「転職の壁」と「出産の壁」が同時に目の前に現れ始める女性の35歳。「好きなことをしたい」と「自由に生きたい」をどちらも両立したいなら、“起業”も一つの選択肢かも。この連載では、これまで30代女性の起業を多数サポートしてきたFPの氏家祥美さんと鈴木さや子さんに、35歳の起業のリアルと、失敗しないための秘訣を教えていただきます。
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ラッシュ時の電車に揺られながら会社に向かい、いつもと同じような業務をして、いつもと同じように帰宅する……そんな毎日に嫌気がさした時、「独立」や「起業」といった言葉が頭に浮かぶ30代女性は少なくないかも。

そんな女性に向けてお届けしている連載、「『好き』と『稼ぐ』を両立したい over35のためのぼちぼち起業」。今回は「副業禁止の規定があってもできる起業の準備」です。独立してすぐに稼げるようになる人なんて、まずいません。ちゃんと稼げるようになるまで会社のお給料で生活して、それから安全に独立するのも断然アリ。その方法をお教えしましょう。

副業禁止でもできる5つの準備

向こう見ずが許される20代ならいざ知らず、30代のいい大人になって「いきなり退社して起業!」はいくらなんでもリスクが高すぎますし、絶対にありえない選択です。

いい大人なら、背負わなくていいリスクは背負わない。あらかじめ予想できる問題は、できるだけ潰しておくのが基本の「き」。「独立しよう」「起業しよう」と決めてから実際に退職するまでの期間に、しっかりお給料をもらいながらやっておきたい準備が、次の5つです。

【1】会計の基礎を頭に入れておく
【2】ニーズを調べておく
【3】見込み客を増やしておく
【4】収入ゼロでも1年間生きていけるお金を貯金する
【5】家族の理解を得ておく

【1】会計の基礎を頭に入れておく

実際に起業をした人が直面した課題は「経営知識一般の習得」という結果が出ています。

筆者も、34歳でFP(ファイナンシャルプランナー)の資格を取得して、38歳で独立、会社を設立しましたが、やはり最初にぶつかった課題は、会計処理の実務と契約関係の知識でした。そして、絶対不可欠なのが会計の知識だと痛感しました。

起業してすぐに税理士や行政書士に丸投げできればいいですが、手元の資金が限られており、月に数万、決算月に十数万もの出費は無理。大抵は、起業後の数年、自分で経理や事務をやることになります。

起業家は、すべて一人でやらねばならない孤独な「何でも屋」。部署によって分業できた会社員とはわけが違います。「起業の準備」というと、どうしてもサービスや商品ことが頭に浮かびがちですが、実際にはこういう地味な部分が、起業後に足を引っ張ることもあるんですね。

勉強する時間があることは、オンとオフがはっきり分けられる会社員の特権です。通勤時間や退社後の自由時間、土日を活用して、勉強できることはしておきましょう。

無料または数千円の安価で経営実務セミナーがあちこちで実施されています。そういう場に顔を出すと仲間を見つけられ、いい刺激にもなります。また、会計などの実務についても、いくつもの動画が無料公開されていますので、探すべし。通勤中に毎日15分ほど続けるだけでも、独立後「やっててよかった」と思えるはずです。

【2】ニーズを調べておく

「起業したい」「独立したい」という人にありがちなのが、「よい商品・サービス」ばかりにこだわってしまうこと。それがどんなに優れた商品やサービスでも、世の中にニーズがなければはっきり言って無意味です。

ですから、会社員のうちにやっておきたいのは、「これならいけるはず」という思い込みを捨て、本当にニーズがあるかを調べること。独立後「売り上げが立たない」と焦る状況では、冷静にニーズを見極められない人も少なくありません。収入の面でも心配事のない会社員時代に、正確にニーズを捉えておきましょう。

通勤時間などの「空き時間」に簡単にできる市場調査としては、ネットに転がっている消費者のニーズをまめにチェックするのがおすすめ。たとえば、ママをターゲットにした商品やサービスを考えているなら、ママ向けの掲示板や相談サイトをくまなくチェック。ネット上でのニーズ調査の次は週末などを利用して、ターゲットとリアルに会える場所に出かけましょう。

