燃え殻さんインタビュー第3回

「“劇団社会人”に僕たちは属している」燃え殻さんインタビュー

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「“劇団社会人”に僕たちは属している」燃え殻さんインタビュー

ツイッターで約8万人のフォロワーがいる燃え殻さん(43)。テレビの美術制作という“一般人”ながら、“140字”のつぶやきが多くの人の心をつかみ、共感を呼んでいます。今年になってウェブサイト『cakes』で連載された小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』も話題になり、ついに来年には新潮社から書籍化することも決定しました。

小説のほかにも、「ほぼ日手帳」のトークイベントに糸井重里さんと出演したり、新日本プロレス公式ムック本のコラムを書いたりと活動の場を広げつつありますが、燃え殻さんの原点とも言うべき、仕事や働くことについてのつぶやきは、今日も悶々(もんもん)とした日々を生きる人たちの心に寄り添い続けています。

前々回前回は小説の話や生きづらさについて聞きました。最終回は、燃え殻さんの仕事について聞きます。

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なりゆきでテレビの世界に

ーーどんな仕事をされているのかと、就いたきっかけを教えてください。

燃え殻さん(以下、燃え殻):番組内で使用される動画や、フリップやテロップ、セットデザイン、ドラマの美術などテレビ画面に映るものなら何でも請け負う会社です。ただ僕自身は今は主に、立ち上げた新規事業や人事に携わっています。

もともとは「IMAGICA(イマジカ)」という編集室で編集マンをやっていた今の社長の下に、夢も希望も学歴も、手に職すらない僕がアルバイトで入ったんです。入った日に(社長から)「俺、今度会社を立ち上げるから来ない?」と誘われて。社長は「あの時は誰でもよかった」と連続通り魔みたいなことを言うんですけど(笑)。

とにかくそれでテレビの世界になりゆきで入ってしまった。Illustrator(イラストレーター)もPhotoshop(フォトショップ)も使えないのに。名刺ができて肩書きを見たら「デザイナー」って入ってる。あれよあれよと言う間に、六本木の雑居ビルで住み込みのような毎日が始まりました。

まぁどこにも行き場はないし、お声もかからない。これはまず目の前の人から順に信用してもらって少しずつレベルを上げていくしかないなって、ドラクエみたいに考えていました。で、お客さんより目の前にいる社長。社長に信用してもらわないとお客さんにまでたどり着けないって思って、取り組んでました。

「あれは運命だったね」と言われるまでがんばる

ーー社長との出会いは「運命」だったんですね?

燃え殻:きっと運命ではなく「偶然」でした。出会いや日々起こる出来事は、常に偶然だと思うんですが、「あれは運命だったね」と言われるまでがんばろうって思っています。振り返ってみて「あれは必然だったね」とか「天職だったんだ」とか、過去形で噛みしめられるところまでがんばるしかないって思ってます。入口なんて別になんでもいいし、なんでもないんですよ。

ーー美術系の大学や専門学校で講演もしているそうですね。

燃え殻:講演っていう仰々しいものじゃないです。「こんなにバックボーンがなくて、特別でもなんでもないヤツでも、ちょっとした工夫でなんとか20年は食えてる。だったら俺らもできるんじゃね?」って思ってくれる人を増やす要員としてたまにお声がかかるだけで。基本的には「昔の自分に会いに行く」みたいな感じで取り組んでます。「おーい、大丈夫だぞ〜!」みたいな。脅さない大人として。

思っていたよりも遠くに流されていた

ーー「昔の自分」はどんな感じだったんですか?

