イルサロン「アルーシャ」代表、岩瀬香奈子さん

今日、6月20日は「世界難民の日」なのを知っていますか? 難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会集団の構成員であることや、政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあり、国外に逃れた人々。1,540万人存在する難民(UNHCR 2012年度グローバル・トレンズ・レポート)のうち、毎年1,000人以上が日本にたどり着く(参考)。しかし、日本の難民認定率は0.18%。難民不認定者たちは、公的支援がない中でどうするのか。難民の自立を支援するネイルサロン「アルーシャ」代表、岩瀬香奈子さんにお話を伺いました。

「入国しやすいけど、生活支援はない」厳しい日本の実情

――「アルーシャ」の難民たちは、何故、母国を出たのですか?

岩瀬香奈子さん(以下、岩瀬):うちの難民スタッフたちは、軍事政府が統括するミャンマー出身。学校は閉鎖、病院も崩壊、就労もできない不安定な生活が続いていたそうです。国民の不満は募り、ついに1988年に大規模な民主化運動やデモが勃発。軍は人々を取り締まるために、国民に発砲したと聞いています。スタッフの中には、仲間や家族を殺されて日本に逃げてきた者もいます。アメリカやカナダよりも、日本への観光ビザのほうが早く出るらしく、それで来日した人が多いようですね。

――来日後、生活支援はあるのでしょうか。

岩瀬:難民に認定されると、語学教育や職業斡旋などの定住支援が受けられます。ただ、認定には何年もかかる場合があり、その間は就労制限で低収入の生活となります。教会やNPOを頼り、パンにマヨネーズをつけてしのぐ人もいるくらいです。「日本に足を踏み入れて良いけど、ご飯は食べちゃダメ」という状況には矛盾を感じますね。認定されるか、強制退去になるか分からない日々が続くので、ほとんどの人が諦めて違うビザを取得しています。

――「アルーシャ」に来る前は、どんな仕事を?

岩瀬:蕎麦屋やラーメン屋などで、バイトをしていた人が多い。同郷の難民コミュニティメンバーの職場を、紹介してもらうんです。コミュニティの結束が強いので、住居も就職も結婚もコミュニティ内で完結。日本人とは距離があります。5年以上いても日本語ができず、日本人の友人もいない人が大勢いますよ。

ネイルを通して、日本人と難民を繋ぐ

6/20は難民の日 自立支援する女性

――ネイルでの難民支援、キッカケは?

岩瀬:ビーズアクセサリー販売で難民支援をしている、NPO難民自立支援ネットワーク(REN)代表、石谷尚子さんと出会ったこと。彼女から聞いてはじめて、難民問題のことを知りました。そして難民たちがつくった精巧なアクセサリーを見せていただくうちに、「これだけ手先が器用であれば、ネイルも良いのではないか」と思いついたんです。高単価だし、在庫を持たなくてすむし、収益率が高いので。石谷さんに提案したら「岩瀬さん、やりなさいよ!」って(笑)。次々に支援者をご紹介いただき、やることに決めたんです。

――難民のスタッフと働いて、苦労したことは。

岩瀬:仕事に対する感覚の違いですね。ネイルがはみ出しても平気な人、注意するとむくれて遊び始める人など、文化や教育水準で全く感覚が違う。サービスレベルの感覚も違います。お客様のネイルが乾くのを待つ間に、自分のネイルを始めてしまったり。お客様が帰られるまで、サービスをするという日本の感覚が理解できないんです。それを100回、300回と、分かるまで言い続けるしかない。顧客がついてからは、互いをライバル視して接客レベルが向上しましたね。お客様に喜ばれて楽しそうに働く姿を見ると、お母さんみたいな気持ちになるというか……。自分のこと以上に、嬉しいんです。

――スタッフにとって、従来の職場と「アルーシャ」の違いは?

岩瀬:日本人と触れ合えること。飲食店では、料理を運ぶだけで会話がない。圧倒的マジョリティの日本人は、超マイノリティの難民をいじめる怖い存在のままだったんです。それがネイルリストになったら、「あなたにネイルをやってもらった」って感謝されたり、指名されたりする。日本人を身近に感じるようになり、自信もついたみたいですよ。

自分で人生を変えられる人になって欲しい

――難民が日本で暮らすうえで、一番必要なことは?

岩瀬:自分にできることを、自分でやることです。難民といっても、五体満足で体力があるし、すごく頭の良い人もいる。守って助けてとお願いばかりで、頑張らないのはおかしいでしょ? “仕事の面接に40分遅刻する”“4時間しか働かないのに、自分の要求は通そうとする”など、甘いと感じる時があるんです。「文化が異なるから仕方ない」と擁護する人もいますけど、私は「難民がんばれ」派。「自分で人生を変えなさい。あなたには力がある! あなたならできるから。少しは手伝うよ」って、厳しいことも言ってしまいます。

――「自分で人生を変える」とは?

岩瀬:サポートを待ったり、誰かを責めたりするのではなく、自分から動く。日本語一級を取れば、いくらでも仕事はあるんですから。「誰も言葉を教えてくれない」と言う難民に「日本語ドリルを買ってあげるから、やってきなさい」って、怒ったこともありますよ。言い訳していたら、一生できない。難民にも力があるんだから、自分の人生は自分で創りなさい、と言い続けてきました。

――支援のゴールは何でしょうか。

岩瀬:国は急に変わらないので、難民問題は永遠に続くでしょう。でもせめて、私が関わった難民には自分の人生を楽しんでもらいたい。あとは難民が、難民を助けられるようになると良いですね。実際、「アルーシャ」で頑張るスタッフは、メディアに取り上げられてロールモデルになっています。彼らはただ、助けてもらうだけの無力な存在じゃないんですよ。

身を潜めている難民の存在を知ってほしい

イルサロン「アルーシャ」代表、岩瀬香奈子さん2

――今後の活動は?

岩瀬:難民問題を広めることと同時に他の社会問題にも貢献できれば良いですね。難民は大々的に活動できないので、問題が見えづらいんです。彼らは、母国の非道を他国に告げたと恨まれていますから。見つかると故郷の家族に被害が及ぶので、身を潜める必要があるんです。今後は、他のNPO法人と一緒に活動予定。難民がNPOの方にネイルアートをして、ネイルを通じてPRする工夫を考えています。

●岩瀬香奈子(いわせ・かなこ)
1975年生まれ。2009年に株式会社「アルーシャ」を設立。難民スタッフによるネイルアート、語学レッスンサービスのほか、物品販売による難民支援も実施中。今年7月末~8月頭に、DV被害対策などに取り組む「NPO法人レジリエンス」と共同イベントを開催予定。

●ネイルサロンアルーシャ
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(田久保あやか)