ライフ≒ワークな生き方 第3回

売れっ子インテリアデザイナーが、10年仕事を休んで出会ったもの

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売れっ子インテリアデザイナーが、10年仕事を休んで出会ったもの

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“fun pun clock(ふんぷんクロック)”という60進法の時計。時計が苦手な子どもでも理解しやすく、インテリアにもすっと馴染む。ママならではの目線で作られたこの時計のデザイナーは、土橋陽子(どばし・ようこ)さん。産休からデザイナーとして仕事復帰するまで、そして今も、いろいろな葛藤があるといいます。葛藤を抱えながらも、いつも笑顔で“楽しむこと”を大事にしている彼女の働き方とは?

出産から10年は完全に休んで仕事はゼロに

――出産前は、どこで働いていましたか?

土橋陽子さん(以下、土橋):インテリアショップ「IDEE」に所属して、家具の開発に携わったり、ブランド「SPUTONIK」の立ち上げに加わったり、忙しい日々を送っていました。でも子どもを産んだら、子育てに気持ちが切り替わってしまって。小学校にあがるまで仕事をいったん休もう!と思ったんです。

――完全に休んじゃったんですね。そこからどうやって仕事に復帰を?

土橋:復帰しようとしたものの、最初はいろんな壁にぶつかりました。自分が企業に属していた頃は商品開発の大変さを知らなかったんだ、としみじみ実感しました。企業にいることで、限られた一流のデザイナーさんとしか接してこなかった。自分がかつて置かれていた環境のありがたさにも、改めて気づきました。そこで、ちっぽけな自分を実感し、まずは実績をコツコツ積むしかないと思ったんです。

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土橋:子どもが小さい頃は時間がたっぷりあったので、いろいろなワークショップに参加していました。でも、なかなか満足いくものに出会えなくて。そんな中、東京ミッドタウン(六本木)で外村友紀さんというアーティストがやっていたワークショップ空間「Yellow Pony」に参加し、ミノムシ作製に挑戦したことがありました。

その時の外村さんがとても素敵で。参会者との接し方、ワークショップの進め方、そして仕事に対する気持ちが本当に素晴らしかったんです。彼女の中の“子ども”の部分で子どもたちと接しているのがすごくいいなぁ、と。

そういう過程があって、私もまずはワークショップから始めることにしました。タイミングよく、「社会と接したいなら、ここで始めてみない?」と声をかけてもらえて。「洗足カフェ*」でペンキの塗り方ワークショップをやったのが最初です。
**現在は「シノワ レッセフェール サクシードアズ 洗足カフェ」に店名を変更。

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「月明かりのようなランプ」が生まれるまで

――ワークショップを始めてみて実際はどうでしたか?

土橋:それが、すっごく楽しかったんです! 教える側の楽しさを知りました。子ども向けはもちろん楽しいけれど、大人へのワークショップもまた違った楽しさがあって。大人も手を動かすと、その人の中の“子ども”の部分が出てくるんです。人の“子ども”な部分に会いたくてワークショップを続けているんだと思います。

そして、今でも外村さんへの憧れがあります。あんなうふに子どもと接していたいなと思っています。彼女の姿を見ていると、モンテッソーリと似てるなあ、と感じるんです。

――モンテッソーリとは?

土橋:イタリアの精神科医です。知的障害のある子どもたちの教育に尽力した人で、モンテッソーリが生み出したプログラムは今では世界中に広まっています。例えばモンッテソーリには有名な12ヵ条*(文末参照)があるんですが、それをワークショップ前に毎回アシスタントの子に読んでもらうことにしています。

ワークショップでキャリアを積みながら、自分が子育てする上で「あったらいいのに」と感じたものを、自分でデザインして営業にも行きました。その結果、完成したのがこの「fun pun clock」や「milk time light(ミルクタイムライト)」。

時計が読めない子どもがとても多いと聞きつつも、うちの子どもたちはスムーズに時計が読める。それってどうしてなんだろう?と思い、子どもが通っていたモンテッソーリの幼稚園の先生にお話を聞きに行ったんです。母としての目線も加わり、試行錯誤しながら作ったのがこの時計です。

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土橋:夜の授乳中に赤ちゃんを起こさない月明かりのような照明があったらいいのに……。そんな思いがデザインとして実現したのがこれ。

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リフォームで「生活」と「仕事」の空間を近づけた

――土橋さんのキャリアアップとお子さんの成長が同時に進んでいく。その時々でスタンスは変わっていくのでは?

