『うつヌケ』インタビュー・後編

1人でも多くの人に伝えたいうつのこと 『うつヌケ』10万部突破の理由

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1人でも多くの人に伝えたいうつのこと 『うつヌケ』10万部突破の理由

うつ病を脱出した人たちのエピソードをつづった田中圭一さんによるマンガ『うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち』(KADOKAWA)が発売から1ヶ月半で10万部(電子版含む)を突破し、話題になっています。

ギャグマンガ家、パロディマンガ家として知られる田中さんが挑んだ初のシリアスなストーリーマンガ。発売間もなくの“重版出来”に「どんな反響があるか予想できなかった」という田中さんと、担当の金子亜規子さんに話を聞きました。

『うつヌケ』は、自らも10年間うつに苦しんだ田中さんの体験談と、「うつヌケ」した17人のエピソードをまとめたマンガ。“うつヌケ”経験者としてミュージシャンのは大槻ケンヂさんや思想家の内田樹さんら著名人も続々と登場します。

『うつヌケ』P49より(KADOKAWA提供)

『うつヌケ』P49より(KADOKAWA提供)

ヒットの秘密は…?

——単行本が大きな反響を呼んでいますが、いかがですか?

田中圭一(以下、田中):部数もさることながら、(うつヌケエピソードに)「あるある〜」という反応と「救われた」という反応が多い。こんな形で役に立つ本だったんだなと改めて驚いています。

金子亜規子(以下、金子):うつではなくても一時的に気持ちが落ちることってありますよね。そういう時に救いになったとか、逆にそういう状態の人にどう接していいかがわかったという反響がありました。うつではない方にも反響があったのはうれしいです。

田中:うつで苦しんでいるど真ん中の人はこの本を手にとって読むのだろうかと思っていたんです。自分自身もうつのど真ん中の時って活字も読めなかったし、マンガも手に出せなかった。ましてやうつじゃない人いんとっては関係ない本って取られちゃう可能性もあって、どんな反響があるかは正直、予想できなかったんです。

単行本の担当者とも「うつヌケ」が流行語になるといいねって話していたんですが、慣用句的に使われ始めているので、反響がある証拠なのかなって思っています。

——「うつヌケ」という言葉も新鮮でした。

田中:タイトルは最初から決めていたんです。いわゆる”講談社系”タイトルのつけ方です。4文字でバーンという。講談社のマンガは『ラブひな』とか『グラゼニ』など一瞬「それどういう意味?」というタイトルが多いんです。「それ何?」と興味をそそる。まあ『うつヌケ』は何となくわかるけれど……(笑)。

——表紙もやさしい印象です。

金子:私とは別に書籍担当者がいるんですが、色も装丁もストレスが少ないですよね。この手の本は帯に「これをしないとうつになる」という文言をつけるといった、いわゆる”脅迫型マーケティング”になりがちなんですが、そういうことを一切やらずに、どんな人が登場するかを並べるだけでした。本として前向きなパワーを放つことができたと思います。

KADOKAWA提供

KADOKAWA提供

シリアスなストーリーに初挑戦

——1話8ページという制約の中で「うつヌケ」エピソードを描くのは大変ではなかったですか?

田中:真面目なマンガは、この連載と並行で始めた『ペンと箸』(小学館)があるんですが、お笑い要素のないマンガを描くのがほぼ初めてだったんです。コメディやギャグマンガばかりを描いていたのでほぼ新人というつもりで挑みました。

金子さんはマンガ編集の経験が長いというだけあってネームの指摘がとても的確で。僕が迷走してピンボケのネームを描いたときに(金子さんは)「ここはバッサリ切って」とか「コマを大きくしたほうがいい」とかページ内のコマの配分まで指摘できる人だったんです。

約30年マンガ家をやっていますが、シリアスものは初めて。絵の基礎力はあると思っているんですが「ストーリーマンガとして読ませるポイントはこれ」「テーマはこれ」「ストーリーを貫く背骨、串刺しにする一本の道筋はこれ」と、金子さんが自分にないピースを提示してくれたことで、ギャグとシリアスのハイブリッドで読み応えのあるマンガになったと思います。勉強になることがいっぱいありました。

1人でも多くの人に伝えたいうつのこと

うつ2

——「うつヌケ」には17人のうつ脱出者が登場しますが、人選はどうやってされたのですか?

田中:(うつを抜けた経験者は)何人か知っていたので、そこからたどっていけばなんとかなるんじゃない? と思っていました。あとは金子さんの人脈も頼って、2人のコネクションを駆使しました。

金子:サラリーマンの方にも出ていただけないかと聞いたんですが、3人くらいの人に断られました。一般企業の中で「うつ病だった」というのを仮名でもいうのは怖いことなんだなって改めて思いましたね。マンガという形で表沙汰にされてなにかの拍子に世間に知られるかもしれないというのは怖いことなんですよね。一方で、その状況は変えなきゃいけないと思いました。

——「うつヌケ」経験者へのインタビュー取材はどのくらいの時間をかけたのですか?
 
金子:取材は60分から90分ですね。田中先生のインタビュー能力が高くて、簡潔で相手が話をしやすい流れを作るのがうまいんです。

田中:玩具メーカーで10年間営業をやっていましたから(笑)。インタビューを受けてくださった方も順序立てて話せる人ばかりでした。みんなやっぱりうつの辛さとかどんな経緯をたどって抜けたかを多くの人に知ってほしいという意識があったんですね。そこに協力してくれる姿勢があったのでうまくいったんだと思います。

前半インタビュー「アラサー女性にかけられた“呪い”から抜けるには?」はこちら

(聞き手:編集部・堀池沙知子、撮影:石川真魚)

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