね。家族で24時間介護なんて無理ですから! できれば『毎アル2』は特に介護のプロの方々に見てほしいです。認知症の行動を制するのではなく「なぜそうするんだろう?」と思って代案を探ってほしいです。

母が認知症になったおかげで私の人生は豊かになった!

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――原因を探るということですか?

関口:そうですね。例えば三姉妹が認知症の母の面倒を見ているとします。でも、ひとりだけ拒絶されてしまう。そのときなぜだろう? と考える訳です。認知症の人は建前がないので本音で行動していると思うんですね。拒絶されるのは、かつて親子関係がうまくいかなかったからなど、理由があるはず。認知症の人の心に寄り添い、暴れたり泣いたりしたら、なぜだろうと考えることが大切なんですね。その人の歴史や性格を紐解いていけば対処法は必ずわかるはずです。

――映画に登場する、関口監督の息子さんや姪っ子さんの方が介護の仕方がわかっているかもしれませんね。

関口:一度、母が病院の待合室で、暑くてパジャマに着替え始めたことがあったんですよ。そのとき警備員さんが注意しようとしたのですが、姪は「気にしないでください」と母を守ったんです。普通は「すみません、こんなところで」と言うでしょう。でも姪はおばあちゃんの気持ちを察したんですね。これがまさに「パーソン・センタード・ケア」の介護なんです。

――すごいですね。おばあちゃんと一緒にいることで学んでいるのですね。

関口:そうなんですよ。私なんて、母の映画を撮れたし、イギリスにまで行けたし、介護のことで悩んでもイギリスの先生にだって相談できちゃうんですから。母の認知症のおかげで私の人生がすごく豊かになった。だから、私は今、母にとても感謝していますよ。

――『毎日がアルツハイマー3』は作りますか?

関口:実は、もう撮影しています(笑)。『毎アル2』が出たときには、もう『3』は始まっているのです。母の認知症の旅路を最後まで見届ける作品ですからね。

●関口祐加(せきぐち・ゆか)
映画監督。1989年『戦場の女たち』で監督デビュー。オーストラリアで映画を学び、映画の企画・監督・プロデュースに携わる。2010年、母の介護のために帰国した。2009年から母との日々をYouTubeにアップ、2012年それらの映像をまとめて『毎日がアルツハイマー』として公開。第二弾『毎日がアルツハイマー2 関口監督イギリスへ行く編』は7月19日・東京ポレポレ東中野より全国順次公開される。ポレポレ東中野では期間中の土日祝で“ケア”を巡るトークイベントも開催予定。お問い合せはシグロへ。

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『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』 公式サイトはコチラ

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斎藤香