精神科医・名越康文さんエッセイ 第8回

その助言、本当に相手のため? 有害なアドバイスをする人の共通点

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その助言、本当に相手のため? 有害なアドバイスをする人の共通点

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30代に入ると、だんだん部下や後輩も増えて、「先輩ヅラ」をしなきゃいけない場面が増えてきますよね? とはいえ、自分だってまだ発展途上。

部下や後輩からアドバイスを求められても、本当に「ためになる助言」ができているのか不安になる時もあります。

精神科医の名越康文(なこし・やすふみ)先生によれば、「ためになる助言」とそうでない助言には、一つの大きな違いがあるのだそう。

本当に相手の「ためになる助言」とは?

前回、自分がこれまで蓄積してきた「小さな技術」を意識的に使いこなせるようになると無敵という話をしました。「小さな技術」は、仕事とプライベートの別なく、いろんな場面で応用できますが、たとえば「他人に助言する」といった場面でも役に立ちます。やっぱり、アドバイスする時は、自分が十分に知っている「小さな技術」に基づいて言葉を紡いでいくのが、一番いいんです。

たとえば僕のような精神科医の場合、カウンセリングや診療の際、相手の問題の中にちょっと足を踏み込んでしまう可能性がある。だから僕らの仕事では、そこには踏み込まないで、寄り添いながらあくまで外側から助言するように心がけることが要求されるわけです。

踏み込んでしまうと、相手の人生と自分の人生がどこかで重なってしまう。たとえば、カウンセラーが自分の人生の中で、お母さんとうまくいっていない生い立ちを抱えていたら、相手のお母さんにことさら注目してしまう。あるいは自分の親と相手の上司を重ねる、みたいなこともあるでしょうね。すると、助言を与える時にちょっと感情的になってしまったり、自分の主観がウェットな感じで入ってしまったりするわけですね。

自分が解決済みの問題なら言葉に毒を帯びない

でも普通、人が誰かの相談を受けるとね、控えめに言っても三分の一以上、もしかしたら半分くらい、限定的な自分の生い立ちや生き様の中からアドバイスしちゃうんです。

その時、自分がすっきり解決済みのことを、「自分の経験としては、こうだ」って言う時は、結構有用な助言になったりする。少なくとも、さほど毒のない言葉になるんです。でもね、まだ自分が解決できていないことを、他人へのアドバイスとして言う時はかなり危険です。

たとえば、自分が過去に誰かから侮辱を受けた。何年も前のことだけど、そのことについてまだ気持ちの整理ができていない。その時に誰かから「こんなひどいことをされたんだ」と相談を受ける。そうしたら「そんなヤツとはさっさと縁を切ってしまえ!」と、非常に強い怒りの感情を持って助言してしまう場合がある。

要は、それって自分の中で解決できていない問題だから、適切な助言よりも先に怒りの感情が上がって来ちゃう。「小さな技術」を持っていない分野だから、そもそも対処のしようがないわけです。結局、相手を自分のダミー(身代わり)にしているわけでしょ。相手に、自分ができなかった役割を負わせようとしているんですよ。

この手の助言って、絶対うまくいかない(笑)。世間で言うところの人生相談、あるいは上司と部下のあいだや親子同士の相談がうまくいかない例は、ほとんどがこのパターンだと思います。

だけど自分が何らかの「小さな技術」を持っていると意識していれば、感情に巻き込まれず、冷静に他人への助言として応用できる場合があるんです。

自分ではほんの小さな、取るに足らないと思える技術でも、それが助言として応用された時、他人には大きなヒントとなり、本当に問題から救ってあげられることがある。だから自分の覚えた技術を、決してないがしろにしてはいけないんですね。

「小さな技術」を活かしている姿がヒントになる

もうひとつはね、変なことを言うようだけど、いいですか。これは大事なことなんです。たとえば仕事をする時って、誰かのちょっとした振る舞いが相手に小さな快感を催させて、その時にアイデアが出たり、突破口が見つかったりすることって、実際にあるんですよ。

「真実は細部に宿る」じゃないけど、たとえば美味しそうにコーヒーを飲む人の幸福そうな姿が目に入った瞬間、それまで難しい仕事に悩んで視野狭窄に陥っていた時間に、ふっと節目が生じてリセットされる。そしてもう一回、ポジティブな気持ちで仕事をやる気が起こる、とかね。

