タグ
2016/11/01

FGM――女性器切除。主にアフリカにおいて、「結婚まで処女であったことを証明するために膣を縫い閉じておこう」「浮気をしないように性感帯を切り取っておこう」といった理由から行われてきた風習である。

この風習は、国際連合をはじめ、さまざまな国際的組織から批判されてきた。外部からの批判のみならず、実際に女性器切除を受けさせられた女性たち自身も活動家となり、女性器切除廃絶を訴える社会運動を続けてきていた。

そうしたことが実を結び、女性器切除を受けさせられる女性は減ってきている。1985年、現地では15歳から19歳の少女のうち51%が女性器切除の対象とされていたが、現在ではその割合は37%に減少している。*

*2016年、UNICEF調べ

だが、一度切除されてしまった女性器は、二度と元に戻ることはない。性交の苦痛、排尿のたびに走る痛み、出産時の大量出血、何度も夢に見る切除時の恐怖。切除の際に消毒や麻酔が行われなかったため、感染症やショック症状で亡くなる女性も少なくない。

そうした状況を打破しようと、一人の男性産婦人科医が立ち上がった。西アフリカのブルキナファソにクリニックを構える、ミシェル・アコティオンガ医師である。

400人もの再建手術を行なった医師

もともとは聖職者になることを目指していたが、姉妹や故郷の女性たちが女性器切除に苦しむのを目の当たりにし、医師になることを志した。やがて女性器再建手術のパイオニアとなったアコティオンガ医師は、2012年、満を持してブルキナファソにクリニックを構えることになる。

「男性患者に麻酔をして割礼手術ができるならば、女性に対しても同じように麻酔を施して女性器再建手術ができないわけがない」

*le mondeより抄訳

フランスの有名紙「ル・モンド」にそう語ったアコティオンガ医師は、2012年の開業以来、すでに400人ほどの患者の女性器を再建してきたという。

しかしながら、これだけで「めでたし、めでたし」とは行かないのが、この問題の根の深いところだ。たとえ女性器再建の技術が医学的に確立されたとしても、それだけで女性の尊厳まで回復されるわけではないのである。

身体の傷は治せても、心の傷は治せない

たとえば、アコティオンガ医師のもとを訪れる患者の中には、「夫の性的快感のために」手術を受ける人もいるのだという。「女性の身体は夫である男性のものであり、女性自身の性的快感は二の次だ」という発想は、クリトリス切除を行う側の発想と変わらない。

また、一度手術を始めてみると、なかなか血が止まらなくなる患者もいる。

原因は、肌を白く見せると信じられているコルチコイド剤の作用だ。色白の方がいいからコルチコイド剤を飲む、処女の方がいいからその証拠に女性器を縫い閉じておく……止まらない血は、あたかも、自分の身体を結婚相手となる男性の都合で変えさせられる女性たちの痛みを象徴するようだ。

そうしたことを乗り越えて、無事に女性器再建手術を終え、クリトリスや小陰唇を取り戻したとしても、二度とセックスを楽しむことができない人もいる。女性器切除のトラウマが蘇り、女性器への刺激自体が精神的苦痛になってしまうのだ。

身体の傷は治せても、心に傷をつけるようなことが続いてしまっては意味がない。

いまだ残る、性的パーツが値踏みされる風潮

今年8月には、ブルキナファソで「Miss Bim-Bim(デカ尻ミスコン)」なるイベントが企画され、女性省の指導により中止となるという出来事もあった。南アフリカの人々の一部には、ステアトパイジアと呼ばれる生まれつきの大きなお尻を持つ人がおり、こうした女性たちが19世紀ヨーロッパにおいて裸で見世物や標本にされたという負の歴史がある。

女性の身体が女性自身のものとして扱われず、女性器やお尻といった性的なパーツばかり切り取られて値踏みされるような風潮は、改善されつつあるものの、解決はされていない。

アコティオンガ医師による女性器再建手術に要する時間は、45分間だという。それでは、女性の尊厳が回復されるのに要する時間は、いったいどれほどのものだろうか。

【関連資料】
・書籍「切除されて」キャディ著、松本百合子訳/ヴィレッジブックス刊、2007年
・映画「デザート・フラワー」シェリー・ホーマン監督、ワリス・ディリー原作/2010年日本公開

牧村朝子