ロシオのこと

今でも、あれは夢だったのではないかと思うほど、めくるめく数日間を過ごしたことがあります。

宇佐美里圭

場所はスペイン、アンダルシア。その旅を思い出すとき、頭によみがえるのは砂埃と汗、肌に刺さる太陽、群青色の夜空、ギターの音色と歌声、そして“水代わり”のビールとシェリー酒……。

宇佐美里圭

2009年のちょうどこの時期、私は当時働いていた週刊誌の取材で、スペイン南部の“ロシオ巡礼”へ行っていました。ロシオ巡礼とは、一言でいうと、“スペイン版山車祭り”。ロシオ村の聖母ロシオが担ぎだされる夜がクライマックスですが、それを一目見るために、スペイン各地から(遠くはベルギーからも)“おらが村の山車”を担ぎながら、100万人以上がロシオ村を目指すのです。

宇佐美里圭

人生も旅もゴールそのものより、向かっている道のりに面白みがありますが、この巡礼もみどころは旅。参加者たちは華やかなフラメンコ衣装に身を包み、長いチームは1週間から10日もかけて、馬や幌馬車に荷物を積み、徒歩で移動します。この時代に馬と幌馬車ですよ!

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しかも巡礼とはいえ、そこはアンダルシア、完全にお祭りです。しんみり歩くわけがありません。日の出から深夜まで、ギターをかき鳴らし、大声で歌い、踊りながら歩くのです。炎天下、水なんてありません。飲み物はビールかシェリー酒です。ある日、試しに数えてみたら、正午までの間に私は中瓶のビール11本とシェリー5杯飲んでいました。いやあ、大変な仕事だ……。

宇佐美里圭

ちなみに完全に野宿なので、シャワーもトイレもありません。(チームによっては豪華トレーラーがありますが)汗ふきタオルで体をふきつつ、トイレはその辺の草むらで。みんな汚いので、自分が汚くても全然気になりません。ああ、なんという解放感。どんどん自分が野生化していく快感ったら……。

こうやって数日間巡礼の道を歩くことで、日常の中で身にふりつもった“埃”がどんどん落とされていくのがわかります。なーんだ、好きな人と歌い、踊り、飲み食いできれば十分幸せじゃん。そんな晴れやかな、さっぱりとした気持ちになっていくのです。

宇佐美里圭

「ロシオ巡礼とは“生きる”こと。日常のしがらみから自由になり、人と助け合い、心を通わせること」

取材したあるスペイン人がそう教えてくれました。

こんな素晴らしいリセットの機会が一年に一度あるなんて、なんという贅沢。なんという知恵。今でもこの時期になると、あの夢のような数日間を思い出します。

宇佐美里圭

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宇佐美里圭(うさみ・りか)
1979年、東京都生まれ。編集者、ライター。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。中南米音楽雑誌、女性誌、週刊誌、カメラ雑誌などで働く。朝日新聞デジタルで「島めぐり」「ワインのおはなし」「花のない花屋」などを連載中。ラテン音楽とワインが好きなエピキュリアン。
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