株式会社アペックス取締役社長・芳子ビューエルさんインタビュー

「結婚したら辞めるつもり」という女性も採用します。育休復帰率100%企業の発想法

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「結婚したら辞めるつもり」という女性も採用します。育休復帰率100%企業の発想法

北欧の寝具やテーブルウエアーの代理店業務を手がけるアペックス。現在の社員数34人という中小企業ながら、これまで産休・育休を取得した女性全員が1年以内に復帰して働き続けているという地味にすごい企業です。働く女性の6割が第1子出産を機に離職すると言われるなか、なぜ、ここまで「女性が働き続ける会社」になれたのか?

その理由を創業者にして取締役社長の芳子ビューエルさんに聞きました。

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社員はバリキャリというより「仕事が楽しい人」

——まず驚くのが、やっぱり「育休復帰率100%」という実績です。私も出産を経験して今もフルタイムで働き続けていますが、育児をしながらの仕事は想像以上に大変で相当のガッツがないとできない気がします。やっぱり、社員のみなさんは相当バリキャリ系のワーママなんですか?

芳子ビューエルさん(以下、ビューエル):そんなことないですよ。みんな、普通に仕事が好きな人たちです。歯を食いしばってがんばるというより、仕事が楽しいから自然とがんばっちゃうという感じかな。

弊社は全社員34人のうち、21人が女性でママ社員は今のところ14人、妊婦さんが1人です。年齢層は24歳から69歳まで幅がありますが、ボリュームゾーンは30代。やっぱり27、28歳から30代にかけて仕事は断然おもしろくなります。会社を支えてくれてるワーママもほとんどが30代からアラフォーにかけて。ママ社員が仕事を楽しみながら働き続けてくれているから、会社がある(笑)。

——復帰されてからは、みなさんどんなふうに働いているんですか?

ビューエル:どういう形で復帰するかはケースバイケースです。例えば10~17時までとか、9~16時までなど、最初は本人が希望する時間帯で働いてもらいます。制度上は1年間休んでいいんですが、早い人なら産後3ヵ月、遅い人でも10ヵ月くらいで復帰しています。早めに戻ってきてくれるわけですから、復帰直後は、お味噌汁にお豆腐をそーっと入れるように、優しく丁寧に扱います。

なかには、週1回のミーティングの日だけ出社して、あとは在宅勤務というワーママもいます。でも、その彼女がすごいのは夜にテレビ通販の生放送があったら、「子どもが寝てる時間なんで、行きます!」とサッと現場に来ちゃうところですね。会社にはほとんど顔は出さなくても、すごくやる気があります。

群馬県高崎市にあるオフィスの風景。天井の高い開放的な空間。

群馬県高崎市にあるオフィスの風景。天井の高い開放的な空間。

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「結婚したら辞めます」という女性も採用

——私の場合、産むと、「心から楽しめる仕事」以外は、子どもと過ごす時間を犠牲にしてまでやりたくないと思うようになりました。それだけママ社員が積極的ということは、きっとみなさん仕事を楽しんでるんでしょうね。どうして、そこまで楽しめるんでしょうか?

ビューエル:どうしてなんでしょうね。ただ、最初から仕事が大好きというタイプはあまりいません。新卒の採用面接をしていると、「結婚したら仕事は辞めます」とか「子どもができたら育児に専念します」とあっけらかんと話しちゃう子は実際にたくさんいるんです。でも、それを聞いたから「採用しない」ということはありません。

——「そのうち辞めます」って言ってるのに、採用しちゃうんですか?

ビューエル:もちろん、優秀なら採用しますよ、だって啓蒙できる自信があるから(笑)。

——啓蒙できちゃうんですか?

ビューエル:しちゃいます(笑)。実は今、会社の屋台骨を支えてくれているママ社員も、採用した頃は「私、結婚したら会社、辞めますから」と宣言してはばからない人でした。まだ相手もいない頃から、結婚式はこんなふうにするの♡と目をキラキラさせて語るような、典型的なお嫁さん志望だったんです。

——それが今では……?

ビューエル:啓蒙の甲斐あって、今は2児のママでありながら、「ちょっと韓国に出張してきていいですか〜?」とフットワーク軽く働きまくってます。

一軒家のような雰囲気の本社。「北欧ではこういうアットホームな社屋は珍しくないんですよ」とビューエルさん。

一軒家のような雰囲気の本社。「北欧ではこういうアットホームな社屋は珍しくないんですよ」とビューエルさん。

「戻る場所」はすぐになくなる

——ビューエルさんの会社では、「産んだら復帰する」が当たり前ですが、社会全体ではまだ産んだまま戻らない、または戻れない女性が多いですよね。

ビューエル:よく「育児がひと段落したら、仕事に戻りたい」という女性がいますが、本当に戻る場所があると思ってるの?と心配になります。「レジ打ちくらいなら、あるでしょ?」と言うけれど、今の時代、レジ打ちだってどんどん進化しているし、そもそもレジ打ちがないスーパーやコンビニだって出てきています。育児がひと段落した頃には、「レジ打ちくらいなら」のレジ打ちさえ世の中から消えている可能性があるんです。そう考えると、みなさんのお仕事も、例外とは言えません。

