ブスの社会学 第5回 ブスのパートナー問題(後編)

「人間は顔じゃない」は偽善だけど…男が美人にストレスを感じる本当の理由

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「でもブスだよね?」——仕事で評価されても地位を得ても、私たち女性はその一言で突き落とされてきました。それほど強く根付いた“ブス”という価値観が、近年のCMや企業動画の炎上を経て、少しずつ変わり始めているようです。それでも、いまだ“美人“であることを求められる現代社会。私たちはどうサバイブしていくべきなのでしょうか?

著書『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)などで女性を論じてきた稲田豊史さんと、数回にわたり紐解いていく連載です。

「ソフトブス」は安心できる存在?

前編で導き出した結論「“ブス”は男を萎縮させない」への異論反論は多かろう。「パートナーの心をざわつかせない」ことと、容姿の良し悪しは無関係のはずだからだ。地味顔のやり手、地味顔の戦略家だってたくさんいる。

しかし、萎縮して弱った男たちは、そう考えない。「容姿が地味=他の男にニーズがない=すれてない女」という、浅はかな脊髄思考の泥沼にはまりこむ。“ブス”は「自分の心をざわつかせない女性」の十分条件であると、錯覚してしまうのだ。

卑近な例で恐縮だが、部外者が「え、この容姿で?」と言わざるをえない地下アイドルが、女性慣れしていないごく少数の男性ファンから熱狂的に好かれることがあるのはなぜか? 夜の店のナンバー1が必ずしも容姿ナンバー1とは限らないのはなぜか? 

それは、容姿ビハインドな女性になぜか彼氏が途切れなかったり、彼女たちが「タラレバ」的女子会空間に一瞬たりとも足を踏み入れることなくサクっと結婚したりすることと、無関係ではあるまい。

萎縮した男にとって、「手が届く存在」「安心して接近できる存在」「自分のようなハイスペではない者も相手にしてくれる存在」と思わせてくれる、希望を抱かせてくれるのは、引く手あまたの絶世の美人ではない。自分の心をざわつかせない地味顔、いわば“ソフトブス”なのだ。

それがたとえ、男の勝手かつ的外れな思い込みだったとしても。

チヤホヤされるなら美人が有利。だけど…

さて、そうは言っても“ブス”より美人のほうが幸せに決まっている、という意見はごもっとも。たしかに、不特定多数にモテる、チヤホヤされる競争なら、美人は圧倒的に有利だ。

しかし、生涯で最終的にたった1人を愛し、たった1人から愛されたいというのなら、美人の勝率は少し下がってくる。美人はその外見的優位から、1人ではなく「多数から」愛されるため、心が乱されるからだ。

彼女へのニーズが多ければ、伴侶がいながら「もしかして隣の芝生は青いのでは?」と、ふとした瞬間に考え込んでしまう。これでは心の平穏は訪れない。

人間は、他の可能性が目の前にちらつくと、いま精進していることに集中できない。ダイエットは、コンビニ徒歩30秒のワンルームマンションでやるより、人里離れた山寺でやるほうが、向いている。

多くの浮き名を流した美人女優の結婚に、外野からなんとなく「離婚しそう感」が漂うのは世の常。一方で、「それほどでもない容姿の女性」が若くして結婚した際に漂う「夫婦安泰感」たるや。いや別に、昨年末に結婚した若いモデルカップルのことを言っているわけではないが。念のため。

私見だが、一定数の男が「面倒でストレスフルな美人より、心をざわつかせない安全な地味顔」に目が向き始めるのは、それなりの人生経験と女性経験(場合によっては失敗した結婚経験)を経た、30代後半以降である。

30代も半ばを過ぎれば、交際相手の容姿を友人に自慢する、などという愚行もいい加減なくなってくるので、その点でも“ソフトブス”の不利度は下がっていく。

オプションとして、泥仕合の末に美人と離婚した男性は「二度と結婚に失敗したくない」と思っているため、未婚者以上に「面倒でストレスフルな美人より、心をざわつかせない安全な地味顔」志向が強い傾向にある……ことも付記しておこう。

男も容姿の劣化で「ブス女」の気持ちがわかる

さらに男は40歳も過ぎれば、写真映えするご尊顔など、人の魅力のone of themに過ぎないと、骨身に染みて理解する。そのキッカケはズバリ、自分自身の“ブス化”だ。

大多数の男は40歳が近づくにつれ、生え際が後退し、肌の染みとたるみが進行し、腹が醜くせり出してくる。“男ブス”になってはじめて、“女ブス”の気持ちがわかるのだ。倫理的・社会的な要請によって言わされるのではなく、心から「ああ、人は顔“だけ”じゃないんだ」と思い始める。

「そんな当たり前のこと、もっと早く気づけよ!」という女性からの怒号が聞こえてきそうだが、なにごとも「我が事」にならないと理解できないのが男だ。……というのは、産休による女性のキャリア断絶に男は驚くほど無関心、という悲しきギャップからも推し量れるというもので。想像力がなさすぎると言われれば、それまで。

日本人男性の平均的成熟度なんぞ、そんなものである。

いずれにせよ、「人間は顔じゃない」が偽善であることは百も承知だが、「人間は顔“だけ”じゃない」には、一定の真理が含まれている。ことパートナー問題に関していうなら、“ブス”は年次を重ねるほどに機会が増大する。

パートナー候補たる男側が年を取るほどに萎縮し、疲弊し、「地味顔」を求め、我が事として“ブス”の容姿以外の価値に目を向けるからだ。これはひとつの救いではないだろうか。女にとっても、男にとっても。

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いまだ“美人“であることを求められる現代社会。私たちはどうサバイブしていくべきなのでしょうか? 稲田豊史さんと紐解いていきます。

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