男性不妊の治療中なのに、夫が排卵日に酔っ払って帰ってくる。ふさぎ込んでばかりで向き合ってくれない。ケンカが増えて離婚の危機……。そんな男性不妊にまつわる問題を、妻としてどうマネジメントしていけばいいのか? これまで5000人以上の不妊体験者を支援してきた妊活コーチでNPO法人Fine理事長の松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに聞きました。

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治療中に言ってはいけない妻のひと言葉

――単刀直入にお聞きします。「男性不妊」を乗り越える秘訣は何ですか?

松本亜樹子さん(以下、松本):夫を支え、二人で取り組もうとする妻の姿勢が最大のカギですね。そもそも夫の側は、自分に不妊の原因があることで、男性としての自信を失っているし、自分のせいで奥様の心や身体に大きな負担をかけているという負い目も抱えています。

実際、それで苦しんでいる男性はたくさんいます。心理的にかなり追い詰められている夫を、妻がどれだけサポートできるか――これが男性不妊を乗り越えるカギです。

――とはいえ、妻も身体の負担も大きいですし、プレッシャーもありますから、うまくサポート役に回れないこともありそう……。

松本:確かに、奥様はしんどいと思います。苦しい治療を何年も続けているのに授からない、まわりはどんどん妊娠していく……そんな状況で「この人と結婚しなければこんな目に遭わなくて済んだのに」とか、「私は悪くないのに、私だけがこんなにつらい思いをして……」と、泣きたくなることもあるかもしれません。

実際に、そういう気持ちを口にしてしまう方も少なくないんです。無理もないことですが、妻の口から言われてしまったら、旦那様は本当に立ち直れなくなってしまいます。

――どうしたらいいでしょうか?

松本:まず、男性不妊が発覚しても、冷静でいるように意識してください。男性不妊だからといって、子どもができないと決まったわけではありません。とにかく落ち着いて最善の策を考えようと意識を切り替えることが大切です。

一番やってはいけないのは、夫を責めること。責めたい気持ちになっても、ここはグッとこらえてください。誰しもなりたくて不妊になったわけではないし、もしそれが逆の立場だったら、どうでしょう? 愛する人に責められるなんて、こんなにつらいことはないですよね。

結局、不妊は、どちらに原因があるとしても「夫婦の問題」なんです。そもそも夫婦が子どもを望まなければ、何の問題にもならないことですから。

排卵日に酔っぱらって帰ってくる夫をどうするか?

――とはいっても、例えば、排卵日に酔っぱらって帰ってくる夫にイラついてしまう妻の気持ちもわからなくはないのですが……。

松本:そうですね、男性不妊と関係なく、妊活を始めた夫婦がケンカをする原因のトップ3に、「排卵日に夫婦生活が持てない」があるんです。夫のせいでセックスできないと、「これでまたひと月遅れた!」と怒りが込み上げてくると思いますが、ここで覚えておきたコツがあります。

アンガーマネジメントという心理トレーニングで使われるテクニックで、ムカッときたら、6秒待つんです。すると、怒りをコントロールしやすくなります。

酔っぱらって帰ってきた旦那様に思わず腹が立ったとする。でも、怒鳴る前に6秒待って、その間に考えてほしいんです。私がここで怒って、はたしてそれでいい結果が得られるのだろうか、と。怒鳴ることで自分が得られるものは何だろう?と。 そう考えれば、怒鳴ったりケンカしたりすることを、自分が望んでいないと気づくはずです。

――たった6秒でいいんですね。

松本:排卵日に限らず、妊活に関しては、夫婦の意識や歩調が合わないことは往々にしてあります。でも、一歩引いて冷静になり、「自分が得たい結果を得るためにはどうしたらいいか」を常に考えて行動できたら、大きなケンカにはならずに、二人で妊活に取り組めるようになると思いますよ。

そのためにはまず、夫婦でたくさん話をしてもらいたい。男性は、自分に不妊の原因がある場合、誰にも話せずいろいろな気持ちを腹の奥に溜め込んでしまいます。唯一の理解者は、奥様だけなんです。

――それなのに、奥さんはいつもイライラしている、排卵日、排卵日とせっつかれる……こんな感じだと話もしたくなくなりますよね。でも、距離が近いぶん、夫をないがしろにして甘えてしまいがち……。

松本:パートナーは一番近しい家族ですから、普段は甘えたって少々わがままを言ったっていいんですよ。でも「ここぞ」という時は、一番気を使って、大切に扱わなければいけない相手。男性不妊は、まさしく「ここぞ」の時だと思います。

大ゲンカをする夫婦ほどうまくいく?

――紆余曲折ありながらも、無事に出産にたどり着いたご夫婦もいますか?

松本:たくさんいますよ。男性不妊といっても、軽度のものから重度なものまで幅があるし、今は治療法もかなり進んでいます。昔なら治療が難しかったケースでも、精巣を探して一つでも精子があれば受精して着床するケースもあるので、希望を捨てる必要はありません。

――理想の形で妊活を終える夫婦に共通していることは?

松本:さっきの怒りの話と矛盾しているかもしれませんが、みんな大きなケンカをしていますよね(苦笑)。揉めに揉めて離婚寸前までいって、だけど粘って今はかわいいお子さんに恵まれて幸せに暮らしているご夫婦は何組もいます。

男性不妊の場合、男性本人が奥様に対して言い返せないまま、知らず知らずのうちに心を病んでいくケースもあります。一方的に怒りや不満をぶつけるのはよくないけれど、腹を割って言い合える関係は妊活においては理想的ですね。

治療中には、目に見える痛みと目に見えない痛みが伴います。それを二人でどう共有するか――妊活こそ、本当の“夫婦力”が試されます。妊活をきっかけに夫婦の絆を太く強くしていただけたらと思います。

【参考ウェブサイト】
一般社団法人 日本生殖医学会
横浜市立大学 研究推進センター
我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究

(江川知里)

松本亜樹子(まつもと・あきこ) NPO法人Fine理事長。一般社団法人日本支援対話学会理事。長崎県長崎市生まれ。コーチ、企業研修講師、フリーアナウンサーとして全国で活躍。2004年、NPO法人Fine~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~(http://j-fine.jp/)を立ち上げる。自身の不妊の体験を活かして『ひとりじゃないよ!不妊治療』(角川書店、共著)、『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)を出版。