気になる「ニュースの数字」第6回

「子どもを育てる自信がない」 4割の親が「育児ノイローゼ」に共感

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女子アナが「産後うつ」で自殺

「子どもを育てる自信がない」

2010年、日本テレビのアナウンサー・山本真純さんが出産直後にマンションから飛び降り自殺をし、亡くなりました。その後、山本さんが「産後うつ」を発症していたことが兄の告白によりわかり、これが自殺の原因になったのではと話題に。「産後うつ」の恐ろしさが特に女性の間で周知されるようになりました。

今年4月、山本さんのケースのような「妊産婦の自殺」に関する初めての本格的なデータが公表されました。その東京都監察医務院と順天堂大の共同調査によると、2005年から2014年の10年間に東京23区で自殺した妊産婦の数は63人で、うち23人が「妊娠中」に、40人が「出産後1年未満」で自殺。さらに「出産後1年未満」で自殺した女性6割にうつ病などの精神疾患の通院歴があり、そのうち半数が「産後うつ」を患っていたのです。

アメリカでも産後うつが社会問題に

妊産婦が出血などにより死亡する数が10万人に約4人というデータがありますが、今回の調査を同様に10万人比にすると自殺数は約8.5人となります。他の病気や障害でなくなる妊産婦より、自殺で亡くなる数の方が2倍も多いのです。

厚生労働省の調査によると、「産後うつ」発症率は2001年で13.4%、2005年は12.8%、2009年では10.3%と推移しています。年々割合が減ってきているとはいえ、およそ10人に1人が「産後うつ」を発症しているのです。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)がアメリカの25州を対象に行った2011年の調査でも、10人に1人が産後のうつ症状を経験しているという結果が出ています。日本だけでなく、世界でも「産後うつ」は問題視されているのです。

「マタニティーブルーズ」は産後10日以内

では、「産後うつ」は具体的にどのような症状を引き起こすのでしょうか?

「産後うつ」は、同じく出産後の精神障害である「マタニティブルーズ」と混同されがちです。「マタニティブルーズ」は産後7〜10日以内にみられる一過性の情動障害とされています。症状としてあらわれるのは主に、不安感、焦燥感、抑うつ気分などで、通常は発症から数日以内に症状は消失します。発症頻度は30%と「産後うつ」よりも高いのですが、「一時的な生理的変化である」として特に治療は施されません。

「産後は誰でもそう」が母親を追い詰める

しかしながら「マタニティブルーズ」は長期間にわたり続いていると、「産後うつ」に移行する可能性があります。「産後うつ」の症状は妊娠以外の時期にみられる「うつ病」と変わりませんが、それに加えて育児の不安、家事の負担、夫への不満、焦燥感、子どもの健康への過剰な心配がのしかかります。

また、一過性の「マタニティブルーズ」と異なり、「産後うつ」は重症化すると症状が軽くなるまでに1年以上かかるとされています。このような状態を理解されず「単なるマタニティブルーズ」「妊娠後は誰にでもそういう不安はある」と見逃されてしまうのも問題です。最悪の場合、「産後うつ」を患っていると知らずに追い詰められ、自殺や子どもの虐待に至ってしまうケースもあります。

虐待死や心中につながるケースも

そう、「産後うつ」で命を落とすのは必ずしも母親だけではないのです。厚労省の取りまとめた「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」の第9次報告によると、子どもが心中以外の虐待により死亡した家庭の母親の7.1%、心中による虐待死に至った家庭の母親の6.9%が「産後うつ」であったことがわかっています。

50年前から指摘されている「育児ノイローゼ」

今から約50年前、1967年に刊行されたベストセラー育児書「育児の百科」において、著者の松田道雄はすでにこのように書いています。

「君は年々200人の母親が子殺しをすることを知っているか。彼女たちは簡単に『育児ノイローゼ』になるといわれるが、実は核家族時代の犠牲なのだ。育児という重労働を、ひとりでいままでの家事のほかにやらねばならないのだから、女の一生でいちばん骨の折れる時代だ」

ある研究によると「産後うつ」につながる出産後の孤独や、不安の原因とされる「エストロゲン」という女性ホルモンの低下は、人類が培ってきた「みんなで子どもを育てる」=「共同養育」という本来の子育てのスタイルと関係しているそうです。

ホルモンの減少は母親からのSOS

当然のことながらヒトの子どもは自立するまで長い時間を要するので、母親にはひとりでは負いきれない重圧がかかります。もし「共同養育」の環境が整っていれば母親が不安や孤独を感じても、血縁者などの周囲の人間がサポートすることで問題は解決します。

言い換えれば、エストロゲンの減少は母親から発せられる「子育てを助けて」というSOS信号なのです。しかし、核家族化が進む現代においては、この「共同養育」が非常に難しい状況になっています。厚生労働省による平成25(2013)年の全国の世帯構成ではおよそ60.1%が核家族であることがわかっています。

親の4割が「負担の偏り」に悩んでいる

また、2014年の「特定非営利活動法人 子育て学協会」の調査によれば、「育児ノイローゼ」に共感するとした男女の41.5%が、育児の悩みとして「父親母親どちらか一方に子育ての負担が偏っている」をあげています。

核家族化の傾向、育児負担の偏り、そして出産年齢の上昇により祖父母世代も老齢化し「共同養育」が叶わないこと。これらの要因が「産後うつ」になってしまった女性を自殺や虐待に追い詰めているのです。
 

(安仲ばん)

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