もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…? 第4回

タキマキタイプのキラキラVERY妻。それ、職業として引き受けているのかも

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タキマキタイプのキラキラVERY妻。それ、職業として引き受けているのかも

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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光文社『VERY』。そう、毎号発売のたびに、アラサー・アラフォーの素敵なママ達がお買い上げ、今シーズンのファッションやメイク、家族のためのお洒落で栄養たっぷりのフードなど、ライフスタイルの参考とする大人気女性誌です。

一方でネットでは、「これ本気で言ってるの……?」「出ているモデル達の努力と幸せアピールぶりが怖い」「キラキラすぎて目がつぶれる」といった黒いツッコミが噴出するという意味でも、これまた大人気。賛否両論出るメディアは強いですから、『VERY』は雑誌としても勝ち組なのです。

ある日、独身アラサー編集Y子が『VERY』のページをめくりながらぽつりと言いました。「河崎さん、このVERYの専属・表紙モデルの滝沢眞規子(タキマキ)さんみたいなキラキラのワーママを祭り上げて、これでもかと憧れさせようとする世間のプレッシャーってありますよね。職場でも家庭でも、なんなら子供の学校でもママ友の仲間うちでも頑張れ、輝け、って。そのプレッシャーって、誰得(だれとく)なんですかね?」

「おや、そう聞くということは、あなたは『誰も得しない』とお考えで? でもこんな感じに近い女性、あるいはこういう生き方に憧れている女性、いまあちこちの職場にたくさんいますよ?」

そう、今回妄想するのは、“あの”タキマキさん——滝沢眞規子さんです。

「見ていて劣等感ばかりが刺激されます」

Y子:だって河崎さん、こんなスーパー母、相当な好条件と本人の才能や努力なしでは、到底なれるわけないですよ。本人美人、プロポーションもメイクも完璧、旦那さん有名デザイナー、自宅は松濤近辺の豪邸、子供達は可愛くて明るくてママ大好きで、毎朝長女のためにお洒落なお弁当作ってインスタにアップして、VERYの撮影だとか有名一流ブランドのパーティーだとか、ライフスタイルの端々に盛り込まれた華やかなセレブ感と、でも世間に嫌われない程度の「手抜きもしてます、頑張りすぎてません」感! 全部持ってる! 見ていて劣等感しか刺激されません!

私:……劣等感が刺激されるとか文句言う割には、結構いろいろ追いかけて見てますね……。

Y子:タキマキのライフスタイルを見せられ、母として妻として仕事人としてオールラウンドに頑張れ!輝け!それが勝ち組だ!って煽りに乗せられて、結局疲れ果ててしまったり、劣等感を植え付けられるのはワーママ本人達ですよ。誰も得しないですよ!

職業としての「キラキラワーママ広告塔」

編集Y子の言うこともわかります。こういう万能なキラキラワーママや、凄いスーパーウーマンというのは、特に女性活躍ウンヌンが喧伝(けんでん)された時期には雨後のタケノコ状態であちこちのメディアでポコポコ取り上げられたもの。一種「仕立て上げられたロールモデル」でもあり、特にモデルであるタキマキさんは、それを職業として引き受けた、とは考えられないでしょうか。

官公庁や民間企業でも、やはりそういう「両立第1号」的ポジションに置かれた女性は、キラキラのロールモデルになれと仕立て上げられ、その期待に応えてしまった人も多かったんです。少し前のビジネス誌や週刊誌で、例えば各社の才色兼備のスーパー女性管理職がずらりと並んだ特集なんかがありましたよね。あれは、雑誌が各社の広報部あたりに「良い方はいらっしゃいませんか?」とお伺いを立てて、各社広報が差し出した、いわば広告塔の女性たち。

会社員としては上からの指示に簡単にノーを言うわけにはいきませんから、自分の会社と、取材にやってきたメディア、双方の期待にできる限り応えたのが、あの姿です。心の中ではちょっとくらい「私、そんなんじゃないんだけどな……」と思っていても、各社の女性活躍推進がちゃんと進んでいますよー、私がその代表格ですよー、仕事も家庭も両立して幸せですよー、と広告塔にならねばならない。苦しいところですよね。ちょっと同情してしまいませんか?

噴出する、時短ワーママvs独身女子正社員の反目

仕事も家庭も両立、とひとことで言うのは簡単ですが、どの人間も平等に1日24時間しかありませんから、必ずどこかで何かを切り詰める必要があります。職場において、それが顕著に見えるのが「時短」や「育休」問題だったりします。いえいえ、まさか時短や育休制度が問題なのではないですよ。制度を設けているくせに、その制度を使っている社員の職場での使い方がわからない組織の認識不足が問題なのです。

時短ワーママが特別になってしまうような職場、つまり他はみな長時間労働が当たり前で家庭で担う役割もほぼないようなおじさんや独身社員ばかりの多様性の低い職場では、時短や育休制度を使う社員は、マイナスを生む存在だと見なされてしまいます。

すると、そのマイナスをカバーするために、同じ女性社員でも比較的制限なく働ける独身女子正社員が振り向けられ、当の独身女子正社員からすれば「どうして私が尻拭いを?」と不満爆発。

これは、いわゆる属人的な仕事割りの習慣のまま、チームの中で仕事を共有する体制に移行していない、そんなことを考えたこともない上司のチームマネジメントの失敗なのですけれどね。

で、ここで女性同士で線引きする「女子の陣取り問題」再び、なのです。「ワーママってなんなの、結局わがまま放題じゃない」「独身者は、子育てをしていないから大変さがわからないのよ」。そんな反目でSNSが時折騒がしくなっていたのは、2005年の育児・介護休業法施行あたりから。もう10年以上になります。その頃に「私ばっかり尻拭い!」と怒っていた人は、その後、逆の立場になったでしょうか。ならなかったでしょうか。

10年以上が経過して、少なくとも制度とは権利なのだ、という認識は普及し、クラウドの導入で職場での仕事の共有方法はあれから画期的に飛躍し、リモートオフィスなど、本来のオフィス以外で仕事をするワークスタイルも徐々に普及してきました。

皮肉なことですが、そこで今度は徐々に「多方面で平均点以上をあげる、頑張るキラキラママ」も、コンテンツとして陳腐化していきます。特別な能力や条件を持っていなくても、やたらと頑張らなくても、フツーのひとでもフツーに仕事と家庭を両立する世間の認識と環境とが、ようやく少しずつ社会に備わってきたからです。その社会の実現こそが、キラキラママの存在の意義であり役割だった、というわけです。

先頭集団には、彼女たちなりの使命がある

フォロワーの女性に憧れられ、同時に同じ女性の間から批判ややっかみの声が上がりながらも、“自分らしく”豊かに暮らしつつ、多方面に頑張るタキマキさん。彼女の存在は、時代が要請したもの。

そういうちょっとくらい人のコンプレックスを刺激するような目立つ先頭集団の役割や使命とは、目立つことで世間(女性が仕事と家庭を両立できるなんて考えたこともない、古い考えの非当事者)の認識を切り拓き、道を作ることです。それを彼女は明も暗もひっくるめて引き受けた、それを職業としたのです。

後に続く者達は、あんなにキラキラしなくていい。ついでにコンプレックスを刺激される必要もありません。先頭集団のことは、先頭集団に任せておけばいいのです。作ってもらった道を気持ち良くあるけばいい。だから、「あのキラキラママは誰得なのか?」という問いへの答え、それはやはり「後進の女性たちにとって(自分とは別物と思ってマイペースを保てば)得」なのだと言わざるをえないでしょう。

(河崎 環)

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あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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