今月5日、5つ子を妊娠した女性が「減数手術」の失敗により産婦人科医院を提訴したという報道が流れました。

「減数手術」とは、聞き馴れない言葉ですが、双子以上の「多胎妊娠」の場合に行う胎児の数を減らす手術のこと。今回の場合、不妊治療で排卵誘発剤を投与され5つ子を授かった女性が、医院の助言により胎児を2人に減らす手術を受けたが失敗、一度は4つ子の状態になり再手術でさらに2人まで減数に成功したものの、その後、すべての胎児が流産してしまったのです。

この経緯に夫婦側は「超音波検査で減らす対象を見落としたための事故」だと主張。医院側も争う姿勢のようです。

ウートピではこれまでも不妊治療について継続的に取り上げてきました。

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より安全で納得できる不妊治療のために、河合蘭さんにお話を伺いました。

不妊治療の段階で問題があったのでは?

この報道に日本で唯一の出産ジャーナリスト・河合蘭さんは「そもそも自然界では人の多胎妊娠は2人までで、3人以上はきわめてまれ。3人以上の妊娠はほとんどの場合、医療が作り出すハイリスク妊娠で、未然に防げます。今回のケースは、まず、不妊治療の段階で無理がなかったか考えるべき」と話します。

河合さんによると、今回の多胎妊娠は「(子宮に)3個以上の胚を戻したことにより起こったのではないか」とのこと。

「胚は、1個の胚が一卵性の双子になることはまれにありますが、五つ子が1個や2個の胚からできることは考えにくいからです」(河合蘭さん/以下同)

不妊治療では、体外受精でできた受精卵、つまり「胚」を子宮に戻します。その際、胚が一個では妊娠しないかもしれないので、複数の胚を戻すケースがしばしばあるのだそう。

「もちろん、基本的に人はひとりずつ産むわけですから、戻す胚の数も基本は1個。日本産科婦人科学会の見解も、戻す胚の数は「原則として1個」とし、35歳以上の人、2回以上連続して妊娠しなかった人など特に妊娠しにくいと思われる人のみ2個まで許容するとしています。

 胚の数を制限するのは、複数の胚が妊娠して多胎妊娠になってしまうと、母子ともに危険を伴うためです。特に3人以上になるとリスクがとても高いので、、見解では、特例的なケースであっても2個までとされました。2個までなら、3つ子以上になることはまずありません」

複数の胚を戻すと、妊娠率は上がる?

でも、不妊治療中の人の中にはこんな勘違いもあるそう。

「“胚を2つ戻せば妊娠の確率は2倍”と思っている人もいます。そういう人は、多胎妊娠をしてもかまわないから、複数の胚を戻したいと希望されるということです。でも、実際のところ胚の数で確率が大きく変わるわけではありません。人間の子宮はもともと1人の胎児を育てるために作られているものなのです。

治療中は妊娠のことで頭がいっぱいになるものですが、妊娠したあとのことを考えることも非常に大切です。双子や3つ子を妊娠すると早産になる場合が多く、死亡率も高くて、母体にとっても合併症が起きやすいハイリスク妊娠です」

その危険性から母子を守るのが「減数手術」であり、胎児の数を“選択”する処置により出産のリスクを減らすというわけです。ただし、通常の中絶手術とは違いますから、今の日本には法律やガイドラインが存在しないのだそう。

しかし、今回の事件について河合さんは、減数手術を論じる前に体外受精のルールを考え直して欲しいと言います。

「多胎妊娠は、体外受精の副作用の代表。でも、戻す胚の数を一個にすれば,体外受精の多胎妊娠は自然妊娠に近い頻度まで下げられるのです。体外受精を受ける人は、まずはそこから意識して、どんな胚をいくつ戻すかについては、しっかりと確認を」と注意を喚起します。

そして「不妊治療はただ妊娠させるだけでなく、母体と、生まれてくる子どもの安全性も考えたものであるべき。でも残念ながら、学会の見解を守らずに胚を多数戻す体外受精が一部にあることは前から聞いています。これを機に、国がもっとしっかりとした対策を行うことを望みます」と続けました。

(編集部)

河合蘭(かわい・らん) 妊娠・出産、不妊治療、新生児医療を取材してきた、日本で唯一人の出産ジャーナリスト。1986年に執筆活動を開始。2015年、写真撮影開始。現在、東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院などで非常勤講師。著書『出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新聞出版)が、2016年度科学ジャーナリスト賞を受賞。 関連リンク:公式ウェブサイト