定時制で学ぶ29歳高校生ホステスの声

今年1~3月に放送されたドラマ『夜のせんせい』の舞台になった定時制高校。全国には、公立私立合わせて681校の定時制高校があり、11万2,187人の生徒が学んでいる(平成24年)。生徒の中には、成人してからでも「学びたい」と考え、入学してくる大人もいることをご存知だろうか。定時制高校は、中学時代に何か困難を抱えていた比較的若い大人達の受け皿になっている面もある。

沖縄県のある定時制高校で18歳以上の女子生徒13人に話を聞いたところ、11人が「夜の世界で働いたことがある」と答えた。夜の世界で働きながら学ぶアラサー世代の女性も少なくない。そこで、自らの過去を語り「沖縄県高等学校定時制通信制生徒生活体験発表大会」(作文コンクール)で受賞経験がある、現役高校生ホステス新垣恵さん(仮名・29)に「アラサーで学ぶということ」「夜働きながら高校に通う理由」「高校卒業後の進路」について、話を伺った。

児童養護施設での夢を持てない10代

――28歳で定時制高校に入学されていますが、どのような経緯で高校に行こうと考えるようになったか教えてください。

新垣恵さん(以下、新垣):私は中学の時、警察に保護されたのを機に、児童養護施設で暮らしていました。児童養護施設での暮らしを望んだのは、父の暴力に堪えられず家出を繰り返していたからです。16歳になって高校に進学しないのであれば、施設を出なければいけません。そうなると、住む場所を失ってしまうという思いから高校に進学しました。私の場合、帰る家がなかったですし、引き取ってくれる人もいなかったので、自分が入れる高校ならどこでも良いと思いました。16歳で社会に出されると、季節労働くらいしか選択肢がありません。とりあえず進学してみたものの、何の目的もなく進学したので、学ぶ意味なんて分かりませんでした。高校に入学してから施設からの無断外出を繰り返していると、5歳年上の姉が引き取ってくれることになりました。

――夜の仕事を始めたのは、いつ頃からですか?

新垣:18歳からです。稼げるからというだけの理由で、飲み屋(スナック)で働くようになりました。飲み屋は、お昼の仕事と比べて時給も良いですし、金銭感覚が狂ってきました。昼間の仕事をやってみても、すぐ逃亡してしまうということを何度も繰り返していました。高校を中退した時点で「逃げる癖」が身に付いていたのかもしれません。

その後、県外に出てみたいという単純な考えから季節労働をしていました。しかし、何の夢も希望もなく、やりたいことも見つからず「ただ、生きているだけ」の日々を送っていました。

――高校に行きたいと考えだしたのは、県外に働きに出てからですか?

新垣:はい。県外で働き始めてちょっとずつ気持ちが変わり、「高校を卒業しないと、就職できないな」と、考えるようになっていました。夜の仕事にも疲れていましたし、毎日のようにお酒を飲み身体を壊してしまったのです。

23歳の時に神奈川県にある定時制高校を受験しました。しかし、高校受験は失敗に終わってしまいました。やる気を失くしてしまいましたが、一度抱いた「高校卒業」という希望を消すことはできませんでした。

アラサーで学ぶ「不安」と「喜び」

――高校卒業認定試験は受験しなかったのですか? また、高校受験を決めた理由を教えてください。

新垣:受けようかとも思いましたが、卒業資格になりません(編注・学歴は中学卒業のまま)。定時制の受験も視野に入れ始め、定時制高校を卒業するのに9年かかった友人に相談してみました。「9年かけて卒業してどうだったの?」と、友人に尋ねると、一言「良かった」と、言われました。この言葉に突き動かされ、自分が思い描いている夢を叶えるために高校を受験しました。

――20代後半で高校に通うことに不安はありましたか?

新垣:年齢的な不安はありました。クラスに馴染めるだろうか、勉強についていけるか等の不安が大きかったと思います。とはいえ、今までが逃げ腰の人生を送っていたので、不安を乗り越えたいと強く思うになりました。

――20代後半で高校に通って学ぶ意義はありますか?

新垣:正直なところ、「意義」とか難しいことを考えたことがありません。しかし、20代後半だから素直に授業に取り組める自分がいて、自分の成長を実感することができます。入学当初は、現役で入ってきた生徒が騒ぐと「くそガキ」と思ってしまうこともありました。自分が学ぶことだけに必死で、自己中心的な考えになっていたのです。現在は少し落ち着き、上は60代から下は10代の子と話す機会があるので、人としての視野が広がったのではないかと考えています。

入学して良かったと思っているのは「先生」と呼べる人がいることです。常識も知らないまま社会に出てしまったので、「分からない」と素直に言える存在がいるのはありがたいことです。例えば、敬語に尊敬語・謙譲語があることも知りませんでした。国語科の先生がとても熱心な方で、放課後や空き時間にも教えてもらっています。同じことを上司に聞くと相手にしてもらえなくなってしまいます。社会の厳しさを実感したからこそ、些細なことでも丁寧に教えてくださる先生方に感謝しています。

ホステスと学生を両立させる葛藤

――現在は夜の仕事(飲み屋)で働きながら定時制に通っているとのことですが、1日の流れを教えて頂けますか?

新垣:お昼前に起床し、身支度をしてから学校へ向かいます。午後4時50分から9時半まで授業を受けてから出勤しています。帰宅は朝方です。夜働いているのは、学校の時間に合わせてお昼の仕事を探すと、一人暮らしを維持していけるほどの給料にはなりません。ですから、どうしても飲み屋の仕事になってしまいます。自分で生計を立て、学校と両立させるためには、給料も良くなくてはいけません。

――夜働きながら高校に通う特有の「辛さ」は何ですか?

新垣:私は飲み屋で働いています。毎日お酒を飲まないといけません。飲み過ぎた次の日は二日酔いの状態で授業に出席することもありますし、体調を崩しやすく辛い時もあります。しかし、卒業という目標が自分の支えとなっています。

――進学は考えていますか?

新垣:進学については悩んでいます。現実的に考えると、年齢的に就職するのがベターかと。とはいえ、やっと掴みかけた「夢」を、あっさり捨てることも難しいです。私の夢は、児童養護施設の職員になることですが、薄給なうえに年齢的に厳しいものです。また、高校の卒業予定が30歳です。大学まで行くと34歳になってしまいます。夢と目標を支えに高校に通っているものの、どうしても「現実」を考えてしまいます。夜の仕事をしながら、進学に向けた勉強も決して簡単ではありません。10年のブランクがあるので仕事が休みの時は早めに登校し、遅くまで勉強をしてから帰宅しています。贅沢を言えば、18歳の時にできなかった勉強に必死に取り組み、進学して色んなことを学びたいです。この年齢になり、一度踏み外したレールの重みを感じています。

(取材・文=GrowAsPeople上原ゆか子)