東京に生まれて、大学も就職も、生活の拠点はずっと東京。それが、ひょんなことからキャリアをリセットしてIターン&お一人様で富山県へ。 仕事、暮らし、人間関係……。42歳にして、まったく未知の世界に飛び込んでしまった、おんなお一人様の移住物語である。
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東京から富山に移り住んで、2年目。

毎日、メモ帳にストックしたいと思うほど新鮮な発見がある私の立山ライフ。運動会や文化祭、婦人会の集まりなど村で行われる地区の行事に積極的に参加することは、地域に溶け込むうえで大事な付き合いだ。

そして、立山連峰のふもとで大自然と共に生きることは、イコール、野生動物や虫との共存生活でもある

イノシシに熊 ここは「野生の王国」

r飛行機雲月と

突然だが、今年はよく、熊が出る。

つい先日も地元の新聞に、「立山町で熊、目撃」の記事が出た。ご近所さんからは「高橋さん家の近くで熊が出たよ。ドアをノックされても、すぐに開けちゃだめだぞ。気をつけられ」と半分冗談交じりに言われたが、これが笑いごとでなく本気で危険なのだ。

今年は特に、熊のエサとなる木の実が不作らしい。生きるのに必死なのは、熊も人間も同じ。今、私が住んでいる場所は、それほどディープな秘境だ。

熊の目撃談はニュースになるが、猿との遭遇は日常茶飯事。雨が数日続いた翌朝は、まるで映画「猿の惑星」のごとく、群れになった猿たちがワラワラと野原に出てきて日光浴しているシーンに出くわした。

また別の日は、畑のそばで目の前を横切るカモシカの親子が。あまりの可愛さに慌ててスマフォで撮影した。遠くからこちらを見つめるカモシカ親子。親シカにそっと寄り添う子ジカ。あぁ、なんて愛らしいのかしら。

そしてイノシシ。これは畑や田んぼを荒らすので嫌われる。においがきつく、いったん田んぼに入られると臭くて田んぼがダメになるとか。猿やイノシシは畑を荒らすので、その対策として、電気を張り巡らせた柵で畑を囲って被害に遭わない工夫も。

そう、ここは「野生の王国」。人間に「飼いならされていない」野生動物たちがイキイキと生きる姿を見ることができる。動物園なんかより、何倍もエキサイティング!

そして、こちらに来て初めて食べたのが、これら、熊やイノシシなどのジビエ料理。つい最近食べて感激したのがイノシシのから揚げで、鳥のから揚げよりも、お肉にコクがあって、味わい深い。想像していたような獣臭さはまったくない。これを東京のお友達に食べさせてあげたいなぁと思わずうなったほど。

東京時代はやれ、オーガニックだ、マクロビだ、と神経質になっていたのがウソのように今は何でもありがたくいただくようになった。当たり前だけど、熊もイノシシも、さばいてくれる人がいるからこそ、いただける「命」。

東京には出回っていない、地域ならではの「ごっそぉ(ご馳走)」を味わえるのも、田舎暮らしの大きな魅力だ。

拍子抜けするほど暖かい田舎の人々

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移住する前は、人との付き合い、地域の方々にうまく受け入れてもらえるかが心配だったけれど、来てみたら拍子抜けしたほど、皆さ暖かく受け入れてくださった。

地方の田舎ほど「閉鎖的」「よそ者には冷たい」と散々脅かされてきたので、「最初から簡単には受け入れてもらえない」と覚悟していたのだ。半年か一年くらいかけて、徐々に信頼関係を築いていこう、と秘かに思っていたら、最初から皆さんオープンマインドで、私の心配は吹き飛んだ。

移住して早々に、村の婦人会の旅行で金沢・山中温泉に一泊二日で行ったことも忘れられない思い出。母親と同じくらいのお母さんたちと温泉に入り、旅館のご馳走をいただき、お酒を飲みながら盛り上がった。

二次会ではホテルのラウンジでカラオケ大会に。びっくりしたのが、お母さんたちのお酒の強さ。

日頃お酒を飲むことはないそうだが、こうした「ハレ」の日は皆さんクイクイと杯が進む。

マイクを片手にまるで14歳のようにハッスルする村のお母さんたち。ところどころ会話に出てきたのは、この明るく、たくましいお母さんたちも、若い頃は、お姑さんとの「嫁姑」関係でだいぶ苦労したとか……。

外からひょいとやって来た「一見(いちげん)さん」みたいな私にも優しくしてくれるのは、昔、苦労したゆえの優しさなのかな、とふと頭をよぎった。

そう、私の田舎暮らしを悩ませるのは「ひと」ではなかった。四季折々に出てくる「虫」や「生き物」だったのだ。

動物や虫と共存しながら暮らしていく

鳥rウートピ6回目

ちなみに今、この原稿を書いている台所の照明のまわりでは、ヘクサンボ(カメムシ)が旋回している。ブーンブーンと妙に気に障る音を立てながら。

このヘクサンボ、水が綺麗で環境のいいところにしか出ない。自然の豊かさと比例して出る虫であるが、このヘクサンボが多く出現すると、その年は大雪が降ると言われている。今年はこのヘクサンボ、妙に多いような気がして、今から来るべき雪に向けてドキドキしている。

夏は蚊をはじめ、ブヨやオロロ(こちらの方言。アブに似た虫)に悩まされる。刺されると半端なく腫れる。蚊と言えども山に住む蚊は東京と違って強いのだ。今年の夏も、左足を何かに刺され、象の足のように腫れた。次の日はまともに歩けないほどに。

そして巨大ムカデや家の窓にはヤモリ。巨大ムカデは遭遇すると一瞬、怖気づくが、ヤモリは家を守ってくれる「守り神」とも言われ、そのビジュアルも可愛らしい。

そして深夜寝静まると天井をカサコソ走り回る小動物(おそらくネズミ?)。

家に仕掛けたネズミ捕りに生きたネズミが引っ掛かった時はその対処法をどうしたらいいか、泣きそうになった。強力な粘着テープの上にへばりついたネズミ。まだ息をしている。捕獲したはいいけれど、この後、どうしたら?と即座にFB(フェイスブック)に投げかけたら、たくさんの人が有効なアドバイスをくれた。困った時の「FB頼み」だ。

と、キリがないほど、いろいろな虫や動物との遭遇が日常茶飯事だが、これもきっと慣れれば大したことはないのだ。たぶん。今、私が住む立山町・千垣の村。どこか、母の田舎に似ていて不思議と落ち着く村。

田舎のしがらみがイヤで東京に出てきた母。そんなしがらみを求めて都会を出てきた私。

今、母が生きていたら、私のこの人生の選択について、何て言うかな?なんて思いながら、今日も新しい朝を迎える。

写真:松田秀明

高橋秀子