不妊治療患者支援NPO理事長・松本亜樹子さんインタビュー 第1回

なぜ不妊治療は「やめられない」のか? 女性を苦しめる「子どもがいて当たり前」という価値観

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なぜ不妊治療は「やめられない」のか? 女性を苦しめる「子どもがいて当たり前」という価値観

わが子をこの胸に抱く――。そんな日を夢みて、つらい不妊治療と向き合う女性たち。その数は、年々増加し、今や「6組に1組が不妊カップル」といわれている。さらに、何らかの不妊治療を受けている人は約50万人とも。しかし、体外受精などの高度治療を受けても、出産に至らないケースも少なくない。“これまでの努力をムダにしたくない”“次こそきっと”――そんな思いから、「いつやめるのか」の決断が難しいといわれる不妊治療。いったいなぜ“やめられない”のか。

不妊治療のやめどき』(WAVE出版)の著者であり、不妊患者や体験者の支援を行ってきたNPO法人Fine理事長の松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに話を伺った。

【松本亜樹子さんへのインタビュー記事一覧はこちら】

「不妊を心配しているカップル」は3組に1組

――「6組に1組の夫婦が不妊カップル」という現状に驚きました。決して他人事とはいえない数字ですね。

松本さん(以下、松本):6組に1組というのは、実際に病院で治療をしている件数です。「もしかしたら不妊かも」と心配したことがあるのは、3組に1組というデータもあります。さらに、体外受精や顕微授精といった「高度不妊治療」によって生まれた子どもは、24人に1人。自分とは無関係だと思っている人もいるかもしれませんが、決してそうではないんですね。

――不妊治療にはどのようなステップがあるのですか?

松本:大別すると、①排卵のタイミングに合わせてセックスを行う「タイミング法」、②排卵時期に合わせ、採取した精子を直接子宮に注入する「人工授精」、③卵巣から卵子をとり出して、体外で精子と受精させる「体外受精」、さらに体外受精の方法の一つとして、顕微鏡で見ながら卵子の中に直接精子を注入する「顕微授精」という段階に分かれます。

体外受精の成功率は14%

――成功率はどれくらいなのでしょうか。

松本:例えば、近年増えている高度不妊治療の「体外受精」の場合、新鮮胚移植あたりの妊娠率は21%、出産率は14%です(「平成 26 年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告[2013 年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および2015 年 7 月における登録施設名]」より)。しかし、これはすべての年代を合わせた平均データ。現在、高度治療を行っているのは30代後半から40代の方が多いので、確率はさらに厳しくなってしまいます。不妊治療を行う方の年代は年々上がっており、40歳を過ぎて初めて治療にくる人も少なくないんですね。「Fine」を訪れる方も、ここ7~8年で5歳ほど年代が上がっているように感じます。

早めに手を打つ今の20代、対して40代は……

――とはいえ、数年前から卵子の老化に関する報道も増え、妊活をする女性も増えましたよね。情報の周知はだいぶ進んできたのでは?

松本:そうした情報をしっかりキャッチした20代の若い方たちの出産は増えていると感じています。ただ、40代で不妊治療をする人が増えているという現状を見ると、本来届かなくてはいけないところに情報が行き届いていない気がします。晩婚化で結婚が遅い上、責任あるポジションに差し掛かって仕事が楽しくなる年代でもあり、出産を考えるのが後回しになってしまう。そうした人たちが出産年齢のリミットで病院に駆け込むケースも多いんですね。

治療中のメンタルは「ジェットコースター状態」

――年代が上がるほど、「治療のやめどき」を意識せざるを得なくなると思うのですが、決断をするのはなかなか難しいようですね。

松本:「これまでの努力をムダにしたくない」「今さらやめられない」「次こそきっと」と、皆さん口を揃えておっしゃいます。治療をスタートする時には授かると信じていますから、「いつやめよう」というプランを立てから不妊治療をする方は少ない。

治療中の気持ちは、よく「ジェットコースター状態」といわれます。ようやく卵が育って、受精して分割して、というプロセスの最中も、ドキドキです。どこで止まってしまうかわからないからです。それが、一つひとつ段階をクリアして、自分のおなかの中に戻せて、「ああ、これでついに妊娠する!」と喜び、まだ見ぬ未来に思いを馳せていたら、ダメになってズドーンと落ち込む。

この繰り返しですから、精神的にものすごく疲れてしまうんです。私自身もまさにそうでしたが、そうなると、どうしても目の前の治療のことでいっぱいいっぱいになって長いスパンで物事を考える余裕がなくなる。「妊娠すること」だけが目標になってしまい、長い人生のライフプランを組めない思考回路に陥ってしまいがちなんです。

――出口の見えないトンネルのようですね。

松本:まさしくそんな心境です。残念ながら流産してしまっても、「1回は妊娠したのだから次はきっと」と、余計あきらめがつかなくなる場合も。10年間で1000万円を費やした方もいます。やめ時を決めている人でも、スパッとやめられるというケースはなかなか少ないですね。

「子どもがいて当たり前」という価値観を見直す

――「やめどき」に悩んで心が疲れきってしまう前に、できることはありますか?

松本:できれば最初から「いつまでにどうなりたいか」を夫婦で決めておくといいですね。ここまでは何も考えずに頑張ろう、でもここまで来たら1回立ち止まって考えようといった「階段の踊り場」を作っておく。そうでないと、ひたすら上り続けてしまうんです。「階段の踊り場」を作ることで、“まだ登るか、ここで降りるか”ということを考えることができます。お金や年齢、治療期間、あるいは病院を何軒変わったらやめる、あるいはすぐにやめなくてもいいけど、いったん立ち止まって考える、ということです。何を区切りにするかは人それぞれ。それは夫婦で話し合えばいいと思います。

不妊治療を頑張る人のなかには、「子どもがいて当たり前」という価値観を持っている人も少なくありません。そうなると、なかなか新しい道を模索できない。「なぜ子どもが欲しいのか」をもう一度自分と向き合って考えてみることで、別の選択肢が見えてくることもあります。この先の人生プランについて、夫婦で話し合ってみることが大切です。

松本亜樹子さん

松本亜樹子さん

松本亜樹子(まつもと・あきこ)
NPO法人Fine理事長。一般社団法人日本支援対話学会理事。長崎県長崎市生まれ。コーチ、人材育成・企業研修講師、フリーアナウンサーとして全国で活躍。自身の不妊の体験を活かして『ひとりじゃないよ!不妊治療』(角川書店、共著)を出版。それをきっかけに2004年、NPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜を立ち上げる

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