ファッションデザイナー・鷺森アグリさんインタビュー

「理由より欲求を大切にしたい」30歳で決意したリスタート

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「理由より欲求を大切にしたい」30歳で決意したリスタート

「しなやかに、生きる。」
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今シーズンからリニューアルをし、ファッションというジャンルを超えて注目を集めるブランド「agris」。そのデザイナー、鷺森アグリ(さぎもり・あぐり)さんは20代のうちに数々の大きな賞を受賞し、華々しくファッション業界にデビューした逸材。成功したがゆえに苦しんだ20代を経て、30代を迎えた鷺森さんが目指すものとは?

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「援助なしでもやりたいことをやりなさい」

--そもそも、なぜファッションデザイナーに?

鷺森アグリさん(以下、鷺森):私の母が大阪でアパレルの会社をやっていたので、その影響がまずありました。クリエイションとして、ファッションを意識したのは、石岡英子さんの存在が大きいですね。石岡さんはハリウッド映画やビョークの衣装デザインをやっていらっしゃる世界的なアートディレクターで、10代の時にその仕事に魅了されました。

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--具体的にファッションの道へ進んだのはいつですか?

鷺森:高校を卒業して、18歳で東京のファッションの専門学校に進学しました。実はその時、母親は大反対だったんです。自分もアパレルの会社をやっていたので「苦労するから違う業界へ行きなさい」と。

けれど、「やっぱり外に出たいな」という思いがあって、反対を押し切り東京に出てきました。親からの支援はなし。親からは常々「支援なしでもやりたいことをやりなさい」と言われていましたし。なので、学生時代は学費や服の制作費を払うためにコンテストに出て賞金を稼いでいました(笑)。

20代前半でデビューしたことがコンプレックス

--賞を受賞された2007年に、ブランドを立ち上げていらっしゃいます。20代前半で注目を浴び、ブランドを一から始めて、苦労されたことが多かったのでは?

鷺森:一番苦しかったのは、「22歳でデビュー」というのがバーンと出て、キャッチフレーズのようにずっとあったことですね。必ずそこにフォーカスされるから、服を認めてもらえてないんじゃないかと思ってしまって。

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--それに折り合いがついた時期は?

鷺森:25歳ぐらいの時、本当にぱっと開けた瞬間があったんです。名前が出れば、ネガティブなことも言われます。「苦労せずにデザイナーできていていいね」とか。当時は、それに反発するように死に物狂いでプロになろうとしていた気がします。

でも、ある時ふと、「この人、私の服着たことないよね」って思ったんです。つまり、ネガティブなことを言っている人たちとの間に関係性がないことに気がついた。

そこから解放されてあとは、決して安くないお金を払って私の服を買い、愛情を持って着てくれる人たちが、どうしたらもっと喜んだり興奮したりしてくれるだろうか、深くつながれるために何をしようか、と考えるようになりました。意識が切り替わったんです。

30歳を機に2つの新しいプロジェクトをスタート

--今年の秋冬からブランドがリニューアルしましたが、そのきっかけは?

鷺森:若い時から自分のブランドのことしかやってこなかったので、27歳の時に「このままだと世間知らずになるんじゃないか」と危機感を抱くようになり、3年ほど意識していろんなジャンルの人と仕事をするようになりました。すると、「ファッション」って服を作る以外にもできることがあるんだな、と視野が広がったんです。

20代で立ち上げたAGURISAGIMORIにはいろんな要素が混ざっていたので、「ファッション」と、それ以外のものづくりである「デザイン」や「アート」を整理して深めたいと考えるようになりました。それで生まれたのが、agris(アグリス)とabooks(アブックス)です。

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--agrisの今シーズンのテーマは求愛ですね。このようなディープな関係性をテーマにしたのはなぜ?

鷺森:ファッションって、もともとはもっと「不自由」だったんです。怒りのパワーで既存の価値観を壊していく感じ。上の世代のファッションデザイナーにはそういう感覚で世界で戦い続けて、「今」を築いてきた方々がたくさんいます。

ただ、先輩によって獲得されて、今のように全部が「ある」状況では、本当の意味で怒りや不満が生まれないんじゃないか、と。よく、デザイナーは「価値観を壊してからクリエイションが始まる」と言いますけど、私自身はピンとこなかったんです。

デビュー当時もそういうことを周囲から求められていましたが、私は当初から一貫して「美しいもの」しか見ていないし、作りたくもない。アンチテーゼを掲げた服なんて着てほしくないんです。ただ、美しいものを着てほしい。

暗いものや、暗い思いを抱えた存在を、浄化して美しく変換していく。それが、私の考えるファッションデザイナーの仕事。その思いが、今回「求愛」というテーマに繋がりました。

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あえてゴールや理想を設定しない場をつくる

--abooksは、どうして本という形を選んだのでしょう?

鷺森:私はミニマムでプリミティブなものにすごく憧れがあります。コンプレックスと言ってもいいのかな。ファッションデザイナーになっていなければ、文章を書くとか、編集をするとか、そういう仕事をやりたかった。それで最初は文章と紙というミニマムなもので「本」を作ろう、と。

ブランドにおけるデザインでは、自分でゴール(理想)を設定して、そこからいろんな課題をクリアしていくという作業をするんです。でも、もっと「深い器」がほしいな、と考えるようになって。私も、他の誰かも入れる器。デザインのゴールも設定せず、私が愛する人に大事な場所を半分託すようなイメージです。

abooks一弾の『dintje(ディンチェ)』は書籍と楽曲から成ります。それぞれファッション業界以外で、尊敬してやまない方々と深くコミュニケーションを交わしながら作りました。

常に「(仮)」をつけて進んでいきたい

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--今後、鷺森さんが挑戦したいことは?

鷺森:人の五感に響くものに挑戦したいです。変な表現と言われますが、「食べたくなるような」という枕詞がつくブランドにしていきたい(笑)。

「食べたい」という欲求って、とても支配的な側面があると思うんです。だって、「私のもの」にするわけですから。何か理由があるからじゃなくて、感情が動いて「手に入れたい」と思ってもらえるものになったら最高ですね。

--仕事をする上で心がけていることは?

鷺森:今回書籍を一緒に作ったエッセイスト・紫原明子さんから借りた言葉ですが、「(仮)をつける」ことですね。デザイナーって、何か一つのものに向かって進むのが美学だと思われている節があるんですが、一つのルールに従うのって実は怖いと感じます。気づかないうちに、そのルールに合わない言葉が耳に入らなくなって、本当においしい味がキャッチできなくなる。

「感覚」がなくなったら、デザイナーはそこで死んじゃうんです。だから、「今はこの答えを信用する」というふうに常に「(仮)」をつけて、自分をアップデートし続けられるか、ゼロになれる勇気を持てるかがとても大事。それを忘れずにいたいですね。

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〈鷺森さんの1日〉
打ち合わせのない日は7時起床。その日の気分でプールかヨガへ。朝ごはんを食べて猫と全力で遊んだあと、メールや事務処理を終わらせる。MDマップ(洋服のデザインや生地、発注先などをまとめたマップ)の見直しや進捗チェック。ランチミーティングがない日は昼食はとらない。デザインは夕方に描き上げることにしているので、それまで資料や必要な材料の準備。20時頃に夕食をとり、本を読んだり猫と遊んだりして休憩。23時から深夜2時までデザイン。2時半に就寝。

【イベント情報】
鷺森アグリさんと作曲家・三宅純さんのイベントが開催されます。
詳細はこちらから。

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