東京大学准教授・赤川学さんインタビュー(前編)

東大・社会学の先生に聞いた「私たちのまわりに“いい男”がいない理由」

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東大・社会学の先生に聞いた「私たちのまわりに“いい男”がいない理由」

結婚はしたいけど、それ以前にそもそも「いい男」がいない。それなりに努力はしても、付き合いたいと思える相手に、全然出会えない。ならば、いっそのこと結婚しなくてもいいか……。

あまりに「いい男」がいなくて、なかば諦めの境地に達しかけている女性も少なくないはず。

「いい男がいない」

この自分の努力ではどうにもできない状況を、せめて納得できるように説明してほしい。そこで今回は、歴史社会学やセクシュアリティ研究をご専門としている東京大学准教授の赤川学(あかがわ・まなぶ)先生に、社会学の観点から「いい男がいない理由」を教えていただくことにしました。

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はじめまして、赤川先生

——赤川先生、今日は突然の取材依頼にもかかわらず、快くインタビューを受けていただき、本当にありがとうございます。

赤川学先生(以下、赤川):いえいえ……「ウートピ」さん、っておっしゃるんですよね?

——はい、ウートピです。

赤川:実は、存じ上げなかったので、失礼のないように先ほどサイトを拝見してきました。なんだか、きれいな女性の方のインタビューがたくさん並んでいて……。小生のような無粋な者があそこに一緒に並んで本当にいいんでしょうか……? 正直、始まる前から気おくれしています。

——先生、何をおっしゃてるんですか!? 今日は「私たちのまわりに“いい男”がいない理由」をトコトン納得いくまで教えてください! 「ウートピ」の読者はみんな困ってるんです、いい男が見つからなくて。

赤川:あ、はい……ご期待に添えるようにできるだけ頑張ります。

私たちの要求水準が高すぎるらしい…

赤川:まず基本的なところから伺ってもいいでしょうか……? 「ウートピ」さんの読者はどんな方々なんですか?

——ひと言でいえば「頑張り屋さん」です。子ども頃から勉強もちゃんとやって、そこそこいい大学に入って、順調に就職もして5〜10年目。ひとりで暮らしていけるだけの収入も十分あり、仕事にもやりがいを感じているけど、「このままでいいんだっけ?」と立ち止まって考え始めた20代後半から30代の女性です。

赤川:いや、本当に品行方正な女性たちがご覧になっているサイトなんですね。なるほど、そういう方々が「いい男がいない」と嘆いていらっしゃる、と。

——そうなんです。

赤川:今、内心結構ビビってます。だって、みなさん、とっても要求水準が高そうなんで。

——え? そうですか? 普通ですよ。自分と同じように仕事にやりがいを感じていて、同じくらい収入があって、結婚してからも対等に家事や育児を分担できるような男性であればいいです。玉の輿に乗って専業主婦になりたいという願望もないですし、フィーリング重視なので、容姿とかもそれほど気にしません。義理の両親が遠くに住んでる方がいいとか、長男はイヤとか、そういうワガママも言いません。

赤川:あ、いや、大変申し上げにくいのですが……それでも今の日本ではすでにかなり要求水準が高いです。

——これでも高いんですか?

赤川:はい、高すぎます(笑)。

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10年前とガラリと変わった結婚事情

赤川:まず前提からお話させていただきますと、学歴や「社会経済的地位」の観点から女性にとっての結婚を分類すると、「上昇婚」「同類婚」「下方婚」の3つに分けられます。社会経済的地位とは、ここでは、職業と収入を合わせたもの、よく言う「スペック」みたいなものだと仮に考えておいてください。「上昇婚」とは俗に言う玉の輿、下方婚は格差婚と呼ばれるやつです。

これまで私たち社会学者の間では、女性はみんな「上昇婚」を目ざすものだと考えられてきたんです。

——つまり、女性は誰でも「玉の輿」に乗りたい、と?

赤川:そうです。それに、全員の希望が叶うわけじゃもちろんないけれど、そこそこ上昇婚が叶う社会でもあったんです。この図を見てください。

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赤川:女性の社会経済的地位が、男性よりも低い社会では、女性は「自分より上の男性」を見つけやすいんです。自分に見合った「いい男」がそれなりにいるんですね。10年くらい前まではギリギリこのモデルが成立していました。ところが、今はこのモデルが成立しなくなっています。

——今の状況を図にすると、どうなるんですか?