あるいは、喫茶店で本を読んでいる人の姿が美しい風景のように見えて、その瞬間に、パッと自分の意識が切り替わる、とか。そういうことって、僕自身にもよくあるんですよ。

つまり人は、ただ機能としてそこに居るんやなくて、風景としても居る。その人を「見る」ことによって、自分自身もインスパイアされたり、あるいはすごく安らいで、ひとつの時間の節目になって、次の仕事がしやすくなったり。

インスパイアされる風景というのは、そこに居る人が「小さな技術」を発動している風景だと思うんですよ。つまり具体的な「助言」じゃなくても、相手が何気ない所作や作法の中に「小さな技術」をよく活かしている姿を目にすると、自分も自然とそこに引っ張られる。ポジティブな連動が起こるんです。

心のチャンネルを自由自在に切り替える

それを逆に言うと、自分が「小さな技術」が活かされる作法を身につけると、周囲にも良い影響を与える、っていうこと。なぜなら、自分がよく知っている「小さな技術」をフルに使っている時って、気分がすっきりしているんですね。余計なストレスがない状態だから。

たとえば朝の歯の磨き方とか、顔の洗い方とか、そういうことにもひとつひとつ自分なりの作法があると思うんです。その作法をちゃんと意識化して、これをやればちょっと心身の調子が優れない時でも、気分が爽やかに切り替わる。そういう心のチャンネルを自由自在に操作できる感覚で「小さな技術」を身につけている人は、かなり強いと思います。

「集中力をつけたい」ってよく言いますよね。でも僕の考えでは、気分を瞬間的に切り替えることのできる人が、集中力のある人なんです。単に長時間没頭できるというより、自分がちょっと低調になってきた時に、パチッ!と切り替えられる能力こそ、社会の中で、あるいは自分の人生の中で最も活かせる集中力じゃないかなって。特に仕事に集中するうえで最も大切なことは、少し気分が澱んできた時にちょっと微調整して、クリアーなところにすぱっと出るような感覚で心のチャンネルを切り替えることなんですよ。

その切り替え方をちゃんと意識化して、「このタイミングでコーヒーを飲もう」とか「このタイミングで深呼吸しよう」とか。自分がリラックスして心地良くなる感覚を自分で覚えておく。それだけで気分がだいぶ切り替わるでしょう。

それを「なにげなく」やっているところから、ちゃんと自覚して、「私には気分を切り替えることができるこれだけの作法がある」と押さえていく。生活の中で積み重ねてきた自分の「小さな技術」を、項目として頭に入れておくことで、もっと有効に使えるし、次の技術を開拓することにもつながる。

小さな技術からマイ・スタンダードが作られる

こうして「小さな技術」を丁寧に慈しんでいると、ひとつの真実に気づくんです。「自分の人生の中に無駄なんてひとつもない」っていうこと。あれは無駄だった、これは無駄だったって、せっかくの経験を自分の人生から切り離している人がいっぱいいるでしょう。もちろん、あんまり嫌な思い出だったら切り離しておいてもいいんだけど、本当はそれすら反面教師として学ぶべき技術をいっぱい含んでいる。僕たちが日々経験していることには、実は無駄なことってひとつもないんです。

その実感って、「いまの自分」の気分がスカッと爽やかに晴れ渡っていると、素直にそう思えるんですよね。「過去のことは全部、何ひとつ欠けることはなくいまの自分を作った」って。すべて有用なものとして、肯定的に、あるいは「お得」に捉えられるようになるんですよ。

そしてスカッと気分を切り替えることによって、自分らしい表現とか、自分らしい所作とか、自分らしい考え方とかの基準値、「マイ・スタンダード」が作られる。そのあとで「個性」が出てくるんですね。「個性」というのは、気づいたら出てくるもの。「私は個性的にならないといけない」なんて思い悩むことは、本来まったく必要ないんです。

もちろん10代や20代の時とかはね、髪型に凝ったり、自分の個性を外側に表現しようとするもので、それを否定するつもりは全然ないんです。ただ本当の「個性」は、自分の心との付き合い方がわかったあとで、出てくるものなんです。「気分を切り替える」ってことは、自分の心との付き合い方の、一番実践的な部分です。それは自分が持っている「小さな技術」を大切にすることで、実現されるものなんですね。

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精神科医・名越康文さんエッセイ

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