不妊治療のウソ・ホント第6回

不妊治療をめぐる最大の誤解はこれだった 「排卵誘発剤」のウソ・ホント

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不妊治療をめぐる最大の誤解はこれだった 「排卵誘発剤」のウソ・ホント

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先月、体外受精で生まれた赤ちゃんが過去最多の4万7000人に達した(2014年誕生)というニュースが流れました。これは実に「新生児の21人に1人」という計算になります。

つまり今や、「体外受精で子どもを授かる」という方法は、実際に選びうる選択肢の一つであり、誰にとっても他人事ではないのです。ところが、私のこれまでの取材の結果、現在の日本では、体外受精の実施方法について医師のガイドラインがなく、実際にどのように行われるかは施設によってバラバラであることが見えてきました。ネットで調べてもいろんな人が違うことを発言していて、治療を受ける側の混乱は深まるばかりです。

排卵誘発剤には2種類ある

そんな日本の体外受精のありかたを象徴しているのが、排卵誘発剤をめぐる状況です。

排卵誘発剤は、種類も多く、使用目的もさまざま。その名の通り、排卵障害や生理不順、無月経で妊娠しにくい女性に排卵を促すためにも使われますが、それだけではなく、排卵できている人が、より妊娠しやすくなるためにも使われます。

排卵誘発剤は、「飲み薬」と「注射薬」に大きく分けられます。

卵子を育てる排卵誘発剤のいろいろ(写真提供・浅田レディースクリニック)

卵子を育てる飲み薬のいろいろ(写真提供・浅田レディースクリニック)

 

卵子を育てる注射薬のいろいろ(写真提供・浅田レディースクリニック)

卵子を育てる注射薬のいろいろ(写真提供・浅田レディースクリニック)

よくネットでは「飲み薬は作用が穏やかで身体にやさしい」「注射は副作用が強くて大変」と説明されていますが、言い換えれば、注射の方が飲み薬より作用が強いのです。

日本では「どちらがいいのか?」という議論がしばしば見られますが、国際的には、注射薬に反応できる卵子が十分にあるうちは、注射薬が優先されます。その理由は単純明解で、注射薬の方が妊娠率が高いから。でも卵子が注射薬に反応できない(=少ない)状態にあれば、飲み薬を続けて、卵子が育つのを気長に待つ治療に入ります。

注射薬の方が妊娠しやすい理由

注射薬は、なぜ妊娠率が高いのでしょうか?

それは、注射薬の成分が、「卵巣刺激ホルモン」「黄体化ホルモン」と同じだからです。この2つのホルモンは、卵子を育てる時期に脳から分泌され、卵子に「大きく育ちなさい」と働きかけるもの。つまり注射薬は、脳からホルモンが大量に出ている状態を人為的に作り出してくれるのです。

これにより、同時にたくさんの卵子を育てられるようになります。ヒトの排卵は一度に1個ですが、注射薬を使えば一度に複数の卵子を成熟させることができるわけです。採卵の段階で、それらをすべて採れば、出産できる卵子に「当たる確率」は高まります。

「出産できる卵子」は20代でも4個に1個くらいしかないという話は、この連載の第2回(http://wotopi.jp/archives/40755)でもしました。そのくらい限られている可能性を人工的に上げられるのですから、「妊娠できないかも」という状況では魅力的だと思います。

卵子は何個採卵すれば妊娠できる?

採卵できる卵子の数が多いほど、採卵あたりの妊娠率が高まることはすでに証明されています。次のグラフを見てください。飲み薬では1個から数個しか卵子が採れませんが、まだ卵子に余裕がある人なら注射薬を使うと何倍もの卵子、何倍もの出産率を期待できます。

不妊治療データ第六回1

※グラフでは15〜25個を越えると妊娠率が低下し始めますが、これは卵子が多いとその月の子宮内膜が過熟となってしまうため。受精卵を凍結して別の月に戻せば妊娠率は伸び続けます。

一般に「体外受精は妊娠率が高い」と言われますが、弱い薬で1個から数個程度採卵をする方法では、なかなか「出産できる卵子」に当たらず、採卵を何度も繰り返すことになりかねません。

体外受精は、身体とは環境が大きく異なる培養室で受精させるため、1回の妊娠のために驚くほどたくさんの卵子が必要になります。海外の代表的な学会が合同で開いた国際会議では、1人の赤ちゃんを出産するために必要な卵子の数は、平均で25.1個、38歳未満の女性に限れば6〜16個という結論に達しています。

日本語で書かれたネットの情報の中には、「一度にたくさん採れた卵子は、一つずつの質が低いから培養しても妊娠しない」といった表現がよく見られますが、実際のところ、妊娠率は採卵数が多いほど高くなります。

排卵誘発剤のデメリットは?

では、排卵誘発剤は作用の弱い飲み薬よりも、作用の強い注射薬の方がいいのでしょうか? 注射薬を使った体外受精にデメリットはないのでしょうか?

排卵誘発剤に関しては、長年「発がん性」の問題が議論されてきました。排卵誘発剤で増える女性ホルモンにより、がんになる可能性が高まるのではないかと懸念されてきたのです。でも、これに関しては現在、「発がん性は心配しなくてもよい」と考えられています。女性ホルモンは妊娠によって急上昇しますが、その量に比べれば、体外受精で使う薬の量はごくわずかで使用期間も短期なのです。

今のところ、排卵誘発剤の最大のデメリットは、「卵巣過剰刺激症候群」という副作用です。「卵巣過剰刺激症候群」が起きると卵胞が育ちすぎて卵巣が腫れてしまいます。重症化すると、腹水が溜まったり血液が濃縮したりして危険な状態に陥ることも。卵巣の中に卵胞がたくさんある人に起きる副作用なので、20代の若い女性、体質的に卵胞が育たず卵巣に溜まってしまう「多嚢胞性卵胞」の人、AMH検査で値が特に高かった人は予防が必要です。

対策としては、例えば、「卵巣過剰刺激症候群」が起きやすい薬「hCG製剤」を「GnRHアゴニスト」という薬に置き換えること、薬の量が多い「ロング法」という方法は避けることが有効です。幸い、対策が進歩して最近では重症の副作用は激減しています。

他に考えられるデメリットは、注射の手間と痛み。でも、近年では自分で注射を打つ方法がメインになりつつあるので、通院の手間は減っています。また採卵にも痛みは伴いますが、これも麻酔をしてくれる施設を選べば痛みはありません。

注射薬は、卵子の数が減ると効果が出にくくなります。卵子の数に余裕がある状態でないと意味がないので、女性の妊活開始年齢が上がっている現状では、このタイプの治療を受けられる人は減っています。

今回は「排卵誘発剤」という、不妊治療をしていない人にとってはちょっとマニアックなテーマを扱いました。でも、これは実際に不妊治療を受けるなら避けては通れない問題の一つです。「注射薬」にするか、「飲み薬」にするか、自分の身体の状態を正しく把握して、納得のいく選択をしていただきたいと思います。

監修・浅田義正(浅田レディースクリニック理事長)
グラフは『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」(講談社ブルーバックス)より転載

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不妊治療のウソ・ホント

「日本人のカップルの6組に1組が不妊」とされる今の時代。今回から始まる連載では、日本で唯一の出産ジャーナリストである河合蘭(かわい・らん)さんが長年にわたる膨大な取材をもとに、不妊治療にまつわる「ウソ」と「ホント」を解き明かしていきます。

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