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2014/06/09
NewsweekWEBサイトより

NewsweekWEBサイトより

「あなたの仕事は仕事とは呼べない」、「自分で選んだ仕事だと思っていても、それはあなたが洗脳されているだけ」、「あなたは被害者なの」――そんなことを言われたら、頭にきませんか? 

妻の家事労働を自分の仕事と同じ「労働」だと認めない夫、派遣の仕事を見つけて喜んでいるところに水を差す友人、「いつになったらまともな仕事に就くんだ」とプレッシャーをかける親など、私たちの周りには、特定の仕事を見下したり、哀れんだりする人たちがたくさんいます。そして今、そんな上から目線の哀れみの目を世界中から向けられているのが、性産業で働く人たち――特に発展途上国の女性たち――です。

約15年前から「人身取引 human trafficking」という言葉が急速に普及しました。人身取引とは、売春や強制労働、奴隷労働、臓器摘出を目的とし、脅迫や強制、拉致、詐欺、あるいは力関係によって人間を招集・移動・勾留・受入することです。この問題に対処するため多くの NGO や活動家が活動してきました。

その中でも世界中から注目され、支持を受けているのが、家族から切り離され売春宿に監禁されて売春を強要されているカンボジアの女性や少女を救出するため AFESIP(Acting for Women in Distressing Situations)という団体を立ち上げたソマリー・マム氏です。2007年には、自らの名前を冠したソマリー・マム財団も設立しています。そんなマム氏が先日5月28日自らの財団から離れたという報道がなされ、反人身取引運動関係者やセックスワーカー権利運動の関係者たちを驚かせました。

    世界中から多くの賛同と多額の資金を得る

マム氏は自らも性人身取引の元被害者として、同じ境遇の女性たちを救いたいという思いから AFESIP を立ち上げ、活動してきました。その活動は、女性たちの救出、保護、教育、そして世界に向けてこの問題を訴えるメディア活動と多岐に渡ります。その活動を称えられ2008年にローランド・バーガー財団から受け取った100万ユーロ(約1億4千万円) をはじめ、マム氏は世界中から多くの賛同と多額の資金を得てきました。

また、自身の経験談や救出された女性たちの経験談を絡めて性人身取引という残酷な犯罪を語るマム氏は、欧米のキリスト教系団体や、ヒラリー・クリントン元米国国務長官、スペインのソフィア王妃、メグ・ライアン、 Facebook の COO シェリル・サンドバーグなど多くの著名人からの支持を受け、潘基文国連事務総長やローマ法王との面会も実現しました。 タイム誌やガーディアン紙はマム氏を「世界のトップ○○100人」の1人として称えています。こうした対外的な活動を通して、マム氏はその名を反人身取引運動のみならず人権運動の世界に広めてきました。

一見順風満帆に見えたマム氏ですが、いったいどうして財団を離れることになってしまったのでしょう。

    マム氏自身の経験談に虚偽の疑い

今回マム氏が辞職に至った背景には詐欺の疑惑がありました。ひとつは、自身の人身取引被害について、子どもの頃の隣人や親戚、友人などの証言が本人の経験談と矛盾していることが報道されたことです。マム氏自身、9才から10才のときに被害に遭ったと言ったり、16才くらいで被害に遭ったと言ったりと、語りが一貫していませんでした。

次に、氏の娘が人身取引業者に誘拐されたと主張したマム氏ですが、元夫など周囲の証言から娘は彼氏と家出していたことが明らかになりました。更に、カンボジア軍によって AFESIP 内の女性8名が殺害されたという主張をしましたが、そのような事実はなかったとの調査結果が出ており、この件について国連に虚偽の情報を伝えた件でマム氏は謝罪しています。

本人だけではなく、 AFESIP に保護されたというロング・プロス氏、メアス・ラタ氏を米国や仏メディアに登場させ、虚偽の経験談を語らせたことも分かっています。実際にはこの2名は人身取引の被害者ではなく、プロス氏は職業訓練を受けるためだけに AFESIP にやってきたことが医師の証言で分かっており、ラタ氏は演技のオーディションを受けて合格したと本人が後に証言しています。

今年5月21日にジャーナリストのサイモン・マークスがニューズウィーク誌でマム氏のこうした数々の嘘を報じ、その1週間後にマム氏は自身の財団を去ることになったのです。

>>【後編はコチラ】「人助けは快感である」 反人身取引運動の活動家ソマリー・マムの辞職騒動から、“正しい社会運動”を考える

マサキチトセ

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