あの大統領選から1カ月…日本人アーティストから見た「アメリカの今」

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
あの大統領選から1カ月…日本人アーティストから見た「アメリカの今」

1カ月前の11月8日に行われた米大統領選。共和党のドナルド・トランプ氏が「まさかの」勝利を収めました。ヒラリー・クリントン候補を支持した歌手や映画監督、俳優の間には驚きと落胆が広がりました。

「トランプ・ショック」から1カ月、アメリカに暮らす人々の間にはどんな空気が漂っているのでしょうか。8年前にアメリカに渡り、現在はニューヨークを拠点にアーティスト活動をしている高氏奈津樹さん(34)に現地の様子や高氏さんから見たアメリカについて伝えていただきます。

トランプという“爆弾”に込めた希望

ちょうど1カ月前のトランプの勝利。

アメリカ人の大半はヒラリーを含めた既存の体制に嫌気がさしていたため、トランプという“爆弾”に希望を込めて、それを自国内に投げ入れるというテロ行為を行ったように私には見えました。

「何か」を変えないといけない、トランプがその「何か」を変えるだろうという希望を抱いて。それだけアメリカ人の鬱憤がいろいろな面でたまっているんだ、と気付かされた選挙でした。

格差社会、多民族多宗教多文化の共存、男女平等、というアメリカの現状すべてがストレスになっているんだと思います。トランプはそんな国民の心理をうまく突いて選挙活動しました。

選挙日前夜にヒラリーは勝利祝賀パーティーを行い、トランプや彼のサポーターはトランプの勝利を期待していなかったと聞きます。それだけ誰も予測していなかったこの結果。なぜだなぜだと原因を探るメディアですが、結果は結果であり、変えることはできません。その絶望感に加え、何よりも恐ろしいのはトランプ勝利直後から全米で始まっ“ヘイトクライム”の波及です。

波及するヘイトクライム

ヘイトクライムとは、人種や性別などの偏見に基づく攻撃を意味します。移民の国であるアメリカにとってヘイトクライムは大きな問題であり、根深い差別の歴史があるゆえに現代のアメリカ人はとても差別に敏感です。初の黒人大統領が誕生し、アメリカも平等社会を実現したと思ったのも束の間、本音は「タテマエの平等主義には辟易している、昔のように白人男性中心主義の古いアメリカに戻そう!」という考えに共鳴する人が多くいるという現実です。結果、初の女性大統領を受け入れることはできませんでした。

韓国人の友人の息子が通うニューヨーク州内の小学校では、彼の担任教師がトランプ勝利支持者で、いかにアジア料理が臭く嫌なものかを授業中に話したり、メキシコ人は犯罪者だと教えたりしていると聞きました。そのせいで彼は母親手作りの韓国料理のお弁当を学校でまったく食べなくなったそうです。このような耳を疑うようなことが身近に起きています。

トランプ支持者と反対者同士の暴力はもちろんありますが、それよりも深刻なのは移民全体に対する暴力や差別です。中でもダントツで被害を受けているのは黒人、2番目はユダヤ人、次いでイスラム教信者。 フロリダにある学校では、2つ並ぶ水飲み場に”White Only (白人のみ)” 、“Colored (有色人種用)”と生徒が紙に書いて貼るという事件もありました。*

またある学校では、白人生徒が黒人生徒に向かって「トランプが大統領になったからには、お前を始めとする黒人生徒をどんどん撃ち殺していってもいいんだ」と発言しました。

ナチスのシンボルマークのグラフィティ(スプレーなどで壁に描かれた落書き)もたくさんの都市で描かれるなど、アメリカ全土の雰囲気はトランプ当選前後で大きく変わりました。私のアトリエの入口にも”Fuck Trump”と落書きされました。彼は1月20日まで正式な大統領ではありません。彼が政治的に実際に何かを変えたわけではまだないにも関わらず、これだけの影響がすでに出ているのですから、この先4年がとても不安なのは言うまでもありません。

アメリカに暮らして初めて感じた不安

私がニューヨークに移住した2008年、オバマ大統領政権が誕生しました(正式就任は2009年)。当時の人々の希望に満ちた高揚感を今でも覚えています。今までニューヨークで暮らし、自分が外国人であるという疎外感や差別を感じることはほとんどありませんでした。

しかし今回の選挙後、初めて有色人種の移民女性としてこの国に滞在することに不安を抱き始めました。この先ビザは下りるのか、仕事に支障は生じないだろうか。このような不安を抱く日が来るとは全く想像していませんでした。

ビザ関連に対する締め付けは9・11以降年々強くなってきましたが、すでに共和党は就労ビザの規制を公言するなど、外国人にとっての状況悪化は必至です。また人々の言動が大統領の品性や言動にどれだけ左右されるものか目の当たりにした今、「自由と平等の国、アメリカ」が予想もしない姿に変貌してしまうのではないかという不安と恐怖は誇張ではありません。私のような外国人、また自国を愛するアメリカ人の半数にとっても。

すでにいろいろな意味で国内外にダメージを与えているトランプの勝利。結果的に大きなテロとならないよう祈っています。同時に、祈る以外にできることを今模索しています。

【出典】
http://www.bbc.com/news/world-us-canada-38149406
http://lawnewz.com/crazy/whites-only-and-colored-signs-taped-over-school-water-fountains/

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

あの大統領選から1カ月…日本人アーティストから見た「アメリカの今」

関連する記事

編集部オススメ

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

脱サラした自営業者のウートピ編集長・鈴木円香と、社畜プロデューサー海野Pのふたりが、時にはケンカも辞さず本気で持続可能なワークスタイルを模索する連載です。

記事ランキング
「美女と野獣」
公開記念特別企画
その、呪われたドレスを、脱ごう。