燃え殻:意識不明、気持ちだけが渋滞って感じでした(笑)。六本木の雑居ビル時代は特に辛かった。とにかく不安で、行き場がなかった。辞めてもロクな可能性もない。だから辞める勇気も何かを始める勇気も出てこない。続ければ何かあるなんてことすら思っていないまま続けてました。正直、次にいけない怖さ、自分に選択肢がないっていう恐怖がありました。

「こうやって生きてみたい」とか「こういうことに挑戦してみたい」とか思うようになれたのは最近です。流されまくって生きてきました。ただ目の前の障害を越えることに必死でした。それだけに繰り返しの毎日とはまったく感じたことがない。毎日次から次に難題が出てきて、こっちは必死ですから。その毎日の中で、いろいろな人に助けられました。今は「運命だった」と言える人たちに。

そして気づいたら自分が思っているよりも遠くに流されていて、振り返ったらこんなに沖に出ていたのかって驚きました。ずいぶん泳いできたんだなぁというのと、波がずいぶんと遠くまで運んできてくれたんだなという気持ちになりました。

でもまぁ慣れないですけど、世の中全般に。今でも目の前の仕事に無理矢理向き合って、怖さを打ち消しながら生きてるっていうのが正直なところです。

「定期は1ヶ月分しか買わない」

ーーツイッターでもつぶやいていましたが、本当に定期は1ヶ月分しか買っていないんですか?

燃え殻:魂の部分では、毎日辞めたいと思ってますから(笑)。だから1ヶ月ごとに定期は買うという儀式はずっと続けています。1ヶ月が終わってまた買い足す時に「おつかれさん」と自分をねぎらう。1日を乗り越えるルーティーンも作ってます。

普通に生きてる人たちからしたら失笑だと思うんですが、夕方の4時頃「森永ラムネ」を必ず買うとか。学校の時間割みたいに自分の中にリズムを作ってやってます。ここまでやったら自分にご褒美をあげる、あともうちょっとがんばったら次は「めぐりズム」を買うみたいな(笑)。恥ずかしい話、そういうリズムを作っていかないと続けてこれなかったと思います。

ーー燃え殻さんのつぶやきに救われる人はたくさんいると思います。反響などはありますか?

燃え殻:そんなもんないです。多分、声をかけてこないような人が多少読んでくれてるんじゃないかと。その多分一生会わない可能性の高い同族の方々には「本当にありがとうございます」って言いたいです。「姿は見えなくても気配は感じています」って。

僕たちは”劇団社会人”に属している

ーー働いていれば、仕事に行きたくない日もありますよね。

燃え殻:つらかったら逃げればいいというのと同時に、つらいから逃げないっていう方法もあると思ってて。もちろん病んでしまってはダメってのは前提ですけど。

深刻の5歩手前の話として話すと、ぴったりのシチュエーションも、ぴったりの服ってのも、なかなかないじゃないですか。どこかで微調整、折り合いをつけていくしかないと思うんです。シャツの袖をちょっとだけたくし上げるみたいな、自分なりにアレンジをしていくしかないと思うんです。

親が親を演じるみたいに、子が子を演じるみたいに、社長は社長を演じて、部下は部下をきっちり演じる。それが社会性ってやつだと思うんですが、「その役はマジで、できません!」ってアレルギーが過度に出るなら飛び出してもいいと思います。でも「1回は演ってみれば?」と思いますね。どこかで必ず、役を与えられるわけだから。“劇団社会人”に僕たちは属しているはずなんで。

僕は、ひとつの会社にしかいないけど、ひとつの役割を演じてきたわけではないです。21年間、毎日違う役をやってきたつもりです。そしてどうにかこうにかなんとか今日をやり過ごしてきました。同じ役回りなんか1回もない。同じ仕事もない。クライアントだって「昨日と同じでいいです」なんて絶対に言ってくれるはずがない。「毎日同じ日だ!」って言う人は、日常を雑にわしづかみにして感想を言っている気がしてならないんです。

緊張することを何回作れるか

ーー確かに同じ日なんてないですね。

燃え殻:たまに若手から「どうやって21年間やってこれたんですか?」って聞かれるんですが、もうその雑な質問の感じがやばいですよね。来年辞めそうな感じの質問(笑)。

出会った人の数が大事とか結構言いがちですが、それはちょっと自分としては違うなって思っていて。それよりも「何回、緊張したか」が大事なんじゃないかって。緊張することって人と真剣に向き合うことだから。人にやたらに会うよりも、丁寧に緊張していくことが大切だと思います。緊張することが何回あったかが自分を成長させることだと個人的には思っています。

(聞き手:編集部・堀池沙知子、カメラマン:竹内洋平)

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