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2016/09/22
「日本人のカップルの6組に1組が不妊」とされる今の時代、妊活ビジネスはバブルと言ってもいい状況が続いています。ところが、妊活市場でまことしやかに口にされる話には、医学的根拠に乏しい内容も実は多いのです。今回から始まる連載では、日本で唯一の出産ジャーナリストである河合蘭(かわい・らん)さんが長年にわたる膨大な取材をもとに、不妊治療にまつわる「ウソ」と「ホント」を解き明かしていきます。
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「不妊治療のウソ・ホント」をテーマに書いているこの連載ですが、実は自然妊娠にもあまり知られていない落とし穴が。今回は、長年、妊娠・出産について取材し続けてきた私が「?」と首を傾げたくなる、ちょっとおかしい日本の妊活についてです。間違った方法でトライし続けていると、かえって妊娠を遠ざけてしまうことも……。

ムダな努力はすべてやめる

自分の基礎体温表をにらみながら、「一番妊娠しやすい日」を探そうとする。牛肉、トマト、ニンジンといった赤い食べ物は妊娠しやすいと聞いたら、そればかり食べる。セックスのあとに逆立ちをする。

妊娠関連の情報サイトや雑誌には「妊娠するためのコツ」がいろいろと掲載されているので、つい熱心にやってしまう人は多いことでしょう。でも、情報に振り回されてげんなりしているなら、それらはすべてムダな努力です。今日からスッパリ止めてしまいましょう。

現代はとかく情報があふれていて、あれがいい、これがいいと数え切れないほどの方法が紹介されていますが、本来、妊娠とはそんな努力を必要としないほどシンプルなもの。卵子と精子が日々、繰り返し出会っていれば、そのうち成立するはずなのです。

なかなか妊娠しない場合は医師にかかる必要が出てきますが、まずは夫婦だけでトライする場合の方法を考えてみましょう。あなたが今まで読んだり聞いたりしてきた話とは違うかもしれませんが、私が第一線の専門医たちに取材を重ねてきた経験からわかったことを次に挙げていきます。

「排卵日」にこだわらない

このグラフを見てください。

第3回図版

このグラフは、自然妊娠の確率をセックスのタイミング別に調べたもの。報告によると、妊娠に至ったセックスは、その大半が「排卵日の5日前から排卵日までの6日間」になされていました。

妊娠のチャンスは1週間弱もあるのですから、特定の1日にこだわる必要はありません。みなさんの中には「一番妊娠しやすい日は排卵日」と思い込んでいた人も少なくないのでは? このグラフによると、一番妊娠しやすい日は排卵日の2日前となっていますし、3日前、4日前でも妊娠率はかなり高くて排卵日の値を上回っています。

そもそも排卵日は基礎体温表をにらんで予想しても前後にずれてしまう場合が多いと言われています。妊活にはマストとされている基礎体温計測も、絶対に必要というわけではありません。特定の日にこだわるのは不自然ですし、男性もプレッシャーを感じますから、妊娠可能日はざっくりと捉えた方がいいでしょう。

セックスの回数は抑えてはいけない

妊娠したい人は、妊娠可能な期間に頻繁にセックスをした方がいいでしょう。身も蓋もないアドバイスに聞こえるかもしれませんが、今はあっさり型のカップルが多いようですし、日本の妊活には「回数が多いと精子が減るので、排卵日以外は禁欲する」という常識があるので、ここはあえて書かせていただきます。

確かに昔はこの禁欲説があり、排卵日のために男性に禁欲を勧める場合もあったようですが、今では逆効果であることがわかっています。

精子は精巣で毎日作られ、精巣上体(精子の貯蔵庫)に送られたのち、10日間くらい生きています。禁欲すれば精子の貯えが増えるということで、かつては禁欲を指導する専門家もいました。でも、最近の研究で、古くなった精子は運動率が下がり、活性酸素を出して貯蔵庫の環境も悪くすることが明らかになりました。

ですから、むしろ無理のない範囲で回数は増やした方がいい、というのが男性不妊の専門家の一致した意見です。

排卵テスターに頼りきりではもったいない

ここ数年で妊活アイテムとしてずいぶん普及してきた排卵テスター。排卵テスターとは、排卵の引き金を引く黄体化ホルモンを捉える検査です。尿をかけるだけで手軽なので、このテスターを使って排卵日を見きわめようとする人は多いようです。ところが、ここにも落とし穴が。

実は、黄体化ホルモンは排卵の36時間前から出始めるホルモンなので、テスターが反応する期間は、妊娠可能な6日間の終わりの方だけなのです。テスターの反応が出る以前にも妊娠のチャンスは数日間あるわけで、排卵テスターだけに頼るのはもったいないかもしれません。

「排卵日にセックスしなきゃ」というプレッシャーが蔓延している日本の妊活。実は、妊娠のチャンスは毎月6日もあるのです。もっと気持ちをラクにして、自分の気分や身体のサインも上手に読み取りながらトライしてみてはいかがでしょう?

*グラフはどちらも『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道』(講談社ブルーバックス)より転載

●河合蘭(かわい・らん) 妊娠・出産、不妊治療・新生児医療を取材してきた日本で唯一の出産ジャーナリスト。1959年、東京都生まれ。カメラマンとして活動した後、86年より出産関連の執筆活動を始める。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師も務める。著書に『未妊――「産む」と決められない』(NHK出版)『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年に『出生前診断――出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞を受賞。近著に浅田義正医師との共著『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」 (ブルーバックス)』がある。