将来の妊娠に備える卵子凍結保存について、市民の56%が「よい」と肯定的に考えていて、その割合は3年前より増えていると先月、毎日新聞が報じました。

市民の間では卵子凍結にポジティブな意見が増えているようですが、その背景には企業や自治体の取り組みもあるようです。

卵子凍結保存のニーズやその背景について「オーク住吉産婦人科」(大阪市西成区)の船曳美也子(ふなびき・みやこ)先生に聞きました。

企業、自治体の取り組みが追い風?

当院では、「がん治療で妊娠できなくなる前に卵子を保存しておきたい」などの医学的理由により2008年より卵子凍結を行ってきましたが、「健康で未婚。今すぐ妊娠の予定がないが、将来の妊娠の可能性を残したい」という、社会的理由で初めて卵子凍結を行ったのは2010年です。

ある時、私の知人女性が「海外では卵子凍結を行っているようだが、このクリニックでもやってもらえるか?」と、相談に来たのがきっかけでした。その後2011年と、翌12年は数名でしたが、13年より増加して、14年、15年は100名前後の方が凍結しています。

これは、卵子凍結に関する報道が近年、急増したことも影響しているでしょう。アメリカでは、アップルやフェイスブックが女性スタッフの卵子凍結をサポートしたり、日本では、千葉県浦安市のように、自治体が助成金を設けたりしたことがニュースで流れました。また、日本生殖医学会により卵子凍結保存のガイドラインが制定されたことも凍結件数が増えた理由の一つと言えるでしょう。

晩婚化は知的成熟社会の宿命

男女とも晩婚化・晩産化が進んでいる今の日本ですが、落とし穴が一つあります。それは、男性と女性では、生殖適齢期に差があることです。たとえば50歳の時点で、平均的女性は閉経して生殖能力を失いますが、男性にはまだ生殖能力があります。寿命が延びても、女性の生殖適齢期は昔と変わらず20代なのです。

しかし、20代がいくら妊娠・出産に適していると言われても、「じゃあ、とりあえず、産んどきます」とはいきませんよね。男性にとっても、女性にとっても20代は仕事や学業に打ち込みたい時期。また、晩婚化は、知的に成熟した社会の宿命でもあります。今は、「結婚して一人前」ではなく、「一人前になって結婚しよう」という時代なんです。

成熟した先進国に生きている以上、晩婚化は仕方ないけれど、生殖適齢期は変えられない。こういう事実を教育できちんと伝えた上で、卵子凍結という選択肢を考えてほしいですね。その安全性や限界も知って、「どんなふうに生きたいか」を自分で考えることが大事だと思っています。

21人に1人が体外受精で誕生

体外受精が世界で初めて成功した時は、「試験管ベビー」といわれ、まがい物扱いでしたが、2014年の統計では、21人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれています。卵子凍結も、今後、出産数が増え、「特別なもの」から「保険として当たり前のもの」になっていく可能性はあるでしょう。

(編集部)

船曳美也子(ふなびき・みやこ)1983年 神戸大学文学部(心理学専攻)卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、認定産業医。肥満医学会会員。不妊治療・体外受精専門の医療法人オーク会勤務。オーク住吉産婦人科、オーク梅田レディースクリニックを中心に診療にあたっている。体外受精の第一人者で卵子凍結にも詳しい。自らも、2度目の結婚で体外受精を繰り返して妊娠、43歳で出産。2013年、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書『女性の人生ゲームで勝つ方法』(主婦の友社)を上梓。