赤川:こんな感じですね。

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赤川:男女の社会経済的格差がもうないんです。むしろ、大学進学率に関しては女性の方が高いくらいです。男女が同じように就職して、同じような社会的地位と収入を得ているという状況になると、ウートピさんの読者のように「自分より上の男」がいない女性が確実に出てきます。図の中で斜線を引いたところが、みなさんにあたります。

——いえいえ、先生、私たちそんなに「上」じゃありません。フツーですよ、ごくフツーの人間です。

赤川:ですから、まずはその「フツー」がどれだけフツーでないかを認識していただくところから始めなくてはならないと申し上げているんですが……。

結論から申し上げれば、やりがいのある仕事もあって収入もあってという恵まれた女性が「いい男」を見つけて上昇婚を叶えるのは、もはやムリなんです。

——別に上昇婚じゃなくていいって言ってるじゃないですか(怒)。フツーに自分と同じような男性と結婚するだけでいいんです。養ってもらうつもりなんて毛頭ないですから、結婚してもこれまで通り仕事は続けますから。

赤川:つまり「同類婚でいい」ということだと思うんですが、それさえ簡単なことじゃないと思いますよ。すみませんねえ、なんだか、希望のない話になってきて……。

「フツーにいい男」はいません!

赤川:もう一つ、前提としてはっきりしておいた方がいいと思うのが、「いい男」とは何か?という点です。改めて聞きますが、みなさんが求める「いい男」とはどんな男性のことなんですか?

——自分と同じくらいの収入があって、家事や育児をちゃんと分担してくれる人。それが最低限の条件です。あとの細かいことに関しては、このさいもう贅沢は言いません。

赤川:やっぱり、要求水準が高すぎる……。「そこそこ収入もあって、家事も育児もやる男性」って、そんなに簡単にはみつかりません。

——そんなはずないですよ。いますよ、「VERY夫」とか、よくテレビに出てくる北欧のパパとか。SNSの中でもそれっぽい人よく見かけるし。

赤川:昔は「いい男」の条件として、よく「3高」と言われました。高収入・高学歴・高身長ということです。でも、実は「3高」は今でも「いい男」の条件に含まれていると思うんです。女性が総じて高学歴と高収入になったために、見えにくくなっていますが、「自分と同じくらいのフツーの男でいい」と言う時点で、その「フツー」の中に高学歴と高収入が含まれちゃってるんです。

——女性も高学歴と高収入を手にするようになったから、「フツー」に見えるだけということか……。

赤川:そうです。ですから、みなさんが求める「いい男」とは、かつての「3高」に「家事と育児ができる」という新たな条件を加えたものに他ならないんです。つまり「3高のイクメン」ですね。

ただでさえ、先ほど説明したように上昇婚が困難な社会になっているのに、相手に求める条件は昔より格段に厳しくなっているわけです。

——私たちは「フツーにいい男」を求めているつもりが、実際には「究極のハイスペ男子」を求めちゃってる、と。

赤川:はい、大変申し上げにくいのですが、そういう状況です。「3高のイクメン」なんか、無理ですよ。北欧にも、フランスにも、アメリカにも、どこにもいません。

——あー、でも、なんでこんなに要求水準が高くなっちゃったんだろ。やりがいのある仕事もしたいし、オンナとしての幸せも捨てたくない。

赤川:みなさんよりもっと上の世代のキャリア女性は、「仕事のためにオンナの幸せを捨てる」と、わりと割り切っていた部分があったんです。男性と対等にキャリアを積むことと、結婚・出産は両立不可能と信じていた。

——そうですよね。それを見て私たちは「やりがいのある仕事もオンナの幸せも、両方なきゃダメなんだ」と気づいた。

赤川:それに、今は「両方持ってる女性」が一番エラいという風潮がありますからね。

——だから、やりがいのある仕事を続けるために不可欠な「イクメン」の要素と、従来からオンナの幸せの象徴だった「3高」の両方を求めちゃうわけか。

赤川:かもしれませんね。

次回は、「いい男がいない」という前提で、私たちが取るべき戦略について赤川先生と話していきます。

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