『れもん、うむもん!—そして、ママになる—』著者・はるな檸檬さんインタビュー

育児って、やっぱりしんどいですか? 漫画家・はるな檸檬さんインタビュー

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育児って、やっぱりしんどいですか? 漫画家・はるな檸檬さんインタビュー

天使のような笑顔、鼻をくすぐるミルクの香り、そして聖母の微笑みをたやさぬママたち……テレビCMやママタレントのブログでは、美しいところばかり描かれる育児。まあ、それが“理想の世界”だということはわかっているけれど、じゃあ、実際のところはどんな感じなの?

妊娠中から出産、そして育児の“しんどい”日々を綴った異色のエッセイ漫画『れもん、うむもん!—そして、ママになる—』(新潮社)の著者である漫画家・はるな檸檬(はるな・れもん)さんに、“幸せですばらしい”という言葉だけでは到底語れない、赤ちゃんとの生活について聞いてみました。

『れもん、うむもん!—そして、ママになる—』(新潮社)

自分の子どもなのに、人見知りしてしまった

——まえがきの冒頭から「出産は、しんどかったです」で始まる本書ですが、”しんどさ”を描こうと思ったきっかけを教えてください。

はるな檸檬さん(以下、はるな)
:産後うつになった友人がいて、妊娠も未経験だった私は、「なぜうつになるんだろう」と思っていましたが、いざ当事者になると「そりゃなるわ」と納得したほど、出産も育児もとにかくイメージと違っていたことが衝撃だったんです。

そういう戸惑いを、「私だけかもしれないし、グチになっちゃいそうだし、理解してもらえないだろうな」と、当時は誰にも言えず、すべてひとりで抱えていました。でも、他にもそういう気持ちを抱えている人がいるとしたら、描くことで少しでもラクになってもらえるんじゃないか。そう思ったのがきっかけです。

——出産や育児について、産前と産後ではどんなギャップがありましたか?

はるな:生まれた瞬間、本能的に「なんてかわいいの! 私の子!」となるとばかり思っていたのですが、自分の子どもなのに「ああどうも……、こんにちは」という感じで、人見知りしてしまったことに自分でも驚きました(笑)。

「死んでしまうのでは!?」という恐怖が強かった

はるな:いざ育児が始まると、やることがたくさんあり体力的にも大変でしたが、何より恐怖感が大きかったです。とくに最初の3ヵ月は、ちょっとしたことでも首の骨が折れてしまうのではないかと思うほど、か弱い存在ですよね。「死との境界線にいるものを、命の方に必死でつなぎとめる」という感覚があって、常に追い詰められていました。

寝ている時なんか「ちゃんと息しているの!?」とハラハラ。これは思ってもみなかったことでした。結局、夫の勧めで就寝中の赤ちゃんの息遣いを感知する「ベビーセンス」という機器を買うことで、自分も眠れるようになりました。

母とも夫とも共有できなかった「授乳問題」

——出産直後の旦那さんはどんな感じでしたか?

はるな:夫も「心配」という気持ちを共有してくれたことで、しんどさが緩和された部分は大きいですね。でも、夫と共有できないこともありました。“授乳問題”です。誰でも、“赤ちゃんはお母さんのおっぱいが大好き”というイメージを持っていると思いますが、うちの子はおっぱいがダメだったんです。直接吸うのをいやがるけど、哺乳瓶は喜ぶ。そんな子どもがこの世にいるなんて思ってもみませんでした。

出産直後からそんな状態で、病院で同じように授乳しているお母さんたちは「20ml飲ませました」など助産師さんに報告しているんです。でも私は、2時間格闘して1mlも飲ませられなくて、赤ちゃんに自分の存在を否定されている気がしました。

私は10年近く前、漫画家・東村アキコ先生のアシスタントをしていて、先生の出産・育児を間近で見ていました。先生はすごく母乳がたくさん出るタイプだったので、「私はダメなんだなあ」と比較して勝手に傷ついたりもしましたね。

さらに、吸ってくれないのに母乳はどんどん作られるので、乳房が張って、のたうちまわるほどの痛みにも襲われて。「なんで飲んでくれないの!?」と、毎日泣きながら授乳しました。結局、卒乳まで苦しみ続けましたね。

仲が良かった母との衝突

——周囲から「ミルクより母乳の方がいい」と言われることがあったのでしょうか?

はるな:そういうことはなかったんですが、とにかく自分で自分を責めてしまっていました。ただ、産後、食事作りなどの手伝いに来てくれた実母に「おっぱい足りてる? 全然出てないじゃない」と言われたことがきっかけで大喧嘩し、3日で帰してしまった、ということはありました。

それまで母親とは本当に仲がよくて、出産時も“横で並走してくれる”ことを期待していたんです。でも母は、“応援席で声援を送る”感じというか。今になって思えば、違う立場なのだから当然だとわかりますが、当時は腹が立ってしまって。お互いに傷ついた出来事でした。

このことは本でも描いて、一番反響が大きかったエピソードです。「私も親と喧嘩しました!」と。一方で、母親が同世代の友人たちに読ませたら、「なぜこの流れで娘から帰れと言われるのかよくわからない」と言われたそうで……世代間のギャップなのか何なのかわかりませんが、これはわかりあえないことなんだな、と諦めがつきました(笑)。

ちなみに当時、ことの顛末を東村先生にメールしたら、「メシなんか惣菜でいい! 寝ろ! 本当に困ったら手伝いに行けるから。大丈夫だから」と返事があり、その頼もしさに気持ちが軽くなりました。

一番しんどかったのは、孤独だったこと

――一番つらかったことは、どういったことでしたか?

はるな:ひとりだったことです。授乳の劣等感や、母親失格だという被害妄想など、同じ立場の人がまわりにいない孤独がつらかった。描いていても、思い出すたびに泣いてしまうくらい、孤独がしんどかった……。

一番大変なのは生まれてきて必死に生きようとしている赤ちゃんなのに、そう思う余裕もなかったですね。例えば、手拭き用のタオルから生乾きの匂いがするだけで「くせー!」とマジギレして、夫が怯えてしばらくティッシュで手を拭いていて(笑)。それほど余裕がなかったし、そんな自分にがっかりしたし、悲しく思っていました。

子どもとコミュニケーションがとれるようになると…

はるな:でも2、3ヵ月経つと、だんだん赤ちゃんと目が合ったりこちらの働きかけで笑ったりして、喜びや楽しさを初めて感じられるようになりました。意思疎通がとれることがこんなに嬉しいなんて、初めて知りました。

——子どもとコミュニケーションが取れることで、孤独ではなくなったんでしょうか?

はるな:はい。おむつを替えて気持ちよさそうな顔をしていると、ただそれだけのことが「やってよかった!」とすごく嬉しく感じるんです。今は、朝起きた瞬間からかわいくて、本当に毎日楽しくって。産む前に子持ちの人から聞かされていた「子どもってかわいいよ」という言葉、そこから想像していた100倍はかわいいです。今は保育園に行っていますが、早く帰ってこないかな、早く抱っこしたいなと、毎日ワクワクしています。

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