もっとかわいく、きれいになりたい、自分をよりよく見せたい。“理想のアイデンティティ”を作り上げたいという願望は今や膨らむばかり。ファッションやメイクの技術ばかりでなく、プリクラやスマホで撮影したものを手軽に加工できる技術を駆使して、ますます簡単に、ますます高度に“理想の自分”を生み出せる時代となりました。

こうした“理想のアイデンティティ”を作り上げる技術全般を「シンデレラ・テクノロジー」と名づけて研究している東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員の久保友香(くぼ・ゆか)さん。10代、20代の女性がシンデレラ・テクノロジーを使いこなすことに未来を感じるという久保さんに、日本に大昔から見られた「盛りの文化」を中心に伺いました。

「盛る」は自分らしくあるための技術

久保友香(くぼ・ゆか)さん

久保友香(くぼ・ゆか)さん

——「盛る」という言葉もすっかり一般的になりましたが、最近ではつけまつげを重ねまくるとか、ネイルにストーンをゴテゴテつける、というのは落ち着いたように見えますよね。

久保:今の「盛る」は量より質、自分の希望が叶う状態を「盛れてる」と言うんです。若い女の子たちは「人と一緒はイヤ」「自分らしくあるために盛る」らしいんです。実際、つけまつげを3枚つけるにも、どうつけるかにこだわっていますね。私は「これとこれとこれ」と種類にもこだわり、さらに目尻だけ切り刻むとか、一部だけ長めのをつけるのとか、自分の顔に合わせ研究を重ねているんです。これが実は非常に日本的な「盛り」なんですよ。

まわりから浮きすぎない“個性”

——日本的とはどういうことでしょうか?

久保:私は最初、個性とは、海外で「アイデンティティ」と呼ばれるような目や肌、髪の色のような「生まれもった自分らしさ」のことだと思っていました。でも、日本の女の子たちにとっての個性とは、一定の型を守りながら、出していくものだと気づいたんです。トレンドのものを選ぶだけじゃ物足りないし、まわりから飛び抜けすぎてもいけない。そうした制約の中で差異を生み出すって意外と高度なんですよね。

女の子たちはすごく狭い範囲にささやかに存在する「違い」にこだわります。その「違い」は他人にはわからないくらい小さなものなんですが。そのあり方が、日本に昔からある“型”を重視する美に近いな、と感じています。

プリクラの「自主トレ」をする理由

久保:ささやかな「違い」にとことんこだわるという意味で、プリクラは最たるものです。プリクラなんて、誰でもかわいく写るようにメーカーさんは作っているんです。でも、女の子たちは「誰でもかわいくなる」という条件のもとでも、自分らしくかわいくあろうと自主トレーニングをするんですよ。

——プリクラに自主トレ!?

久保:実は、プリ機って機種ごとにシャッター・タイミングや画像処理がちょっとずつ違うんです。何度も繰り返すことで、「この機種ならこれくらいでシャッター・タイミングが来るから、こういう目の見開きをするといい」とコツがつかめてくるんですって。

江戸時代の美人画とプリクラの共通点

——なるほど、そういう個性の出し方なんですね……。

久保:江戸時代の美人画を見ると、作者もモデルも違うのにそっくりな顔が描かれていますよね。あれ、実はプリクラと同じだと思うんです。つまり、他人に見せるために一定の型の中で自分をデフォルメして表現する、という点で江戸時代の美人画と現代のプリクラは共通しているんですよ。

あゆが発明した「作ってきれいになる」文化

——自分をデフォルメした姿を見せたいという願望は、日本文化の中で脈々と受け継がれてきたんですね。その傾向に最近変化が出てきたとか。

久保:2006年くらいから女の子の意識に大きな変化が起きて、「もとからかわいい人よりも努力してかわいくなった人が好き」と言われるようになったんです。そのきっかけとなったのが、浜崎あゆみさんですね。彼女自身はもともときれいですが、彼女こそ、「作ってきれいになれる」というお手本を最初に見せた人なんです。

彼女のアイコンだった「アイラインの囲み目メイク」と「金髪」をほどこせば、みんなそこそこ“あゆっぽく”なれる。それが女の子たちの救いになったというか。

あゆ→つーちゃん→ブロガーへの流れ

久保:その次の世代の益若つばささんになると、同じように金髪や囲み目をするにも、自分で金髪にカラーリングしたり、髪を巻いたりしているところ、さらには100均のアイテムを使いこなしているところをブログで公開し始めます。これによって、ファンにとってより身近な存在になってきました。

——しまむらの服も愛用していましたよね。

久保:浜崎あゆみさんが何人もスタイリストやネイリストさんをつけてやっていたことを、益若さんは100均のアイテムを使い、全部ひとりの力でやろうとしたんですね。浜崎さん、益若さん、そしてその先に今のブロガー文化があるんじゃないかなって思います。これぞ大衆化の流れ=技術革新ですね。

「かわいい」はイノベーション

久保:大昔の美人画を見ても、平安時代のお姫様は権力者の娘。江戸時代の遊女にはお金持ちのスポンサーがついていました。特別な力を持っている人が「美人」という時代だったんです。

それがインターネットによって画像処理の技術が進化し、それを手にした一般の女の子がスターになれる時代になった。私はこれを「シンデレラ・テクノロジー」って呼んでいます。

技術の役割は、自然に抗うこと

——今はスマホで自撮りをして、SNSにアップして……ということが当たり前の時代ですもんね。

久保:そもそも技術の役割は、自然現象に打ち勝つことなんです。洪水を抑えようとか、野原のままじゃ住めないから建物を作ろうとか。「自然に逆らっていこう」というのが本質なんですね。

「特別な人にだけ許されるなんて、ずるい」っていう社会への反発心、あるいは自然への反発心を持っている人からしか技術は生まれてこないんです。そう考えると、今の日本でそういう反発心を持っているのは10代、20代の女の子たちなんじゃないかって。女の子は自分が持って生まれた「自然現象」に対して「ああなりたい」「こうなりたい」と抗おうとしているから。そんな女の子たちの反発心が技術革新やイノベーションにつながるといいな、と思います。

もっとシンデレラ・テクノロジーについて知りたい方はこちらの書籍をどうぞ。
シンデレラテクノロジー セルフィーマシン編

真貝友香