精神科医・名越康文さんエッセイ 第6回

ひとりで過ごす「つまらなさ」こそ、豊かさの証し 「誘いを断る勇気」を持って

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ひとりで過ごす「つまらなさ」こそ、豊かさの証し 「誘いを断る勇気」を持って

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新年のイベントや飲み会など、何かと誘いがかかることの季節。誘われるがままについつい出かけていっては、「また時間をムダにした……」とため息をついている人も結構いるかも? 精神科医の名越康文(なこし・やすふみ)先生によると、安易に誰かと過ごさずに、ひとりきりでその「つまらなさ」に向き合うことは、とても大切なんだそう。

ひとりで過ごすことの「つまらなさ」に負けない

前回、今の時代の「幸せの基準」は、スケジュールを自分で決める特権を持っているかどうかだという話をしました。以前は、「お金」があるかどうかが、「幸せの基準」の一つとしてありましたが、お金の精神的な価値というのは、近年ずいぶん下がっているんじゃないでしょうか。たとえ年収が何千万円あろうと、そのぶん仕事量やのしかかる責任で対価を支払っていると考えれば、あんまりうらやましがられない。あるいは、寝る間も惜しんで仕事してたくさん稼いでいる人が、さほど人生の幸福を感じ取れていなかったりとか。

それよりも、たとえば平日に2時間だけ、自分のやりたいことをやれる自由時間を持っている。そのほうがよっぽど豊かなはずなのに、ところが僕たちは往々にして、その時間をポーンと気前よく他人に与えちゃうんですよ(笑)。

それはなぜかと考えると、誰かと時間を共有することのほうが何となく有意義に思えるという感覚が、身についちゃっているからじゃないでしょうか。自分ひとりで過ごすことに対する、条件反射的な「つまらなさ」――倦怠、寂しさ、不安といった感情にすぐ負けてしまう。

1日2時間、「余白の時間」を確保しよう

特にこの、ほとんど自動的に同調圧力へと流されていく習性は、日本人独特の強迫観念かもしれないですね。「みんなといっしょ」でないと安心できない。みんなが居酒屋に行くから自分も行く。みんなが二次会に流れるなら、できるだけ自分も流れる。百匹の羊のうち、一匹だけ迷い出る羊になりたくない。ところが実は、一匹迷い出る羊だけが自分の人生を獲得できるんですよ。福音書にも書いてあることですけど、その一匹は決して孤独で哀れな羊ではない。唯一、神が手を差し伸べて、固有の生を与えられる幸福な羊なんです。

羊の群れからはみ出てみること――と言っても、それは何も大きな冒険や決断をすることではない。いきなり会社に辞表を出して、ひとりで修行の旅に出るとかね(笑)。そんな極端なことをする必要はないんです。

ただ、ありふれた今日という一日の中で、たとえば仕事にパッとひと区切りつけて、余白を2時間確保する。その間、じっくり本を読む。映画を観に行く。好きな音楽に浸る。いつもの惰性に逆噴射をして、「ひとりになる勇気」を持つ。たったそれだけのことが、やがて人生の質を大きく決めていく気がするんです。

まったく無自覚に、オートマティックな惰性に流されて生きている人と、毎日少しずつ、1時間でも2時間でもひとりの充実した時間を持つように意識した人。両者の差は、100日くらいではまだわからないかもしれない。でも1000日経てば、その積み重ねが効いて、けっこう取り返しのつかないほどの差がついている。

つまりそれは、主体的に生きている人と、ただ何となく生きている人の“輝き”の差、みたいなことだと思います。

時間の浪費をやめれば、○○が手に入る

セネカの言葉に戻りますと、忙しい日々の中でせっかく確保できた余白の時間くらいは「浪費」せずに、自分自身にとっての「有効」な使い方をしてみる。

そんなほんのちょっとした心がけで、人生全体の幸福度や満足度が大きく変わってくる。さらには個性化、他の人には価値、あるいは技能を獲得する具体的な成果にまでつながってくるかもしれません。その意味でいうと、セネカの言葉で嬉しいのは、「偉大なことをも完成できる」とまで言ってくれていることですよね。これって、われわれ凡夫にとっては最高の勇気づけじゃないですか?

「浪費」を「有効」に変えるだけで、「偉大」に到達できるなんて! 別に天才や秀才じゃなくても関係ないんですよ(笑)。毎日流されないで生きる、つまり一定時間をちゃんと確保することでそこまで変われる、ということなんですから。

そもそも人間の集中力なんて、本当に好きなことでないと短い時間しか続きません。たとえば1時間仕事をしていても、実質「有効」に働いているのは10分くらいかもしれませんよね。

だったら仕事を早めに切り上げて、自分が本当にやりたい趣味とか、クリエイティブなことに時間を注ぎ込むという選択も、状況的に許されるならばアリになってくると思います。そしてその時間、なるたけ注意して集中する。つまり物理的な時間の長さは同じでも、意識を持って生きれば、人の何倍も生きることができる。「有効」な時間が10分の人より、20分の人のほうが、二倍の人生を生きているとさえ言うことができるかもしれません。

果たして僕たちは、自分に裁量が与えられている時間のうち、どのくらい本当に、自分で主体的に決められているのでしょうか? 自分の人生をより充足させるためにも、改めて自分自身に、時間の使い方について問いかけてみることは、とても大切だと思いますね。

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精神科医・名越康文さんエッセイ

20代の時より知識も経験も身について、どんどん仕事が楽しくなってくる30代。ついつい心の声を無視して頑張りすぎてしまうこともしばしばです。そんな働き女子の力みがちな肩を、精神科医の名越康文(なこし・やすふみ)先生がゆるーく揉みほぐしていく連載エッセイ。一生懸命だけど頑張りすぎない働き方のヒントが見つかるかも。

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