——「育児がひと段落」とは、小学校に上がるくらいをイメージしていると思いますが、5年も6年も悠長に休んでいられないでしょ、と。

ビューエル:何年も休ませてもらえるような環境が与えられてるなら、それはそれでラッキーなことですから、感謝すべきでしょうね。

でもね、ひとりが休んでいる間に、他のチームのメンバーの負担は確実に増えているんです。産休に入る時に、周囲の人は「がんばって産んでおいで」と温かく声をかけてくれるかもしれない。でも、それを「応援してくれてるんだ〜」と100%素直に受け取っちゃいけないと思うんです。そのあたりに想像力を働かせてほしいですね。

——確かに、自分が産むことが会社の負担になっているという意識は、あまりないかもしれません。

ビューエル:弊社のような小さな会社だと、2人の社員が産休・育休を取るだけで、他のスタッフの負担は限界に達するので、みんな順番に産んで、できるだけ負担をかけすぎないように意識してますよ(笑)。

「復帰するのが当たり前」だから、産休・育休中も引き継ぎをしないんです。営業の担当者を替えることもありません。他の社員がフォローには入るけれども、休んでいる間もiPadを渡してクライアントとのやりとりや案件の進行を把握しておいてもらいます。そうしておけば復帰してすぐに産休前と同じように成果を出せるから、モチベーションが下がりません。

——育休からの復帰後にやりがいのないマミートラックに突入して低空飛行というのは、日本の会社ではよくあることですよね。

ビューエル:もったいないですよね。私、思うんです、仕事やって育児やって、目が回るほど忙しい方が、人間たくさんのことをやれるんじゃないか、と。忙しい時は時間がなくて、あれもできないこれもできないと不満がある。じゃあ、仕事を辞めて専業主婦になって時間がたっぷりあれば、やりたいことを全部やれるかといえば、そうじゃない。人間、時間があると、逆に何もやらないんです(笑)。忙しい方が、やる。

要は、働き続けて忙しくしている方が、人生でたくさんのことを成し遂げられるんじゃない、と。

——育児の最中はもどかしいけれど、後から振り返ると、「忙しくてよかった」と思える日が来るということですね。

ビューエル:そうそう(笑)。

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女性の採用はリスク?

ビューエル:正直、経営者の立場からすれば、女性社員がたくさんいると、リスクは大きいです。男性社員ばかりで固めた方が断然ラク。だって、妊娠して体調が不安定になることもないし、出産・育児で何ヵ月も休むこともありませんから。「男性の方が低リスク」というのが、経営者のホンネだと思いますね。

——薄々感じてはいましたが、やっぱり会社側のホンネはそうなんですね……。

ビューエル:でもね、女性にはそのリスクを帳消しにしちゃうだけのプラス面があると思うんです。私が見るところ、「女性がすごいな」と思うのは、「とにかく、やってみるところ」です。男性って、繊細で慎重で、何かをやる前にいろいろ考えちゃうタイプが多いんです。「あの人から何か言われるんじゃないか」とか、「この商品は売れないんじゃないか」とか、「あのバイヤーの好みじゃないんじゃないか」とか、あれこれ否定形で考えちゃう。

もちろん個人差はあるけれど、傾向として女性には、そういうタイプはまずいません。「10種類の商品を売ろう」となったら、ダメ元でもとりあえず売りに行く。対して、男性は「これなら売れそうだ」という3〜5種類に絞って営業をかける人が多い。結果的に売上を立てられるのは、まんべんなく売ろうとする方です。

——経営者としては、リスクはあるけど、積極的に女性を採用したいと。

ビューエル:リスクと感じるかどうかは、経営者のタイプによりますね、きっと。社員を時間で管理したいタイプなら、妊娠・出産・育児で休むかもしれない女性はリスクです。でも、成果で管理したいなら、全然リスクじゃない。むしろ、限られた時間の中で成果を出すことには、ママ社員は長けてますから。

——ビューエルさん自身も3人もお子さんがいる中で経営をされてきて、「時間で管理」から「成果で管理」に発想が変わられたのかもしれませんね。

ビューエル:そうなんです。こうして経営者をやっていると、つくづく子どもは産んでおいてよかったな、と思いますよ。あの、思い通りにいかない育児というものを経験していなかったら、私は今頃本当にイヤなババア経営者になってましたから(笑)。

社員数34人という中小企業だからこそ、ママになったからといって甘えていられないという緊張感がある。そして、そこから「自分がいなきゃ、ダメ」という責任感も生まれてくる。会社の制度や福利厚生もさることながら、女性が働き続けるには、仕事に対する「緊張感」と「責任感」が一番大事なのかもしれないと感じた取材となりました。

ビューエルさんが最後に口にした、「確かに、今の日本で働きながら子どもを育てるのは大変。でも、自分をかわいそうだと思ってほしくないんです」という言葉が印象的でした。「大変でも、がんばりたい」と思えるかどうか、そこがキャリアと育児の両立では、最大のポイントになってくるのでしょう。

(ウートピ編集長・鈴木円香)

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