貧血という言葉を聞いても、「女性によくある不調のひとつでしょ?」と受け流してしまう人は多いと思います。ところが貧血は、単なる不調ではなくれっきとした“病気”なのです。2014年にハフィントンポストで配信されたコラム「日本は『貧血大国』だ――妊娠を考えている女性は、貧血の恐ろしさを認識してほしい」が大きな反響を呼び、『貧血大国・日本 』(光文社新書)を上梓した医師の山本佳奈(やまもと・かな)さん。これまで医療業界の中でもあまりスポットがあたることのなかった「貧血」という問題に真正面から斬り込む山本さんに、知られざる国民病の実態について話を聞きました。

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「餓死寸前」の私が直面した貧血という現代病

――山本さんが「貧血」という問題に直面した初めての出来事が、高校時代の壮絶なダイエットだったそうですね。

山本佳奈さん(以下山本):医学部受験を目指していた高校2年生のころ、「やせてキレイになりたい」という軽い気持ちで、1年間に20キロものダイエットをしたんです。マトモな食事を摂らず1日にビスケットを少し食べる程度の極端な食事制限で、ひたすら机に向かうだけの日々……50キロあった体重が、あれよあれよと30キロを切るまでになりました。

最後は歩くこともままならず異様なだるさや頭痛が続き、月経は不順に、肌はボロボロ、髪は大量に抜け落ち……病院へ連れて行かれたときは、医師から「餓死寸前です」とまでいわれ、即入院。病院から出られるまでに半年もかかりました。

――山本さんの例は極端かもしれませんが、この「ダイエット貧血」は女性にとってヒトゴトではなさそうですね。

山本:そうですね。ダイエットを特段意識していない女性でも、「朝抜き、昼サンドイッチにサラダ、夜はコンビニ弁当か外食」のような食生活があたりまえになっている人って結構多いと思うんです。1日の必要摂取カロリーを大幅に下回る食事や、栄養素の少ない加工食品づくしの食卓で“低カロリー&低栄養状態”が続けば、血液のもとになる「鉄」が不足し誰でも簡単に貧血になります。

飽食の時代なのに、終戦直後並みの低カロリー&低栄養状態

――貧血の原因の多くは、食生活にあると?

山本:貧血にもさまざまな種類があるのですが、多くは体内の鉄が欠乏する「鉄欠乏性貧血」が占めています。月経のある成人女性の場合は1日に10.4ミリグラムの鉄が必要ですが、これは鶏レバーの串さしを2本分、ほうれん草だと500グラム、つまりほうれん草5束の量に値します。

鉄は普段の食事でも意識しなければなかなか摂れないうえ、さらに1日の必要摂取カロリーである1800キロカロリーを著しく下回ると、ますます摂りづらい状況になります。低栄養状態の女性が、鉄だけ足りているという状況はとても考えにくいですから。

――この飽食の時代に、「栄養不足」で貧血……ですか。

山本:厚生労働省が発表したデータによれば、20代女性の1日の平均エネルギー摂取量は1628キロカロリー。これは、1946年2月時点(都市部)の1696キロカロリーとほぼ一緒。終戦直後の、極度の食料難で多くの国民が飢え苦しんでいた時代と同じなんです。

ダイエットに励む女性が多いことや、手軽に摂れる加工食品中心の食生活による慢性的なカロリー不足・栄養不足が大きく影響していると思います。

日本人女性の貧血率は発展途上国レベル

――貧血は「病気」なのでしょうか?

山本:貧血は、単なる不調ではなく正真正銘の病気です。少し医学用語を交えていうと、「体内の末梢組織に十分な酸素を運ぶだけの赤血球の量が維持できていない状態」を指します。

日本では50代以下の女性の22.3%が貧血。また妊婦さんの場合はもっとひどく30~40%が貧血を患っています。この数字は先進国の平均値18%を超え、むしろ発展途上国の56%に近いともいえる数字です。

――日本では、貧血に対する対策がとられているのですか?

山本:日本では白血病の研究・対策には力を注いでいますが、貧血に関してはほぼ無策。現場の医師たちの間でさえ「鉄剤を処方すればいい」くらいの認識ではないでしょうか。

諸外国では、「鉄が人間の体にとってきわめて重要な栄養素である」ということは周知の事実です。アメリカでは血液学会が貧血防止の啓蒙ポスターをつくったり、小麦粉やシリアル、砂糖や食塩などにも鉄を添加するなどの対策がとられていますし、中国やベトナム、タイでは学校給食に使う醤油などに積極的に鉄を混ぜています。

――自分が貧血かどうかわかる体からのサインはありますか?

山本:「あっかんべー」をしたとき目の下の結膜が白い、アイスや氷を無性に食べたくなるといった症状があらわれることもあります。

貧血かどうかは、血液検査をすれば一発でわかるのですが「病院まで行って血液検査をするのはハードルが高い」という人には「献血」をオススメします。事前の血液検査で貧血化どうかすぐにわかりますし、健康なら血液も提供できて一石二鳥です。

山本佳奈(やまもと・かな)
1989年滋賀県生まれ。医師。私立四天王寺中学・高等学校卒業。2015年3月、滋賀医科大学卒業、医師免許取得。同年4月より福島県の南相馬市立総合病院に勤務。大学時代から、医学博士・上昌広氏の下で貧血を中心に医療全般について研究している。

(江川知里)