土橋:子どもが成長するにつれ、どんどん働きやすい環境になってきています。でも、それと同時に子どもたちの親離れを寂しく感じることもあります。まさに今がその時期。母親の感情は複雑ですよね(笑)。

ちょうど1年前、思春期を迎えた息子が、ひとり部屋が欲しいと言いだし、思い切って自宅兼職場をリフォームすることに。インテリアの専門家としては、自分で自由にできるリフォームなんて最高に楽しい! ドアノブ一つひとつ、壁や床の色までじっくり考えて、探しました。本当に楽しくして仕方なかったのですが、一方で「子どもが離れていくんだな」と実感する作業でもありましたね。いろんな気持ちが交錯して、久しぶりに心が揺れ動きました。

――実際にリフォームしてみてどうでしたか?

土橋:それが、実際にしてみたら予想よりいい状況に! まず「生活のスペース」と「仕事のスペース」が縮まり、作業がしやすくなりましたね。以前は工具・資料の置き場が、住居空間としては死んでいたんです。それをすべて一箇所にまとめて「生活のスペース」に壁一枚まで近づけました。

働き方とは直接関係ないかもしれませんが、リフォームしたことで家族の関係にも変化がありました。息子のひとり部屋ができたことで、逆に親子の距離がうまくとれるようになったんです。今の息子は、「ずっと見られているのはイヤ。でも、見ていてほしい」という複雑な時期。物理的に距離ができたことで、好きなタイミングで親と過ごせるのがいいようです。

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――これからやりたいことは?

土橋:「やりたい」と妄想していたことにやっと自分の技術が追いついてきて、今はやりたいことがどんどん叶い始めた感じ。楽しくて仕方ないですね。

次は“端材”を使って何かやりたいな、と考えているところです。自宅をリフォームした時に、端材ってすごく面白いな、って気づいたんです。端材を使って何かを生み出してみたい。自分の内なる“子ども”が反応するような物や人に、生きている間にもっともっとたくさん逢いたいです。

*モンテッソーリの12ヵ条:[1]子どもに必要とされているときだけ、子どもと関わりましょう。[2]子どものいるところでもいないところでも、子どもの悪口を言ってはいけません。[3]子どものよいところを見つけ、そこを強くしていきましょう。[4]物の正しい扱い方を教え、それらがいつもどこに置いてあるかを示しましょう。[5]子どもが環境と交流を始めるまでは積極的に関わり、交流が始まったら消極的になりましょう。[6]子どもの要求に対して、たとえそれができなくても、聞く耳はいつももつようにしましょう。[7]子どもの誤りをいつも指摘して直させる必要はありませんが、子どもが子ども自身やほかの子を傷つけたり、危険があるときには、すぐにやめさせましょう。[8]子どもは何もしていないように見えても、何かを観察しているのかもしれません。そういう時には、あえて何かをやらせなくてもいいのです。[9]やりたいことが見つけられずに困っているときには、一緒に探したり、新しいものを見せてあげたりしましょう。[10]新しいもののやり方を(以前拒まれたことがあったとしても)、くり返しくり返し、忍耐強く見せるように心がけましょう。その時は、ことばではなく動作を見せることに専念しましょう。[11]子どもを信じ、できるようになるのを待ってあげましょう。[12]子どもに接するときは、親の所有物としてではなく、一つの人格をもった人間として接しましょう。

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激務の通勤生活、今年で何年目? ふと気づけば、プライベートの暮らしは仕事に押しつぶされてぺちゃんこに。何のために頑張っているのかわからなくなることさえありますよね。「いつまでこんななんだろう」「働き方を変えたい」「でも方法が分からない」この連載では、そんな悩みや迷いをえいやっ!と乗り越えて、“ライフ”に“ワーク”をぐんと引き寄せてしまった彼女たちに話を伺います。

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