北村記世実さんインタビュー

最後のパレスチナ製スカーフ “ラスト・カフィーヤ”に魅せられて

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最後のパレスチナ製スカーフ “ラスト・カフィーヤ”に魅せられて

今月3日にパリでパレスチナ和平国際会議が開かれたものの、当事者のパレスチナとイスラエルの両国が欠席するなど、いまだに平和への糸口が見えないパレスチナ問題。その地にただひとつ残された織物工場でつくられているスカーフがあります。その名も“ラスト・カフィーア”。色とりどりの美しい糸で丁寧に織られたスカーフを、日本で広めようと活動を続ける北村記世実(きたむら・きよみ)さんに話を聞きました。

日本製織機で織られるラスト・カフィーヤ

−−ラスト・カフィーヤとは何ですか?

北村記世実さん(以下、北村):ラスト・カフィーヤとは、最後のパレスチナ製織物のことです。もともと「ガザ」という地名が「ガーゼ」の由来という説があるぐらい、パレスチナは織物産業が盛んでした。でも、イスラエルによる占領や破壊によって、今では織物工場がひとつしかありません。そこで作られた最後のパレスチナ製織物を「ラスト・カフィーヤ」と呼んでいるんです。

職人と色とりどりの糸

職人と色とりどりの糸

北村:しかも、1950~70年代の日本製の織機で織られているんです。現在、稼動している14台のうち12台が「SUZSUKI LOOM」です。今は自動車メーカーとして知られるスズキが、創業当時は機織り機の輸出をしていました。なんと60年もの間、現地の職人たちはメンテナンスを繰り返して大切に使い続けています。

日本製の織機と織られていく生地

日本製の織機と織られていく生地

日本製の織機と織られていく生地

北村:2013年に初めて工場を訪れたとき、オーナーが「日本製はすばらしいな!」と絶賛するのを聞いて、なんだかとても誇らしかったです。職人たちが日本製の織機を使い、パレスチナの織物文化を守り続けている。本当にすてきだな、と思いました。

パレスチナ人も“タフ”という場所で

−−工場があるのは、どんな場所ですか?

北村:パレスチナのヨルダン川西岸地区、ヘブロンという商業都市です。エルサレムから約30キロメートル南にあります。ここには大きなユダヤ人入植地があり、パレスチナの人たちも「あそこはタフ(過酷)な所だ」と言っていました。旧市街からちょっと離れた丘の中腹にあります。

工場の外観

工場の外観

−−どんな人たちが働いているのでしょう?

北村:織りは男性が8人ほど、縫製は女性4人で担当しています。私が工場に行くと、いつも手際よく手料理をふるまってくれます。パレスチナの人たちは、とてもホスピタリティーがあって優しい人が多いですね。

ラスト・カフィーヤをまとったパレスチナの少女

ラスト・カフィーヤをまとったパレスチナの少女

命がけの出荷

――工業で働く人たちは、どんな日常を送っているのでしょう?

北村:ヘブロンの“日常”は、私たちからすれば完全に非日常的だと思います。旧市街を歩くと、頭の上に金属製のネットが張り巡らされていました。どうして、こんなものが?と思っていたのですが、建物の上層階に移り住んだユダヤ人入植者が、下を歩くパレスチナ人に向かってゴミや糞尿の入ったビン、ひどい場合だとコンクリート片を落とすので、それを避けるために張られているんだそう。

危険きわまりないし、商売にならないので、旧市街はゴーストタウンのようになっています。そんな強硬派のユダヤ人と隣り合わせの生活を強いられているので、現地の人たちは本当に大変だと思います。ただ歩いているだけで、殴られるようなこともあるそうです。

ゴーストタウンのような旧市街

ゴーストタウンのような旧市街

北村:2014年はさらに厳しい状況でした。ガザが大規模な攻撃を受けた時です。そのきっかけとなったイスラエル人誘拐事件がヘブロンで起きたということで、街は一時完全封鎖されました。

ちょうど仕入れに行く予定だったのですが、職人から「飛行機が飛ぶかどうかも、街に入れるかどうかもわからないから、キヨミは来ない方がいいんじゃない?」と言われました。翌月に百貨店の出展が決まっていたので、どうしようか困っていたところ、職人が街にイスラエル兵がいないタイミングを見計らってトラックを運転して飛行場まで商品を運んでくれたこともありました。まさに“命がけの出荷”です。

普段から職人たちには「あなたの身の安全の方が大事だから、無理しないでね」って言っていたんです。届けられたカフィーヤを見た途端ありがたくて、ダンボール箱を前に泣いてしまいましたね。そして、ちゃんと日本のお客さまにお届けしなきゃって思いました。

優しさとたくましさに惚れ込んで

−−北村さんとカフィーヤの出会いは?

北村:友人がお土産に買ってきてくれたんです。緑色をベースに白や黄色の波模様が織りこまれた素敵なものでした。それまで「赤と白」や、よく故アラファト議長が頭に巻いていたような「黒と白」の組み合わせのものしか見たことがなかったので、こんなにあざやかなカフィーヤがあるんだ!とすっかり魅了されました。ストールとして使わないときは、風呂敷にしたりソファカバーにしたり、何でも使えちゃうんですよね。まず自分が惚れ込んで、日本でも広めたいと自然な流れで起業した感じです。

−−ラスト・カフィーヤで、パレスチナの人々の生活がどんなふうに変わっていけばいいとお考えですか?

北村:パレスチナは紛争のイメージが強いと思いますが、私はラスト・カフィーヤでそのイメージを変えたいんです。パレスチナの状況は確かにとてもタフでシビアです。でも、その中にも人々の営みがあり、生活がある。しかも彼らはとても明るくて、優しくて、たくましい。カラフルで肌触りのやわらかなラスト・カフィーヤは、そんな彼らをよく表現しているな、って思うんです。

織機のメンテナンスが急務

北村:少なくとも工場がこのまま破壊されることなく、パレスチナの織物文化が守られていけばいいですね。とはいえ、旧式の織機なので一体いつまで動いてくれるのか不安はあります。だから、近いうちに日本から織機のプロフェッショナルを連れていき、現地の職人にメンテナンスの指導をしてもらえればと考えているんです。メーカーのスズキに聞いたところ、ちゃんとメンテナンスすれば100年は使えるそうなので。今、織機のプロを探しているところです。

ラスト・カフィーヤを通して、パレスチナの人々の営みにふと想いを馳せていただける人がひとりでも増えれば、それだけでも何か変わるんじゃないかと思います。彼らが人としての尊厳を持ち、普通に暮らしていけるようになることを願っています。

■イベント情報
ラスト・カフィーヤの展示イベントが開催されます。
「風土が紡いだ世界の布展」
日時:6月15日(水)~20日(月)
10時~19時半(最終日は18時まで)
※6月19日(日)には15時から「パレスチナ・アマルのお話会」があります。
場所:名古屋栄三越 6階特設会場
〒460-8669 名古屋市中区栄3-5-1

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