女社長の乳がん日記page.6

「こんにちは、ニュー川崎貴子です」 女社長、第二の人生がスタートする

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
「こんにちは、ニュー川崎貴子です」 女社長、第二の人生がスタートする
11月13日(日)

女社長、「ニュー川崎貴子」になる

普段は面会時間に間に合わないので来れなかった夫が次女を連れてやってきた。長女はあることで私に怒られたため、一緒には来なかったようだ。「明日、一人で謝りに行く」という伝言を受け取る。はぁ~。子育ての茨道は続くよどこまでも。入院中であろうと、乳がんになろうと。

先生から外出許可が出たので、廃液パットを首から下げて久しぶりに外出着に着替え、3人で病院前の公園へ出かけた。子豚公園という名の小さな公園で、子豚のようにまんまるな次女が遊ぶのを平和に眺める。秋の澄み切った空気が香しく、燃えるような紅葉が目に美しい。

見るもの全てが細胞レベルでもキラキラしてるように感じるのは、「しばらく病院から出られなかったから」という理由だけではあるまい。

昔、「どうして人を殺してはいけないのか?」という若者の質問にある作家がこう答えていた。

「人間の赤ちゃんというのは、放っておけば死んでしまう生き物である。だから、今生きている全ての人は、かつて誰かに24時間体制で養育された過去がある。ある人は責任を持って、ある人は希望を持って、ある人は愛を持って目の前の赤ちゃんを必死に世話をしたから今、皆が生きている。生かされたのだ。だから、軽んじてよい人も命もない」

それを読んだ時も大いに納得したものだが、2人の赤子の世話をそれこそ24時間体制で経験した後はDNAに刻まれる勢いで腹落ちした。

そして、私も今、自分が「再度生かされた」のだと思っている。

長い間、傲慢にも「自分が頑張れば全部上手くいくはずだ」と気炎を上げて暴走してきたが、次女にがんを見つけてもらい、仕事関係者にフォローしてもらって入院することができて、外科、麻酔、形成の先生に手術、処置をしてもらい、毎日看護師さんのケアを受け、家族親族に助けられ、今、私は生きている。

手術を受けるまで、気持ちの上ではずっと死の淵を歩いているような感じだった。
がんになったと解ったら、自分にできることなんて何一つなかったからだ。

空が、木が、葉が、人が、まばゆい程美しい理由が解って、思わず「ウオーター!」と叫びたくなる(自制した)。

これからは、多くの人の手を借りて生かされた「ニュー川崎貴子」として第二の人生を大切に過ごしてゆきたいと、人生で見た一番きれいな秋の空を見て思う。

女社長、セーフティネットに感謝する

病室に戻ると病人を差し置いて、遊び疲れた次女と、仕事プラス家事育児に疲れ切っている夫にベッドを占領される。

爆睡の二人

爆睡の二人

私の不在で夫の負担が大きくなっているのは容易に想像がつく。我が家はまだ“おばーちゃんず”がいるので何とか回せているが、核家族の夫婦どちらかが長期入院になったらどうなるのだろうか?

夫が倒れても、妻が倒れても、途端に通常運転はできなくなる。単身者だって同じだ。私たちの毎日は「健康である」という大前提ありきで、結構ぎりぎりにあらゆる設定が成されているし、「もし自分が病気になったら」という対策は、忙しさにかまけて不十分になりがちだ。

保険こそ入っていたものの、「病気になんかなるわけない」とずっと思って飛ばしてた私は今回もれなく乳がんになり、家族中に迷惑をかけてやっと解った。保険や貯金、頼れる友人や親族、いざとなった時のセーフティネットを作っておく大切さを。

夫と次女が帰って、もうそろそろ消灯という時間に、私の外科担当の先生がふらりと病室にやってきた。

「パソコンがある部屋に今から一緒に来てもらっていいですか?」

と言われ、暗い病院内をカラカラと先生について行く。普段は大行列の外来患者を捌(さば)き、合間に手術を行い、更には術後の患者をマメに回診しているこの先生は、いったいいつ休んでいるんだろうと先生の背中を見ながら思う。

先生はどっからどう見ても「お爺さん先生」なのだが、どうやら本当はずっーとお若いらしい(ある看護師談)。先生の激務がしのばれるアメージングな後ろ姿にしばし思考が停止する。

女社長、ホルモン治療に怯える

「手術で取り出したがんの、病理検査の結果が出ました」
と、先生は言った。

パソコン画面に映っていたのは、私の慣れ親しんだ右おっぱいの断面図。色々な角度からスライスされた乳首に、禍々しい紫色の何かが付着している。

「これががんで、乳首まで浸潤していたため、今回の手術で乳首ごと摘出しました。そして、リンパの転移はこの通り見られませんでした。ステージは1の後半から2というところでしょう。比較的早期発見でした」

先生は画面を指さしながら、淡々と説明してくれた。そして、
「病理検査の結果、転移しやすい癌であることは変わらなかったので、再発しない確率を上げるために、退院後からホルモン治療を行いたいと思います」
と。

ホルモン治療……。手術すれば済むと思っていたのだが、それは甘い算段であった。抗がん剤治療程副作用はないものの、ホルモン治療中(特に閉経前)の経験者たちの手記はいくつか読んでいて結構皆さん大変そうだったので、「これまためんどくさいことになったな」と思う。

先生に具体的な副作用を聞くと、生理を人工的に止めるので、いわゆる更年期の症状(イライラや大量の発汗、めまいなど)や、女性ホルモンが失われるため髪や肌の潤いがなくなることや、妊娠が不可能になり、体重が増加すること、などの症例をつらつらと教えてもらった。ので、

「要約すると、終始イライラしてる汗かきの、カサカサでパサパサの太ったおじさんになる、というイメージで間違いないでしょうか?」

と、質問すると、先生は慌てたように「あくまでも人によってであり、症状が出ない人もいるし、全部出る人もいます」という、なんとも参考にならない回答を。

年齢が年齢なので、生理が止まることも妊娠の可能性が絶たれることにも全く問題ないが、ただでさえ今でさえ、肌も髪もパサパサカサカサな私が更に乾燥したり、太ったりって、神様、それはあまりにもあんまりではありませんか?

おまけに、ただでさえ今でさえ短気なおばさんなのに、突如押し寄せる更年期の、荒ぶるイライラパワーを果たして鎮められるものか自分に自信が全くない。突然不良に絡んだり、盗んだバイクで走りだしたりしそうで今から大いに不安である。

何より我が家には、これから思春期に突入するめんどくさい女がもう一人いるのだ。思春期VS更年期の仁義なき戦いにより、我が家の市民(夫や次女)をも抗争に巻き込んでしまいそうである。

とにかく、ホルモン治療をするかしないかは、私の体内女性ホルモンが「通常値であったなら」の話である。中小企業経営者としておじさんくさいことばかりに脳みそを使った20年。一家の大黒柱として父性に磨きをかけてきた10年。実感値としては「この俺のどこに女性ホルモンが?」という感じだが、退院したら検査をして、その結果に従うまでだ。

検査まであと1か月―。
震えて待て、私。

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「こんにちは、ニュー川崎貴子です」 女社長、第二の人生がスタートする

関連する記事

編集部オススメ

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング