25年間、世界80ヵ国を旅してきた中で数多くの貧困、差別、暴力、宗教闘争など今の社会が抱えるさまざまな問題を見てきた。この経験から導かれた考えは「憎しみからは何も生まれない」ということだ。

国を超えて互いの人生観、宗教観の違いを受け止めながら相互理解する、理解しようと努力すること。

きれいごとかもしれないけれど平和を基盤にした世界へのアプローチはそこから生まれると信じている。

その視点から言うと人種差別、男尊女卑など選挙運動中、ヘイトスピーチをあからさまにしてきたトランプ氏はまったく真逆の存在といえる。たとえ選挙を勝ち抜くための「演技」だったとしてもそれをよしとするのは本人であり、そのスピーチを聞いて賛同する人たちが出てくるのは必至。

だから大統領となったトランプ氏からは平和な未来が見えてこない。

そして、何よりも残念だったのはそんなトランプ氏をアメリカ国民が選んだということだ。

「トランプもヒラリーも“ダーティ”だ」

外国の友人がこういった。

「トランプはダーティだ。でも、彼はそれを隠そうとしていない。ヒラリーもダーティだ。でも、彼女はうまくそれを隠している。そこに政治家の欺瞞を国民は感じるのさ」

そう。トランプ氏がいいわけではないけれど、ヒラリーはもっとイヤだ。今回の背景にはそんな感情が透けてみえる。「しょうがないからトランプで」。そんな人たちもきっと少なくなかったはずだ。

でも、繰り返すがトランプ氏が公約どおりの行動を大統領就任後にすることはアメリカだけではなく世界に憎しみと怒りと悲しみを増幅するトリガーとなりうる。

「メキシコ人は強姦魔だ」
「イスラム教徒は入国禁止にする」
「たぶん、どこかから血が出ていたんだろう(女性司会者に対し生理で機嫌が悪かったのだろうと)」
「9・11のとき、何千という人がワールドトレードセンタービルの倒壊をよろこんでいたのを見たよ」
*トランプ氏の発言より

「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。これは「富める者、上に立つ者は社会の模範となり、そうでない者のために尽力すること」という大義を持っている。

大統領という国を背負って立つリーダーには当然、このノブレス・オブリージュが求められる。だが、トランプ氏にそれは望めない。彼に人への慈悲、理解はない。そんな人間を大統領に選んだ人々が求めたのはよりよい世界を示すリーダーではなく、アメリカの現状を変えるためだけに他者を傷つけることをいとわないボスという存在なのだろう。

自分さえよければ他はどうでもいい。その思想の先に未来はない。アメリカは次世代にあまりにも大きな負荷を残してしまったことにいつか気づくのだろうか。

寺田直子(てらだ・なおこ) トラベルジャーナリスト。旅歴25年。訪れた国は80ヶ国ほど。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。山口県観光審議委員、青森県の観光戦略アドバイザーなどを務める。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。