東京に生まれて、大学も就職も、生活の拠点はずっと東京。それが、ひょんなことからキャリアをリセットしてIターン&お一人様で富山県へ。 仕事、暮らし、人間関係……。42歳にして、まったく未知の世界に飛び込んでしまった、おんなお一人様の移住物語である。
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今、田舎暮らしは、20代、30代の若い層にも、確実に浸透してきている。UターンやIターンを希望する年齢層が以前より若くなっているのは、私自身、東京での移住フェアに相談員として参加して感じること。

何より、東京であれ、地方であれ、それぞれが自分のチカラや魅力を最大限、発揮できる「場」に巡り会えることが、一番大事なことだと思う。

自分にとってそんな「ステージ」と思えた富山で食べてゆくために、自分の手で稼げるモデルを作る。これが今の私のテーマである。

「日本の中心=東京」という神話

秋のさくらr

就職でいったん東京に出た後、30代半ばで富山にJターン*してきた友人と話していた時のこと。地方に行くって、ちょっと前までは、「都会での生活に疲れた敗北者」みたいなイメージあったよね、と私が何気なく話すと、その友人、「今もそれほど変わらないと思うよ」と。

*一度都会に出た人が、故郷ではなく“故郷に近い場所”に移住すること。

聞いてみると、その彼女は、夫、子どもの3人で今から10年ほど前、東京を引き払って富山に戻ってきたそうだが、ある日、ママ友の一人から「なんでこっちに戻ってきたの? 旦那、リストラされた?」と唐突に聞かれたそうだ。

そんな質問にもビックリだけど、「東京から地方に戻ってくる=リストラ」って、少し、短絡的過ぎるような……。その古い思考に笑いがこみあげてきたのだけど、彼女いわく「今でもその風潮はあるんじゃないかな」と。

どうやら、そうらしいのだ。

私にはわからないけれど、やはりまだ、東京=日本の中心、という「東京神話」が根深く残っているのだなぁ、と。

私は思う。

「地方=都会でドロップアウトした人」というイメージは、もういい加減、古いからやめませんか?と。

そんなイメージを持たれる地方や田舎だって迷惑だろうし、都会からの移住者を受け入れる町だって、「疲れ果てて、癒されに来た人」よりも、「エネルギーに満ち満ちて、村を元気にしてくれそうな人」に来てほしいよね。

でも、そんな「地方=落伍者」のようなイメージを持っているのが、ほかならぬ、地域住民の意識だとしたら、これはなかなか根深いぞ。

よそから来た私のような移住者が、「ここにはお宝がいっぱいあって魅力ありますよ」と外に向かって発信するのはもちろん大事だけど、何より、そこに生まれ、住んでいる人たちが「オラが村への自信と誇り」を持つことが一番、大事なんだろうな、と。

自分の人生は、自分で生きるしかない

連峰立山r

私自身は、「自分をもっとバージョンアップさせたい」と思って、富山へ移住したのだけど、東京での暮らしが、これ以上、大きな変化もなく、閉塞感を感じていたのかもしれない。

子どもの頃から育った場所で、友達もいるし、勝手も知っている。母のお墓が青山にあるので、休日は、青山、表参道、外苑前を散策しては新しいカフェやギャラリーに足を運ぶ日々。文化度も高い。

いい意味では安定していた。だけど、この先の人生も、想像がついちゃったのです。じゃあ、今よりもう一歩、自分を進化させるには何かな?と思った時、今までと180度違う世界に行くことだった。

もちろん、家族や子どもがいたら、簡単なことではないと思う。

だけど、私が今、自分の移住経験を通じて強く思うことは、人生という物語の主人公は、紛れもないあなた自身であり、脚本を書くのも、キャストを決めるのも、監督するのも、主演を演じるのも、その物語に流れるテーマソングを決めるのも、すべてあなた自身である、ということ。

自分の人生は、自分で生きるしかない。

誰かを羨んでも、それは他人の人生で、あなたが生きられるのは、あなたの人生でしかないのだから。

そんな当たり前のことに気づいたら、やっぱり、やらないで後悔するよりも、
やってみて、そのうえで失敗と思ったら、撤退するなり、また立ち上がればいい。

失敗しても、命を取られることはないのだから。

この国では、野垂れ死になんかすること、ないのだから(その前に、誰かがそっと手を差し伸べてくれるはず)。

田舎でも稼げる方がカッコいい!

黄葉r

なんてカッコいいことを書きながらも、今、私の生活が苦しくないか、と聞かれれば、「人生の中で最も貧乏である」と断言できる。

地域おこし協力隊の報酬としていただくお手当ては月額15万ちょっと。家とクルマは行政から支給されているので、それはとても助かる。なにせ、東京時代は、家賃代が大きい負担だったから。

ただ、収入自体は以前と比べて、圧倒的に減ったし、月々の報酬から、税金や保険やら必須なものを引いていくと、手元に残るのはわずかな金額。やりくりに頭を悩ませているのは事実だ。

なので、ご近所からのお野菜やお米などのおすそ分けは本当にありがたい(それに対するお礼は、私の場合は、たいていお菓子が多い)。

あと1年ちょっとしたら、地域おこし協力隊の任期が終わり、自分で食べていかなくてはならない。そんな私のテーマは、「地方で稼げる仕組み」を考えること。

私のようにひょいと地方へ移住してきた女性が、自立して、稼げるモデルを作ることは簡単なことではないかもしれない。

だけど、それができれば、後に続くかもしれない移住希望者にとって、ささやかな「兆し」になるかもしれないと思う。「お金を使わず生活できる田舎暮らし」よりも、「田舎でも、稼いで、東京と行ったり来たりできる暮らし」の方が、断然「カッコいい!」に決まっているから。

小さくても自分の手で生業を起こし、それが地域の魅力発信にもつながり、かつ、その稼ぎで、富山と東京を行ったりする「二地域居住」を実現させるくらい稼げるモデルを作る。

そして、いつか真っ赤なクルマに乗って、富山と東京を行ったりきたりする。それが目下、私の目標なのだ。

写真:松田秀明

高橋秀子