ウートピ図書館 第三回 亀山早苗さん

恋の“やめどき”はいつ? 嫉妬という魔物に飲み込まれる前に

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恋の“やめどき”はいつ? 嫉妬という魔物に飲み込まれる前に

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このたび私たちは、「ウートピ図書館」を開館することにいたしました。 ここは、皆様の寄贈により運営をおこなう私設図書館です。ウートピの主な読者層は、人生の分岐点に立つアラサーの女性。読者の皆様がもっと自由に、もっと 幸福に、人生を謳歌するための杖となるような本を収集すべく、ここに設立を宣言いたします。

失恋した時に支えてくれた本、仕事で失敗した時にスランプを乗り越えるヒントを与えてくれた本、そして今の自分の血となり肉となった本などなど。作家、ライター、アーティスト、起業家、ビジネスパーソン……さまざまな分野で活躍されている方々の「最愛の一冊」を、人生を模索するウートピ読者のために エピソードと共に寄贈していただきます。

第3回は、ライターの亀山早苗(かめやま・さなえ)さんです。

『美徳のよろめき』三島由紀夫(新潮社)

<たとえば、こんな方におすすめ>
恋の“やめどき”がわからない人

最初にこの小説を読んだのは高校生のときだっただろうか。タイトルに誘惑されるように手にしたのを覚えている。

読んでみて、「欺瞞と偽善に満ちた女が恋に落ちて、でもそれを認めたくなくてあがいている小説」だと当時は感じた。ただ、何かひっかかるところがあり、それからも折りに触れて読んできた。

ヒロインに感じた「欺瞞」

生まれも育ちも上流で、「何も考えずに」親の決めた男と結婚し、男の子をもうけた節子。日常生活に惰性を感じ、夫の感性の鈍さにうんざりもしている。ところが28歳で土屋というかつての知人と再会。彼は、彼女が結婚前に接吻(!)までした唯一の男で、再会したことで彼女の気持ちに変化が起こる。

この関係は終始、彼女が「仕向けて」いくことで進んでいく。いつまでもキスだけのデートを続ける彼に、旅行に誘うのも彼女から。だが、彼女は最終的にはいつでも彼に決定させ、自分は彼の感情に巻き込まれたのだと思って、女のプライドを満足させている。
高校時代、欺瞞だと感じたのは、こういった点なのだと今読めばわかる。

恋をすると見えてくる“自分自身の核”

節子は女友だちを巻き込んでアリバイに協力してもらう。はっきりと彼に恋し、肉体の快感にも目覚めた彼女は、自分を分析し始める。恋をすると、自分の気持ちがふと他人のそれのように感じることがあるものだ。自分を俯瞰で見ることができるようになるのかもしれない。他人と濃密な関わりをもつことによって、自分自身の核が見えてくることも多い。

自分がわかると、そこに葛藤や苦悩が生まれる。そこに酔えるうちはまだ恋は続けられる。だが、彼女が真剣に「生きることと死ぬこと」を考え始めたとき、自分にとって大事なことが見えてきた。そして彼女は恋に終止符を打つことを決める。もちろん、それとて、どこか「恋に恋する乙女」の延長線上のようには見えるのだが、土屋と再会したばかりのときとは明らかに違っている。

そして、著者の三島は、どこかそういう女を突き放しているようだ。

恋している自分に酔っているうちはまだいい

だが、不倫の取材を続けていると、実際に「恋に恋する」女性がいることも確か。恋愛経験が少ないままに結婚し、その後、不倫の恋に陥ると、そうなりがちなのはやむを得ない。

恋に恋する、あるいは恋している自分に酔っているうちはまだいいのだ。つまり、観念で恋しているうちは、安全地帯にいるようなもの。ところが、彼との関係を重ね、身も心もはまりこんでしまうと、そこから彼女の本当の苦悩が始まる。

不倫でなくても、恋は苦しい。相手は自分ではないのだから、自分にとっての常識や反応からはずれた対応をされると、「彼の気持ちが変わったのか」「他に好きな女ができたのではないか」「もう前のように好きでいてくれないのかもしれない」と、さまざまに想像を巡らせて苦しくなるばかり。想像は妄想に変わり、嫉妬という魔物を自分の内に飼うことになる。それは知らず知らずのうちに大きくなり、今度は嫉妬に自分が支配されるようになっていく。

ましてやどちらかまたは双方が既婚の場合の恋愛は、それを日常に組み込もうとすると自分の感情のバランスがとれなくなることもある。

不倫は、ゴールのない恋愛である。ふとしたことで、相手への誤解が生じて気持ちがすれ違ったら、もう終わってしまうかもしれない儚さに満ちている。

儚いから、恋愛として輝くのかもしれない。

恋を甘いまま終わらせるという人の知恵

『美徳のよろめき』の節子は、その繊細な感性で、不倫の恋の潮時を察知したのかもしれない。今ならまだ、自身の美徳がよろめいただけですむ。決定的な傷を負わずにすむ、と。

不倫は突き進むだけが成就のありようではないのかもしれない。潮時を感じたら、自分の苦悩にまだ甘さが残っているうちに、恋を恋として終わらせるのも、人の知恵なのだ。

節子がこの先、どう生きていくのか、次に恋をしたらどうなるのか。そんな想像をしながら読み終えるのも興味深い。

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