【3】見込み客を増やしておく

「見込み客ゼロ」の状態で開業しない。これはもう鉄則中の鉄則です。もし「見込み客ゼロ」でスタートした場合、商品やサービスが売れてお金が入るまでに、数ヵ月から長い場合だと1年以上。売り上げゼロのまま廃業なんてことも……。

そんなことになったら、最悪です。ですから、会社員のうちにできるだけ見込み客を増やして、独立と同時に営業をかけることで、売り上げゼロの期間を短縮しましょう。

これは筆者の実感でもありますが、見込み客を増やすには、思いのほか時間がかかります。では、どうやったら見込み客を増やせるか? 積極的には動けない会社員におすすめなのが、ブログを立ち上げて情報発信をしたり、読者とコメントのやりとりをしたり、無料メルマガを配信したりといった方法です。本名を明かさずにできるので、「同僚にバレたくない」という方にもハードルが低いのが魅力です。

また、会社員だからこそつながれる人脈を使うのもアリです。今の仕事と、今後立ち上げるビジネスのターゲットが近いのであれば、「この人は見込み客になりそうだから、ニーズを聞き出しておこう」と積極的に会話をするのも有効。会社の名刺と肩書を使えるうちは、それをフル活用して人脈を広げておくといいでしょう。

【4】収入ゼロでも1年間生きていけるお金を貯金する

独立・起業してから食えるようになるまで、何年かかると思いますか? 

実は平均で3年かかると言われています。もちろん3年で食えるとは限りません。なぜなら、7割もの事業所が3年以内に廃業すると言われているのが「起業」の現実。「これは絶対に売れる」と自信満々で周囲もみんな太鼓判を押していても、実際は売り上げゼロなんてケースはザラ。どんなに「いける」と思っていても、無収入で1年間生きていける分くらいは貯金が必要です。

生活レベルは急には落とせません。今の家賃、食費、光熱費、その他の生活費を1年払えるだけのお金の準備を。独立後には予期せぬ出費も多いため「節約すればいいや」という甘い発想は捨てること。「足らなくなったら、アルバイトでなんとかする」も基本はなし。生活費を稼ぐために本業がおろそかになっては、元も子もありません。

【5】家族の理解を得ておく

特に独立・起業した女性に多い課題が、「家庭との両立」と「家族の理解・協力」です。「プライベートと両立しやすいから」「子どもが小さくても働きやすいから」という理由で自営業を選ぶ30代女性は多いですが、実際には家族の理解が得られずに苦労することも。

筆者自身、「子どものそばにいながらしっかり稼ぎたい」という理由で起業したものの、理想を叶えられるようになったのは、起業後5年以上が経過してから。しかも、最初は家族(夫)にほとんど相談せず始めてしまったので、起業時はあまり理解を得られずつかった記憶があります。

起業をすると、生活リズムは大きく変わります(特に子どもがいる場合は)。収入面も含めて、これからどんな生活になるのか、家族とイメージを共有しておくのは、とても大事です(自戒を込めて!)。

うまくいっている時もいかない時も、結局、家族は一番の応援団です。筆者自身、一時は不穏な空気が流れていた夫とも、事業について積極的に相談するようになってからは関係が改善。今や頼れるパートナーです。「頼りにしている」と折に触れて伝え、「いつもありがとう」の言葉を忘れないこと。それも事業継続(と夫婦円満)の秘訣です。

週末起業でイメージを掴む

【1】〜【5】の準備には、人にもよりますが、だいたい6ヵ月から2年くらいかけましょう。準備ができて、「いよいよスタートできそう」というところまで来たら、会社を辞める前に、最低6ヵ月ほどかけて「プレ起業」をしてみましょう。

副業禁止の規定があっても「無料提供」なら大丈夫。週末を利用して商品やサービスを提供しながら、よりニーズに合うように練り上げたり、「お客様の声」として紹介できるコメントを増やしたりできます。ただし無料提供であっても、寝不足になるなど本業に支障をきたすのは、場合によっては規定違反になるのでご注意を。

「いざやってみたら、自分のイメージと違った……」と実感したなら、起業準備はしばらくペンディングして見通しが立つまで、そのまま会社員を続けるのもアリ。何も焦ることはありません。35歳を過ぎてからの独立・起業は、「安全第一」です。「これで絶対にいける」と確信できるまで、無理に足を踏み出すことはありません。壁にぶち当たったら、一歩引いて、また準備を練り直しましょう。

(鈴木さや子)