脳と疲労 第1回

「仕事が楽しい人ほど過労死のリスクが高い」 35〜45歳の女性が危ない理由

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「仕事が楽しい人ほど過労死のリスクが高い」 35〜45歳の女性が危ない理由

日本人の約60%が日常的に感じている「疲労」。なかでも35~45歳前後の女性たちはもっとも厳しい「疲労」にさらされていると、『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)の著者である梶本修身(かじもと・おさみ)医学博士は言います。最新の疲労研究からわかった、働き盛りの女性たちが抱える疲労の原因とは?

忙殺の日々と老化のダブルパンチで疲労困憊

――35~45歳前後の女性が厳しい疲労にさらされやすいというのは、何かワケがあるのでしょうか?

梶本修身先生(以下、梶本): 35~45歳前後というのは、公私ともに精神的・肉体的負荷がとくにかかりやすい時期。仕事では責務やプレッシャーがあるでしょうし、さらにワーキングマザーの場合はお子さんの年齢も低く一番手がかかる時期です。一昔前だと、“疲労=働き盛りのビジネスマン”というイメージしかありませんでしたが、いまやこの世代の女性たちはビジネス戦士と匹敵するほどの大変さを背負っていると思います。

私が院長を務める「東京疲労・睡眠クリニック」でも、女性患者さんの多くは35~45歳前後に集中しています。新橋という土地柄、男性ビジネスマンの患者さんがメインになるだろうと想定していたのですが、フタを開けてみたら北は北海道から南は九州まで、慢性疲労に悩む女性たちが数多く来院している状態です。

女性ホルモンが減り始める時期とも重なる

――肉体的にはどのような変化が訪れる時期なのですか?

梶本:ちょうど女性ホルモンの分泌が減少しはじめ、ホルモンバランスが乱れやすい時期なんです。人間は、内分泌系の調整因子であるホルモンと自律神経*の両輪がうまく機能しあいながら生体を維持しています。ホルモンと自律神経、どちらかに不調をきたした途端、健康な体を保ちづらくなるのです。

*自律神経……呼吸、消化、体温、心拍、血圧などを24時間コントロールしている。これらは、自分の意志で制御できるものではない。

――疲れが溜まってくると仕事でミスをしたり、イライラで人間関係に支障をきたしたりなどよいことは何ひとつありません。こういった症状は、自律神経が関係していたんですね。

梶本:そうです。疲労の症状には、おっしゃるように集中力の低下や情緒不安といった自律神経失調症のようなものがもれなくついてきます。他には、頭痛、めまい、音や声が遠く感じる、耳鳴り、ふらつき、血圧の変動、また眠りが浅くなったり、下痢や便秘を繰り返したりと、自分の意志ではなかなかコントロールできない不調が起こりやすくなります。

さらに、疲労の蓄積は免疫力を低下させ、生活習慣病の発症リスクも高めます。とくに多いのは、糖代謝異常による糖尿病のリスク。慢性的な疲労が続くようであれば放置せず、できるだけ早く疲労外来などを受診することをおすすめします。

危険なビジネス版ランナーズ・ハイ

――読者の中には「ちょっと疲れているだけだから」と、しんどさにフタをしてがんばっている人も多いと思います。

梶本:そうですね。「あいつは怠けている」と周囲に思われたくないと、自分を奮い立たせてがんばっている女性はたくさんいると思います。しかし疲労によって表面化してくるさまざまな不調は、「これ以上、がんばり続けると体に害が及びますよ」ということを私たちに教えてくれているわけです。この重要なアラームを無視し続ければどうなるか……待っているのは、重篤な病気か「死」です。

梶本修身先生

梶本修身先生

――オーバーワークによる「過労死」は、長らく社会問題になっていますよね。

梶本:過労死というと心も体もボロボロになったあげく……とイメージする人が多いと思いますが、実は違います。私たちが行った過労死の研究では、日頃から仕事にやりがいや達成感があり、上司や同僚からの賞賛・昇進といった報酬が期待できて、楽しく仕事ができているときほど過労死のリスクが高くなることがわかっています。

「ランナーズ・ハイ」という言葉がありますよね。長距離を走っている時、あるポイントを超えた時、それまでのツラさが消え、昂揚感に変わる現象です。これは疲労感や痛みを消すために脳から分泌されるエンドルフィンなどの物質が、多幸感や快感に似た感覚を引き起こしているだけであって、決して疲労を軽減しているわけではありません。

同様に、楽しくやりがいを持って仕事をしている時ほど「疲労感なき疲労」が、本人も気づかないうちに体をむしばんでいる危険性があるのです。

(江川知里)

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