元タカラジェンヌが考える“暴力の本質”

浴室で繰り返された実父からの性虐待、それを認めない母。『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)の著者・東小雪さんは、家庭という閉ざされた環境で日常的に行われていた暴力について振り返ると同時に、かつて所属していた宝塚歌劇団における「暴力」についても告発しています。

>>>【前編はコチラ】「性虐待は実は数えきれないほど起きています」 実父から被害を受けた元タカラジェンヌの衝撃的な告白

加害側からと被害側からではまったく見え方が違う

――音楽学校に入学したばかりの予科生に、上級生から常軌を逸した“指導”があったそうですが、これは今も変わらないのでしょうか?

東小雪さん(以下、東):10年経っているので少しは変わっていると思いたいのですが、先日、取材のために宝塚に行ったところ、通学中の予科生を見かけました。みんな無表情で青白い顔をしていて……。先輩からの“指導”がすごくて、眠る時間も食べる時間もお風呂に入る時間もない生活を強いられる“伝統”は、変わっていないのかなと思いました。

――宝塚OGは、予科生時代の苦労話はよくするけど、自分たちが上級生になって加害に回ったときの話はしないというエピソードにハッとさせられました。

:私自身もそのひとりだったので、加害性にも向き合いました。私が受けた虐待もそうですけど、同じ出来事であっても、加害側からと被害側からではまったく見え方が違う。時間が経っても、加害者の意識の薄さと、被害者に残る傷の深さには圧倒的な差があるままです。私の家庭や宝塚という特殊な環境がそうさせたということではなく、そもそも暴力にはそういう特性があるのだと私は考えます。特殊な人たちがそうなるのではなく、誰もがその危険性を持っている、と。

家族=血のつながりではない

――最初に虐待の記憶が戻ったとき、東さんはパートナーのひろこさんのことをまず思い浮かべられましたね。「彼女にこれを知られたら嫌われてしまうのではないか?」と混乱されたのも、「自分が損なわれた」と感じたがゆえでしたが、実際、ひろこさんに打ち明けたときはどうでしたか?

:すごく驚いていましたね。同時に、『どうして家族のなかでそんなことが』と息をのんでいました。でも、すぐに『小雪ちゃんは何も変わらないよ。大丈夫なんだよ。話してくれてありがとう』と言ってくれた……。最愛の人にそう言ってもらえたおかげで、今の私があります。

――東さんとひろこさんのふたりの物語は、コミックエッセイ『レズビアン的結婚生活』(イースト・プレス)に詳しいですが、ふたりの家族観の違いがたびたび衝突を引き起こしていますね。

:最初はすごく大変でしたよ~。私が家庭に恵まれなかったことは、当然ひろこさんのせいじゃないし、私のせいでもない。それなのに、彼女がご両親に愛されているのを目の当たりにすると、うらやましさがあふれてきて、すごくつらかったですね。それを本人にいっても仕方がないのはわかっているけど、でも……! という気持ちから、彼女につっかかることもよくありました。今はひろこさんのご両親にもかわいがっていただいているし、ひろこさんも私の感情の波について理解してくれているので、もうケンカはしていません。全然ないです(笑)。

――自分の育った家庭に問題があったからこそ、ひろこさんのような家族になれる人を捜していたということでしょうか?

:それはないですね。私、ひろこさんに一目惚れしたんですよ。ただのひろこさんファンだったのに、付き合えることになって、『ヤッタ~!』って(笑)。一緒に住み始めてもしばらくはそんな調子で、恋愛期を楽しんでいたんですけど、私の記憶が戻ったこともあって、そんなふわふわした雰囲気ではなくなりました。でも、それでも受けいれてもらったり、ふたりで話をしたりするうちに、パートナーシップが育ってきて、家族になった……という感じです。

――本書のなかでも、将来的にはひろこさんとふたりで子どもを育てたいという希望が書かれていますが、具体的に行動されているのでしょうか?

:親しいゲイカップルがいて、彼らから精子提供してもらい、子どもを産もうと計画しています。もう一組、レズビアンカップルもいて、私は6人で家族だと思っています。一緒に子育てをしていきたい。私自身が血のつながった家族からの暴力を経験してきているので、家族=血のつながりではないと思っています。いろんな考えの人がいる、風通しのいい家族にしたいですね。風通しが悪い家庭で、DVや虐待が起こりやすいから。

生きづらい世の中を少しずつ変えていきたい

元タカラジェンヌが考える“暴力の本質”

――東さんは本書を、「生きづらさを抱える人に届けたい」とされています。東さんが思う「生きづらさ」とは何でしょう?

:例えば、私たちは夫婦と思っていても、現行の法制度では同性カップルには何の保障もありません。病気になったときなど何かあったときを考えると、不安になることも多い。生きづらさとは、その人本人にのみ問題があるのではなくて、社会の制度や受容度に大きく影響されてしまうものだと思うのです。でも、へテロセクシュアル(異性愛者)だったら楽に生きられるということもないでしょうね。

――はい、ウートピ読者もいろんなシーンで生きづらさを感じていると思います。

:30代の働く女性も、街を歩いている姿や、会社で働いている姿を見たら問題なさそうに見えるけど、実は結婚のプレッシャーをすごく感じているかもしれない。鬱だったりその他の病気だったり、心身に不調があるかもしれない。目には見えないけど、女性がすごく精神的にしんどい、閉塞感のなかにいる時代だと強く感じます。多様性をあまり受け入れない、息苦しい世の中を、少しずつでも変えていきたいです。

●東小雪さん
元宝塚歌劇団、あうら真輝。東京ディズニーシーにて初の同性結婚式を挙げ話題となる。現在は各種メディアや講演活動を通して、LGBTを支援する活動を行う。パートナー・ひろこさんとの共著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(ともにイースト・プレス)

三浦ゆえ