「いざ就職してみたら給与が大幅に違っていた」「1日8時間勤務だと聞いていたのに毎日終電帰りだった」など、求人の内容が実態とかけ離れた「求人詐欺」の相談が年間1万件を超えています。なぜ、求人詐欺が横行するのでしょうか?

月数十件にのぼる求人詐欺の問題を解決しているNPO法人「POSSE」代表であり、『求人詐欺 内定後の落とし穴』(幻冬舎)の著者、今野晴貴(こんの・はるき)さんにお話を伺いました。

求人票の9割はウソ!? 大手企業も求人詐欺に手を染める

今野晴貴さん(以下、今野):求人詐欺は「ブラック求人」とも呼ばれ、要は求人票と契約の中身が異なっていることを指します。求人詐欺の手口は大きく分けて2パターン。「あいまい求人型」と「契約強制型」です。

「曖昧求人型」は、「◯◯手当と表記されていたのは、実は残業代だった」とか「6ヵ月間の研修が非正規雇用扱いだった」とか、求人票の内容と実際の福利厚生に相違があるタイプです。以前、居酒屋チェーン「日本海庄や」で、月給19万円に80時間分の残業代があらかじめ組み込まれており、従業員が過労死したニュースが報じられましたが、あのケースは「あいまい求人型」にあたります。

よりタチが悪いのが「契約強制型」。こちらは入社後に内容の異なる契約書を持ってきてサインをさせます。業務に追われている時に上司が契約書を渡して「時間ないから、ここサインしちゃって」と指示され、言われるままにサインをして、後から給与明細を確認してみるとまったく違った……ということもあるんです。

――求人詐欺の割合はどれくらいですか?

今野:正直、細かいところまで含めれば、求人票の9割はウソですよ(笑)。「日本海庄や」の例にもある通り、大手企業だって枚挙にいとまがないくらい求人詐欺をしていますし、業界で言えば保育、介護、IT、外食産業がよく知られていますが、安全圏のように思える製造業などでも「エンジニアとして入ったのに営業部に配属されて月80時間残業の激務だった」なんてことはザラです。「有名転職サイトに掲載されている求人の3分の2があいまい求人」ということが暴露され、是正に動いているという話もあります。優秀な人もそうでない人も、関係なく狙われますしね。

最近ですと、年収700万〜800万円で入社したはずなのに、実際の年収は650万円だったというエンジニアの方もいらっしゃいました。本当はもっと高いところを狙えたのにもかかわらず100万円近く年収を下げられてしまったわけです。あの手この手で優秀な人材を採りたいという企業の苦肉の策でしょう。こんなことが日常茶飯事なんです。

「騙されるかもしれない」と腹をくくるしかない

――大手企業でも安心ではないというのは怖いですね。なぜ、そこまで求人詐欺が横行するのでしょうか?

今野:まず、求職者側が企業を信用しすぎている、警戒心がなさすぎるということです。

もうひとつの原因としては、国の取り締まりがほとんどないということ。国はそもそも民事不介入ですからね。私たちが求人詐欺を猛烈に問題にしたために「曖昧求人型」に関しては今後規制する動きが出てきていますが、「契約強制型」に関しては、「契約し直しただけだ」と企業側から主張されればどうすることもできません。

ですから、「騙されるかもしれない」と腹をくくって、自分の身を自分で守ることが大切です。

今野晴貴さん

今野晴貴さん

身を守るには、入社前からとにかく記録をとる

今野:どうやって身を守るかというと、ちくいち記録をするのがおすすめです。求人票が掲載されている媒体をとっておく。webだったらスクショをとる。説明会や採用面接は録音しておく。裁判になった時、「説明会の時に口頭で説明しました」と必ず言われますから。

給与明細や勤務記録もとっておきましょう。これがないと、残業不払いや契約内容の相違という問題が出てきた時に、請求できません。

――そこまでして自衛しなければいけないんですね……。

今野:はい。逆に言うと、自衛していればさかのぼって請求することができます。また雇用期間中にちくいち記録をとっておき、辞めてから支払われていない分を請求するという方法もあります。

労基署や社労士に相談すると「請求できません」「請求できても2ヵ月だけ」と一蹴されてしまうかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。

また、女性の場合、訴えようとすると旦那さんからストップをかけられて……と嘆く方も多いのですが、訴えたからといってその後の転職活動に支障が出たという話も聞きませんね。

『求人詐欺 内定後の落とし穴』(幻冬舎)

『求人詐欺 内定後の落とし穴』(幻冬舎)

まずは労働の専門家へ相談を

――訴えるのにコストはかからないんでしょうか? 求人詐欺を平然と行う企業に立ち向かっていけばよいのでしょう?

今野:企業と争う方法は3つあります。まず行政。2つ目は裁判。3つ目は労働組合に入って団体交渉です。

しかし、こと求人詐欺に関しては、行政はほとんどあてにならないと思ってください。労基署に相談したとしても、請求できるのは1ヵ月分が関の山です。一方、裁判ですと、弁護士にお金を払わないといけないので多少費用はかかりますが、成功率は上がります。先ほども申し上げた日本労働弁護団や、ブラック被害対策弁護団に依頼すれば、成功率はさらに上がります。

一番おすすめなのは労働組合です。費用があまりかからず、解決の水準も高くなることが多いからです。とはいえ慎重に労働組合を選ばないと、お金と時間ばかりかかって徒労に終わった……ということにもなりかねません。

私たちはエステ業界を中心にいくつかの企業と労働協約を結んでおり、普通なら門前払いをくらうようなところでも、交渉できるようにしています。「勤務していた2年分の未払い金を全額返還」ということになれば、一人あたり300万〜400万円返ってきますから、「おかしいな?」と思ったら、まずは私たちのような労働の専門家や日本労働弁護団にご相談いただくのがベストです。

小泉ちはる

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